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岸田首相は支持率アップを期待していなかった?「不発」だった内閣改造 改めて分析したら見えてきた「内向き人事」の実態・データで読み解く政治(3)

47NEWS / 2023年10月13日 11時0分

岸田文雄首相(前列中央)と第2次岸田再改造内閣の閣僚ら=9月13日、首相官邸

 岸田文雄首相は9月13日に内閣改造を実施し、第2次岸田再改造内閣を発足させた。物価高やマイナンバーカードを巡るトラブルなどで支持率が低迷する首相にとって、改造は国民に人心一新をアピールして政権浮揚につなげるチャンスだった。
 だが、そんな好機も「不発」に終わった。共同通信が9月13、14日に行った緊急電話世論調査で、内閣支持率は39・8%(前回8月19、20日は33・6%)。調査方法の変更もあるため単純比較はできないものの、新内閣や改造内閣発足後の支持率としては、自民党が政権を奪還した2012年以降で最低だった。他の報道各社の世論調査でも目立った上昇は見られなかった。
 公明党の山口那津男代表は9月24日に放送されたBS朝日番組で、原因は人事の内容にあると指摘している。「自民党の派閥推薦を多く採ったと言われている。内向きで国民にアピールしきれなかった」


 国民の支持を取り戻すせっかくの機会に、「党内向け」に傾斜したというのも不思議な話だ。だが確かに、過去のデータとも比べながら改めて顔触れを分析すると、刷新感を出したと思われる部分も含めて首相自身の足場を固める意図が透ける。
 結局、今回の内閣改造で首相は何がしたかったのだろう。専門家はこんな見方を示している。「来年秋の自民党総裁選に向けた党内対策が優先で、支持率アップには期待していなかったのではないか」(共同通信=中田良太)

 ▽派閥バランスへの配慮は従来通りだが、重要ポストの留任が目立った

 まず、今回の人事を派閥の視点から振り返ってみる。
 自民党総裁でもある首相にとって、党内の各派閥に閣僚ポストをどう割り振るのかは重要なポイントだ。バランスを欠けば、冷遇された派閥に不満がたまり、党内基盤の不安定化につながりかねない。
 そのため、派閥への配慮は珍しいことではなく、安倍晋三元首相や菅義偉前首相も首相在任時は一定の配慮を見せてきた。
 今回は多い順に安倍派4人(前回2022年は4人)、麻生派4人(同4人)、岸田派3人(同4人、首相含む)、茂木派3人(同3人)、無派閥3人(同2人)、二階派2人(同2人)。残り1人は公明党だ。従来通り、派閥のバランスに留意した布陣と言える。


 同時に実施された自民党役員人事の顔触れまで見てみると、入閣ゼロだった森山派も、森山裕会長が総務会長に就いた。
 ただ、派閥領袖や有力者の重要ポスト留任が目立った点が、刷新感を損なわせた面は否めない。内閣では松野博一官房長官(安倍派)、自民党では麻生太郎副総裁(麻生派)や茂木敏充幹事長(茂木派)、萩生田光一政調会長(安倍派)が留任した。前回2022年の人事では、政調会長を交代させていた。

 ▽最多タイの女性5人入閣も「かすんだ」、副大臣・政務官は女性ゼロ。派閥の意向尊重の結果?

 今回の内閣改造における注目点の一つは、女性閣僚が歴代最多タイの5人となったことだろう。入閣したのは上川陽子外相、土屋品子復興相、加藤鮎子こども政策担当相、高市早苗経済安全保障担当相、自見英子地方創生担当相。2001年の第1次小泉内閣、2014年の第2次安倍改造内閣と並んだ。
 首相としては、歴代最多タイの起用を目玉に、自身が掲げる女性活躍を国民にアピールしたかったのかもしれない。


 だが閣僚人事2日後に行われた副大臣・政務官人事で台無しになってしまった。第2次安倍政権以降で初めて女性がゼロになったからだ。野党からは「国民の感覚からずれている」(立憲民主党・安住淳国対委員長)などと批判が噴出。自民党関係者も「せっかくの女性5人入閣が、かすんでしまった」と苦言を呈した。


 それにしても、副大臣・政務官は合計54人もいるのに、なぜ全員男性という布陣になったのか。関係者によると、人選は自民党の各派閥や公明党の推薦を基に、派閥バランスを考慮したという。各派閥の意向を尊重したら、結果的に男性ばかり選ばれたということなのだろうか。
 とはいえ、前回2022年は合計11人を任命した点を踏まえれば、ゼロとは落差が大きい。これまでの内閣改造でも、派閥からの要望は寄せられていたはずだ。
 ある政府高官は、別の事情も明かしている。「前回の改造までに女性を積極的に副大臣・政務官に用いた結果、まだ就いていない男性議員が多く残っている」


副大臣の記念撮影=9月15日、首相官邸


政務官の記念撮影。副大臣と合わせた計54人に女性は1人も起用されず、全て男性だった=9月15日、首相官邸

 ▽初入閣は11人。にじむ「待機組」への配慮

 今回の内閣でもう一つの特色として、初入閣が11人に上ったことが挙げられる。閣僚ポストの半数以上だ。
 初入閣が多ければ、政権は人心一新をよりアピールできる。党内からも、改造前に「女性や若手の登用で刷新感を打ち出してほしい」(自民党ベテラン)との声が出ていた。
 11人は、2012年以降の自公内閣の中でも多い。最多は2019年発足の第4次安倍再改造内閣と、2021年の第1次岸田内閣の13人。2018年の第4次安倍改造内閣が12人で、11人はこれに次ぐ。
 菅義偉前首相も初入閣の多さを評価している。9月19日、メディアの取材にこう語った。「女性閣僚が5人で過去最多と同じだが、初入閣が11人いたこともさらに特記すべきことだ」。ちなみに、2020年に発足した菅内閣の初入閣は5人、女性閣僚は2人だった。
 一方、初入閣させることは、派閥などの要望に応えて「入閣待機組」へポストを割り振るという内向きの側面もある。自民党における入閣の目安は衆院当選5回、参院当選3回以上と言われる。目安以上の当選を重ねても閣僚になったことがない人は、待機組とされる。
 今回、初入閣した閣僚のうち、待機組に該当しないのは衆院当選3回の加藤鮎子こども政策担当相、参院当選2回の自見英子地方創生担当相の2人。第1次岸田内閣では4人だった。今回は待機組への配慮が色濃いと言ってもいいだろう。
 こうした状況もあったからか、衆院議員の平均当選回数は7・4回と、2021年の岸田政権発足後で最も多くなった。

 ▽70代は20人のうち7人。2012年以降で「最高齢」内閣に

 ここまで振り返ってみると、冒頭の公明党・山口代表の指摘通り、今回の内閣改造は党内向けに傾いた感がある。
 そんな「内向き人事」は、結果的に閣僚の平均年齢を高めた。発足時で計算すると、首相を含めた20人の平均年齢は63・5歳。前回の62・7歳から上昇した。2012年以降の自公政権における比較では、2018年の第4次安倍改造内閣の63・4歳を超えて最も高くなった。


 今回の最高齢は武見敬三厚生労働相、斉藤鉄夫国土交通相、土屋品子復興相の71歳。最も若かったのは加藤鮎子こども政策担当相の44歳だった。
 閣僚20人のうち70歳以上は7人を占め、このうち4人が初入閣。それ以外では、60代が9人(うち初入閣3人)、50代は2人(同2人)、40代は2人(同2人)だった。

 ▽「首相は自分の総裁選対策ばかり考えていた」

 専門家は今回の内閣改造や一連の人事をどう見ただろうか。法政大大学院教授(現代政治分析)の白鳥浩さんは、首相の意図をこう推し量る。「来年秋の自民党総裁選で再選を目指す首相にとって『岸田降ろし』を防ぐのが最大の目的だった。国民ではなく、もっぱら党内の方を向いた人事だ」
 総裁選で当選するには、所属国会議員の票がかぎを握る。今回の人事における首相の最優先事項は、自分の再選に向けた支持固めや、党内派閥の有力者らライバル候補の押さえ込みだったという分析だ。


法政大大学院の白鳥浩教授

 その上で「総裁選対策に傾倒した結果、副大臣・政務官で女性がゼロになるなど、ちぐはぐな陣容になった。政権浮揚につながらなかったのは、国民が首相の考えを見透かしたからだ」と苦言。「首相も今回、支持率アップはそれほど期待していなかったのではないか」とも皮肉った。
 とはいえ、内閣支持率の低迷が続けば、総裁選での再選に悪影響を引きずりかねない。今後、支持を広げられる手だてはあるのか。白鳥さんの見解はこうだ。
 「まずは国民の方を向き、暮らしにきちんと寄り添うべきだ。民意をくみ取り、誠実に対話を重ねながら、経済政策などを地道に進めるしか道はない」

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