「どんな障害者でも、とにかく受け入れてしまう」グループホーム大手運営会社 事業拡大を優先、報酬高い重度者に狙い…現場で起きていたことは
47NEWS / 2023年10月17日 10時0分
障害者向けグループホーム(GH)大手運営会社「恵(めぐみ)」で、食材費の過大徴収や報酬の不正受給の疑いが明らかになった。名古屋市で事業を始めた同社は、ここ5年ほどで東北から九州まで各地に進出、大幅に施設数を増やした。なぜそんな急成長が可能だったのか。一方、元社員たちによると、事業の拡大を優先した結果、経験や知識のないスタッフが増加。対応の難しい障害者の支援に手が回らず、不適切なケアや虐待、事故が起きる悪循環に陥ったという。現場で何が起きていたのか。(共同通信=市川亨、岩原奈穂)
名古屋市にある恵の西日本支社=2023年9月14日
▽次々と事業展開、5年で120カ所に
恵が最初のGHを名古屋市で始めたのは2018年のこと。「ふわふわ」という名称で愛知県を中心に次々と数を増やし、わずか5年ほどの間に12都県で約120カ所を運営するまでに急成長した。
GHだけでなく、通所施設や訪問看護ステーションなども展開。主な利用者は知的、精神障害がある人たちだ。
知的、精神障害の人たちは成人後も親と同居しているケースが多く、親は自分たちが亡くなった後、子どもがどうなるか不安を抱えている。ある元幹部社員は「恵の経営陣は『親亡き後、行き場のない人たちの住まいをつくるんだ』と言っていた」と語る。
一方、別の元幹部社員は「確かに表向きはそう言っていたが、本音は違う」と証言。「社長たちは『お金をもうけて、会社を上場したい。そのためにどんどん事業展開していくんだ』と話していた」という。
恵のグループホームや訪問看護ステーションの運営実態について話す元社員の2人=2023年9月17日、愛知県内
▽重度者向けに照準、「入れ食い」
障害福祉サービスを提供する事業所には、国や自治体から報酬(給付費)が支給される。サービス内容などに応じて細かく金額が決められていて、利用者の障害が重いほど報酬が多くなる仕組みになっている。
ある元幹部社員は「『報酬が高いから』と、支援態勢が整っていないのに、重度の人をどんどん入れていた」と話す。
恵の訪問看護ステーションに勤めていた看護師も同様の証言をする。「障害が重い場合、1日に複数回、訪問看護を入れることができ、訪問看護の報酬も増えるので、どんな障害者でもとにかく受け入れてしまっていた」
国の制度改正の波にうまく乗ったという面もある。
恵が運営するGHは多くが「日中サービス支援型」(日中型)と呼ばれるタイプ。これは、障害者の重度・高齢化に対応しようと、2018年度に厚生労働省が新たに制度化した類型のGHだ。
通常のGHでは入居者は日中、通所施設や就労先に通うが、日中型では昼間もGHにいて支援を受けることができる。
日中型は20年4月時点では全国に182カ所だったが、今年5月では840カ所と4.6倍に増えた。うち1割ほどを恵が運営している計算となる。
障害が重い人はその分、支援が難しく、受け入れる事業者は少ない。受け皿が少なかったニーズに応えた形となり、元社員によると、役員は定員がすぐ埋まる状況を「入れ食いだ」と表現していたという。
恵が展開する日中サービス支援型のグループホーム=2023年8月17日、千葉県四街道市
▽対応追い付かず、虐待も
だがその結果、現場では重い身体障害のある人、自閉症で強い行動障害がある人、うつ病の人など異なる種別の障害者が混在。支援が難しい人も多かったが、「次々と施設を増やしていった結果、経験や知識のないスタッフを雇わざるを得ず、とても対応が追い付いていなかった」(元社員)。
恵のGHがあったり利用者がいたりする自治体に取材すると、虐待疑いの通報が相次いでいたことも分かった。「GHのスタッフから暴言を受けたという通報があり、改善を指導した」(愛知県安城市)、「入居者の保護者から『不衛生でトコジラミが発生した』と通報があった」(愛知県東郷町)。他にも複数の自治体が虐待に関する相談や通報を受けていた。
そのうち千葉県野田市は、GHスタッフが入居者に対し暴言を吐くよう別の入居者をそそのかしていたして、心理的虐待と認定。愛知県岡崎市も虐待を認定したケースがあることが分かった。
恵が運営する通所施設(生活介護事業所)「リル」での利用者に対する虐待について、昨年、社員(当時)が別の社員に送ったLINEメッセージ(画像の一部を加工しています)
▽障害者に輪ゴム飛ばす
このほか、元社員ら関係者からは「GHのスタッフが入居者に輪ゴムを飛ばしてぶつけていた」「行動障害がある入居者を椅子で壁に押しつけていた」「外側から鍵を掛けた部屋に閉じ込めていた」といった証言が出ている。
事故も相次いでいたという。疾患がある高齢の障害者ら向け有料老人ホーム(名古屋市)に勤めていた看護師はこう証言する。「宿直のスタッフが2時間に1回巡視することになっていたのに、寝てしまって8時間巡視しなかった。その間にたんが詰まって窒息してしまったのか、亡くなった人がいた」
ほかの複数の看護師も「人員が少ないため、目が行き届かず転倒した人がいた」「本来とは違う薬を飲ませてしまう誤薬がよくあった」などと話す。
厚労省は日中型GHの質を担保するため、福祉関係者や有識者らでつくる各市町村の協議会がオープン前やその後も定期的にGHを評価する仕組みを設けている。
愛知県内の協議会では、恵のGHに相次いで厳しい評価が示されているが、ある協議会の委員は「いくら注文を付けても強制力はなく、事業所指定の要件を満たせば開設できてしまうので意味がない」とこぼす。
恵のグループホームに息子たちが入居していたときに受けていた訪問看護の契約書を示しながら話す間宮さん(仮名)=2023年8月7日、愛知県内(画像の一部を加工しています)
▽入居後、行動障害が激しく
「不適切なケアで息子は行動障害がひどくなり、薬漬けにされて命の危険を感じた」。そう訴えるのは、愛知県に住む間宮絵理さん(50)=仮名=夫婦だ。
間宮さんには、自閉症で重い知的障害がある双子の息子がいる。2人は2019年、同県春日井市のGH「ふわふわ春日井」に入居。当初は自分や他人を傷つける行動はほとんどなかったが、長男は21年夏から部屋の壁紙をはがし続けたり、間宮さんにつかみかかったりするようになった。
息子たち入居者は日中、GH隣にある恵の通所施設を利用。元社員らによると、この通所施設では「お仕置き部屋」と呼ぶスペースがあり、当時の所長がそこで利用者に暴行をしたり暴言を吐いたりすることが頻繁にあったという。
自閉症の人はストレスがたまると、行動障害が激しくなる傾向があるが、GH側は「原因は分からない」としていた。間宮さんは「そういうことが行われていたとは知らされなかった。息子はつらい思いをしても分かってもらえず、悲しく、苦しかっただろう」と憤る。
間宮さん(仮名)の双子の息子たちが入居していたグループホーム「ふわふわ春日井」=2023年8月7日、愛知県春日井市
間宮さん(仮名)の長男がグループホーム入居時に処方されていた薬の一覧
▽「こんな被害はもう最後にして」
GH側は長男を落ち着かせようと、抗精神病薬の服薬を増やしていった。相談がないまま、他の薬を含め10種類近くに増加。行動障害を理由に4カ月間、面会を見合わせ、久しぶりに会うと、長男はうつろな表情になっていた。間宮さんは自宅へ戻すことを再三申し出たが、止められたという。
この頃には、風呂や洗面所で水を大量に飲む行動も現れるように。水の飲み過ぎによる低ナトリウム血症でけいれん発作を起こして倒れ、2回救急搬送された。「命が危うい」。間宮さん夫婦はそう感じ、退去させた。
驚くことはまだあった。長男が壁紙をはがすなどして壊した部屋の修繕費の請求書が届き、金額を見ると約160万円。自分たちで見積もりを取り、恵と交渉した結果、約58万円になったが、3倍近い金額を請求されたことになる。
次男も今は退去し、長男は別の事業者が運営する県外のGHで暮らす。間宮さんは「人と自分を傷つけることだけはしないようにと、一生懸命育ててきたのに…。こんな被害はもう最後にしてほしい」。そう涙をにじませた。
間宮さんの長男のケースについて、恵本社は取材に対し「利用者の個人情報に関わるため、お答えできない。調査すべきことはしっかり調査している」と回答した。
恵の本社が入るビル=2023年8月18日、東京都港区
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