「復興のシンボル」で伝統の祭りを… 特別な意義を感じた記者の予想は見事にはずれた 主催者が語る意外な理由と、メディアが陥りがちな「当てはめ」
47NEWS / 2023年10月21日 10時0分
きっかけは、同級生からの1本のLINEだった。
「今年のよいさ、鵜住居でやるみたいだよ」
よいさとは、岩手県釜石市で毎年夏に開かれる祭り「釜石よいさ」のことだ。鵜住居は、東日本大震災で市内最大の被害が出た地区。被災した学校跡地につくられた「釜石鵜住居復興スタジアム」は4年前のラグビーワールドカップ(W杯)の会場になった。
釜石の夏の風物詩が、復興の象徴的な場所で開催される―。震災からの再生の足跡を残そうと定期的に取材している釜石出身の私にとって、特別な意義を感じずにはいられなかった。だが取材に訪れると、主催者側は違う思いを抱いていた。(共同通信=帯向琢磨)
開催前日の釜石鵜住居復興スタジアム=9月22日、岩手県釜石市
▽何度も「寂しいですよね」
よいさは1987年、新日本製鉄釜石製鉄所の高炉休止を受け、街に活気を取り戻そうと始まった。全国的に有名なわけではないが、企業や団体ごとに、市民が色鮮やかな衣装に身を包み、宵闇の街を踊りながら練り歩く姿は、中学2年まで過ごした記者にとっての原風景ともいえる。新型コロナウイルスの流行後は中止しており、今回は4年ぶりの開催だった。
9月22日。よいさを翌日に控えたスタジアムではスタッフが会場設営などにいそしむ一方、近くにある土産物屋は閑古鳥が鳴いていた。
「平日はいつもこんなもん。本当に明日よいさがあるのか不安になります」
店員の佐々木利香子さん(62)はため息交じりに話す。
店は前回のラグビーW杯前にオープンし、大会の前後は観光客であふれることもあった。ただ、そのときがピークだった。この店だけではない。釜石の復興自体、W杯を目指して急ピッチで進み、その後は停滞していると、多くの市民が口にしている。
「寂しいですよね」。佐々木さんは何度もつぶやいた。
2019年のラグビーW杯。釜石鵜住居復興スタジアムを訪れた観客とタッチを交わすボランティア(右側)
▽持続可能なイベントに
だからこそ、今回のよいさは起爆剤になるのでは。そう期待しながら、その夜、実行委員長の小笠原景子さん(39)に会った。小笠原さんにとってよいさは、小学生の時、父が会社のメンバーと出て家族でにぎやかに参加したことが思い出だ。家にいるときとは違う表情を見せる父の姿も印象に残っているという。
これまでは客としての立場だったが、初めて主催側になった。
震災後、復興支援で来てくれた人と共に踊り、交流が生まれていたよいさも、時の経過とともに人が減った。コロナ禍で中止が続いたこともあり、方向性が見えなくなっていた。この先どうやって持続可能なイベントにしていくか。新たな課題が突きつけられていた。
春ごろに立ち上がった実行委員会は思い切った挑戦に出る。開催時期を、例年の8月の夜から9月の日中に変更。さらに開催場所を、中心市街地からスタジアムに移した。
だがその意図は私の想像とは違った。「復興のシンボルに、というわけではないんです」と小笠原さん。時期をずらしたのは熱中症対策のため。スタジアムにするのは予算削減のため、最善の策だと考えたからだという。
釜石鵜住居復興スタジアムで開催された釜石よいさ=9月23日、岩手県釜石市
▽利活用の在り方
その後、もう1人の実行委員長宍戸文彦さん(48)にも話を聞きに行った。やはり、スタジアムでの開催は復興を絡めたものではなく、合理性を追求したためだと強調する。フランスでのラグビーW杯が盛り上がっているタイミングでもあるがと水を向けると、笑ってこう言った。「全然意識してなくて、偶然です」
これまで30回以上積み上げてきた歴史を変えることに、市民からの反発もあった。「イメージが湧かない」「なぜ鵜住居で」。ただ、宍戸さんは「時代に合わせて変わっていくのは当然」との意志を貫き、その先も見据えていた。
「スタジアムの利活用も重要な課題。今回をきっかけに、もっといろいろなイベントを開いていきたい」
W杯のために新設されたスタジアム。オリンピックもそうだが、国際的なイベントで使われた競技場は、各地で跡地利用がうまく進まず、関係者の頭痛の種になっている例が散見される。釜石でも「まだ使われ方が物足りない」との声がある一方で、ラグビーの試合や練習の他、地域のグランドゴルフや小学校のマラソン大会、修学旅行の見学先にもなっている。
2022年度は81件の利用があり、市の担当者は「利用者はどんどん増えている」と今後の広がりに自信を見せていた。
実行委員長の宍戸文彦さん=9月23日、岩手県釜石市
▽「被災者根性では…」
いざ当日。開始2時間ほど前から、車や三陸鉄道に乗った市民が続々とスタジアムに集まってきた。海風がなびく中、企業や福祉法人、学校などのチームに分かれ、500人以上が太鼓や笛の音に合わせて舞を披露する。踊る人も見ている人も「サーサ、ヨイヤッサー」のかけ声で盛り上がった。
双葉小6年の三浦蒼人君(12)は赤い衣装にそろえてクラスで参加、話を聞くと笑顔を見せた。「みんなが楽しく踊るよいさは小さいときの憧れだった。広々としたところで踊れて良かった」
この小学校でPTAの学年委員長を務める高木未来さん(40)は感慨深げだ。「今の6年生は震災直後に生まれた。その子たちがこの場所で参加できたのは意味があることだと思う」
被災地の地元の祭りとして、もっと対外的に打ち出しても良いのではないか。無事の成功を見て、改めてその思いがわく。宍戸さんは「受け取る人がそう思うのはそれで良いのではないか」。だが小笠原さんは「震災のことをいつまでも引っ張りすぎても…」と思うのだという。
そう言われれば確かに、私の友人も数年前から「いつまでも被災者根性では駄目だ」と話すようになった。
悲劇を忘れず、次の災害に備えるために、被災地の取材や報道は必要だと考えている。だが、いつまでも被災地や被災者という枠に当てはめることに抵抗がある人がいることも事実だ。人々の率直な声を、今後も聞いていきたいと思った。
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