ロシア、ウクライナが使用する非人道兵器「クラスター弾」は人生をどう狂わせるのか 難しい除去、17年後に被害の悲劇も…イスラエルが大量投下したレバノンになお数十万個
47NEWS / 2023年10月12日 10時0分
ロシアはウクライナ侵攻でクラスター(集束)弾を多用している。ウクライナも実戦投入し、双方で死傷者が出ていると報告されている。親爆弾から多数の子爆弾をまき散らすクラスター弾は、使用国にとっては広範囲を一気に制圧できる軍事的な利点があるが、民間人の犠牲が多い非人道兵器だ。2006年にイスラエルが大量投下したレバノン南部には数十万個が不発のまま残っているとされ、17年たった今も爆発が市民を脅かし続けている。(共同通信=日出間翔平)
▽土地を「汚染」、難しい完全除去
2020年の初夏。レバノン南部ナバティエ郊外の農家マハムード・ムーサさん(63)の小麦畑は収穫期を迎え、黄金色に染まっていた。ムーサさんは、そこで大きめの乾電池のようなものを見つけた。「またか」。拾い上げると途端に爆発し、左手の人さし指から小指までが吹き飛んだ。傷痕が閉じた後も気温が下がるとうずき、痛み止めの薬が手放せない。右目の視力はほぼ失った。
イスラエルは2006年、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとの戦闘で400万個ものクラスター弾を使用したとされる。ナバティエ一帯の住民にとって、不発弾の発見は珍しくない。ムーサさんも、これまでに15個は見つけた。最初はその都度当局に連絡していた。だが次第におっくうになり、自分で爆発させて「処理」するようになった。周囲の農家もそうしていた。経験則で、震動を与えなければ大丈夫だと思い込んでいた。「慣れと油断があった」と振り返る。
不発弾は雨が降れば重みで地面にのめり込む。目視できなくなり、一度使われたら完全な除去は難しい。ナバティエ郊外の住民によると、国連や軍、ヒズボラ、非政府組織(NGO)による除去作業は期間の経過とともに縮小され、近年はほぼなくなった。住民は「土地の汚染は終わらない」と諦観している。
クラスター弾の不発弾で失った指先を見つめるマハムード・ムーサさん=7月28日、レバノン南部ナバティエ郊外
▽不発弾「気を付けるしかない」
指を4本失ったムーサさんは、今後も不発弾が残る土地で農業を続ける意向だという。「農地を捨てれば生活できない。離れるわけにいかない」からだ。もし再び不発弾を発見したらどうするのかと尋ねると「気を付けるだけ。できることはそれしかない」と話した。
首都ベイルートにあるヒズボラ系のリハビリ施設は、これまでに子どもを含め120人以上のクラスター弾による負傷者を受け入れ、治療に当たってきた。今年2月にも鉄くずを拾い集めていた男性(21)が不発弾の爆発で大けがを負ったという。
匿名を条件に取材に応じたレバノン軍関係者は、イスラエルがクラスター弾を撃ち込んだ土地の約9割では除去が完了したとする一方、不発弾は約50万個残っていると推定されると語った。イスラエルが使ったクラスター弾が展示されているヒズボラ運営の博物館の男性ガイドは「敵は投下した場所や数を明らかにしていない」と説明した。
▽後遺症に苦しむ負傷者、大国に不信感
クラスター弾の規制や被害者救済に取り組む国際的なNGO「クラスター弾連合」(CMC)は今年9月、2022年のクラスター弾による死傷者が8カ国で1172人に上ったと明らかにした。2010年にクラスター弾禁止条約(オスロ条約)が発効後の年間被害で過去最悪になった。うち死者312人、負傷者604人は、ウクライナに集中した。
オスロ条約には日本を含む110カ国以上が加盟しているが、米国やロシア、ウクライナは加盟していない。
米国はロシアの侵攻後、ウクライナへのクラスター弾供与を決定した。国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は「効果的な使い方」がされていると述べた。バイデン政権はロシアが使用しているものと比べ不発率が極めて低いと強調し、批判回避に努めている。
クラスター弾の不発弾で左脚を失い、義足を装着しているマハムード・アブドルナビさん。右脚にも重傷を負った=7月27日、レバノン・ベイルート(共同)
「確率の問題ではない。政治的な目的達成のために民間人の犠牲を黙認していいのか」。レバノンで起きた不発弾の爆発で左脚の太ももから下を失ったマハムード・アブドルナビさん(34)は米国への不信感を口にした。ロシアによる使用も非難した。
義足生活のアブドルナビさんは、ロシアとウクライナの市民の将来を心配している。「敵を弱体化させたいという意図は分かる」。だが不発弾は戦闘が終わってからも「静かに闇に潜み、無差別殺人の機会をいつまでもうかがい続ける」と指摘した。
クラスター弾で負傷後、リハビリしていた時の写真を示すマハムード・アブドルナビさん=7月27日、ベイルート
外部リンク
- 死者を抱いて泣き叫ぶ人、がれきだらけの街…トルコ・シリア大地震、被災者が語る凄まじい惨状 復興は大幅遅れ、「難民」にもなれず
- 「このままでは手遅れになる」過疎地の限界は人口4千人、高齢化率45% 分析した官僚が故郷の町長になって7年ぶり人口増、何をした?
- 「ちょっと操作すれば顧客満足度1位にできます」企業が欲しい〝称号〟つけ込む市場調査会社 はびこる違法広告、消費者庁が問題視
- メタの新型ゴーグル端末「Quest3」発売、部屋に地球外生命体?MRゲームを体験 【速報レビュー】ヒット商品の後継機、アップルと対決へ
- 200勝の記念球は入団交渉の「道具」に・東尾修さん プロ野球のレジェンド「名球会」連続インタビュー(27)
この記事に関連するニュース
-
レバノン南部、イスラエル攻撃で9万人避難=住民「未来見えない」
時事通信 / 2024年6月16日 14時21分
-
ヒズボラ、イスラエル軍事施設9カ所攻撃 昨年10月以降で最多
ロイター / 2024年6月14日 1時43分
-
国土4分の1が地雷に汚染されたウクライナ、日本製除去機に熱視線…復興を後押し
読売新聞 / 2024年6月11日 13時11分
-
ヒズボラ、イスラエルにドローン編隊を発射
ロイター / 2024年6月4日 2時17分
-
地雷などで673人負傷 子ども80人、警戒呼びかけ
共同通信 / 2024年5月30日 6時6分
ランキング
-
1ウクライナ平和サミット、領土一体性の原則など共同声明を採択…インドや南アは支持表明せず
読売新聞 / 2024年6月16日 22時36分
-
2ロシア機、バルト海でスウェーデン領空侵犯
AFPBB News / 2024年6月16日 16時55分
-
3イスラエル、ガザ軍事活動を一部停止…支援物資搬入増へ国際的批判に配慮
読売新聞 / 2024年6月16日 22時48分
-
4ロシアの拘置所で男ら立てこもり…特殊部隊により制圧 「イスラム国」と関係か
日テレNEWS NNN / 2024年6月16日 18時31分
-
5不明邦人の捜索一時中断=遺体はガイドの平岡さんか―パキスタン
時事通信 / 2024年6月16日 21時21分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください