途上国を支える日本の衛生技術 ウガンダではアルコール消毒が「サラヤ」と企業名で普及
47NEWS / 2023年10月13日 10時30分
新型コロナウイルスの流行後、出入り口や水回りにあるのが当たり前になったアルコール消毒剤。アフリカのウガンダ共和国では、日本で衛生用品の製造販売を担う「サラヤ」の製品が広まっている。現地生産が可能になった背景に、イギリスの植民地だった歴史のあるウガンダで、ジンの仲間の蒸留酒をたしなむ文化があった。「酒の原料があるなら、消毒剤も作れるに違いない」。製品が流通するようになってからおよそ10年。消毒剤そのもののことがサラヤと呼ばれるまでになった。日本の衛生概念や医療技術が海外の人々の暮らしを支えている。(共同通信=村川実由紀)
ウガンダの学校での手洗いの様子=2010年(サラヤ提供)
▽「一過性で終わらせない」
東アフリカにあるウガンダは人口4700万人。その半数近くが15歳以下だ。アフリカの他の国に比べて内戦は少なく、情勢は比較的落ち着いているものの、教育を受けておらず、雇用がなく、貧困に苦しむ人は多い。水を汲むために何キロも歩く子どももいる。清潔な水や石けんが不足しており、幼い子どもが感染症などで死に至るケースも珍しくない。
そんな国でサラヤが活動を始めたのは2010年。日本ユニセフ協会の手洗い普及事業に協賛をすることになり、ユニセフ側から提示された候補国の一つがウガンダだった。
サラヤの代島裕世取締役=9月6日午前、東京都港区
サラヤは戦後の日本の復興で手洗いの普及啓発をしてきた歴史がある。当初は寄付だけをしていたが、それでは手洗いやアルコール消毒の習慣は一過性で終わってしまう。石けんなどを日本から送り、現地の小学校や村に置いたとしても、盗まれたり、手洗いの装置を壊されたりするリスクがある。医療機関には少量の消毒剤があったが、現地の医療者は自分を守るために持ってはいても、医療行為ではほとんど使われていなかった。
「どうすればウガンダに『衛生』を根付かせられるのか」
医療機関に試験的に設置したアルコール消毒剤=2013年(サラヤ提供)
▽実証実験で効果を示す
現地を訪れたサラヤの取締役の代島裕世さんらは、「ワラジ」と呼ばれるジンの仲間の蒸留酒がウガンダで製造されている点に目を付けた。原料はサトウキビなどで、アルコール度数はおよそ40%もある。
「これを蒸溜すればアルコール度数70~80%の医療用のアルコール消毒剤もできると思った」。具体的には、砂糖を取り出した際の副産物からバイオエタノールを製造し、消毒剤にする。
2011年に現地に会社を設立し、日本から運んだ消毒剤の提供を始めた。医療機関でアルコール消毒はほとんど行われていない。効果を知ってもらうため、特定の病院に導入する実証実験をした。その結果、その病院では毎年3~5人ほど出ていた帝王切開後の敗血症、小児科の病棟での下痢の患者が数カ月間ゼロになった。
医療機関で使われる消毒剤=2018年
▽新聞の風刺画にも登場
一方、消毒剤を普及させるには輸送や値段の問題を解消するために現地生産する必要がある。取り組み中止の危機は何度もあったが、社内、社外の関係者を説得して2014年に現地生産を開始。「日本の医療現場で使われているのと同じものをメイド・イン・ウガンダでやっている」。 数年後、導入した病院内では「消毒した?」と言う時、こんな表現が日常的に使われるようになった。
「サラヤした?」
院内に置かれている消毒剤の装置に、最初は怖がって触ろうとしなかった人たちもごく普通に使うようになった。
「現地で一番読まれている新聞の風刺画にも「SARAYA」と書かれた消毒剤が描かれていた」。絵を見た代島さんは、消毒する習慣が定着したと実感したという。
ベトナムでシステムを持ち運ぶ様子=2022年(富士フイルム提供)
▽僻地でも使えるX線検査システム
途上国の国際保健(グローバルヘルス)の協力の強化は、5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)でも課題とされた。支援する日本企業の輪も広がっている。
例えば富士フイルムは、結核対策として軽量の持ち運べるハンドルのようなX線検査のシステムを開発。重さ約3・5キロ。スーツケースで運べるぐらいの大きさで、人工知能(AI)による診断のサポートも受けられる。専用の検査室も必要なく、バッテリーが内蔵されているため小さな村など僻地で検診することができる。これまでにパキスタンやベトナムなどおよそ70カ国で使われてきた。
ベトナムでの結核検診=2022年(富士フイルム提供)
富士フイルムによると、2022年2~4月にベトナムでこのシステムを用いた検診が約11000人を対象に行われ、陽性となった77人が治療に至ったという。
各社のこうした取り組みが世界の感染症に苦しむ人を減らしている。
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