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消費者と作り手つなぎ食品ロス削減、口コミで利用者伸ばすエリア限定ECサイト パナソニックHDが藤沢市で運営

47NEWS / 2023年10月23日 10時30分

ECサイト「ハックツ!」を利用した稲垣乃理子さん。「農家がこだわった野菜を食べたいと思っていた」と話した=9月6日、神奈川県藤沢市

 農家やパン屋など作り手の地域を限定したECサイトの運営が神奈川県藤沢市で始まった。購入者は、指定された日に市内の商業施設まで商品を取りに来る。少し手間はかかるが、消費者と作り手を近距離でつなぐ場となり、地産地消の推進や食品ロスの削減につながっている。サイトを運営するのは、パナソニックホールディングス(HD)。冷蔵庫やエアコンから電気自動車(EV)の電池まで手がける総合家電メーカーが、大量生産、大量消費からの脱却を訴え、製品ではなくサービスで生活圏の支援に乗り出している。(共同通信=小林笙子)

 ▽注文の3日後に受け取り
 ECサイトは「ハックツ!」という名称で、5月に始まった。約20の生産者が参加し、有機野菜やコーヒー豆のほか、複数の商品が入った「お試しセット」を販売する。大々的な広告は打たず、住民の口コミで徐々に利用者数を伸ばしている。

 農産物を取り扱い、ネットで注文するという点は他のECサイトと同様だ。大きな違いは、1週間の内に注文日と受取日が指定されていること。日曜日までに注文し、3日後の水曜日に受け取る仕組みで、受注生産を実現した。食品ロスの発生を防ぐほか、消費者には新鮮な野菜や焼きたてのパンを届けることが可能となった。作る側にとっても在庫を抱える心配がなくなり、生産スケジュールを立てやすい利点がある。


集荷した野菜を注文に応じて袋詰めするスタッフ=9月6日、神奈川県藤沢市

 ▽地域がつながるきっかけに
 注文者が商品を取りに来る仕組みは珍しい。パナソニックHDの工場跡地に建てられた商業施設に受け取りスポットを設け、利用者は水曜日の午後に商品を受け取る。訪れたついでに住民の交流を促そうと、生産者を招いてのイベントも企画している。自宅への宅配も有料で選べるが、施設から約2キロ圏内の近隣住宅に限定している。

 ECサイトの運営を担うパナソニックHDモビリティ事業戦略室の芦澤慶之さんは「『ハックツ!』を通じて藤沢全体が盛り上がり、地域がつながるきっかけにしたい」と意気込む。あえて特定の地域に限定したサービスを提供することで、その地域への理解や愛着が深まると期待を寄せる。生産者の顔や商品へのこだわりを知ってもらおうと、作り手の紹介パンフレットを作成。芦澤さんは「生産者のファンづくりを進めることが、いずれは収益を上げることにつながる」と話す。


集荷した農作物を運搬するパナソニックホールディングスの芦澤慶之さん=9月6日、神奈川県藤沢市

 ▽「野菜作りに集中できる」
 9月上旬、藤沢駅から車で40分ほどの農園ではツルムラサキや白ナスが大きく育っていた。にこにこ農園(神奈川県藤沢市)の井上宏輝さん(46)は「配達や袋詰めを気にせず、野菜作りに集中できるようになった」と笑顔で話す。「ハックツ!」では出品者の負担軽減のため、サイトの運営者側が出品者まで赴き、商品を回収する。井上さんは「運搬コストの軽減につながった」と喜ぶ。


「野菜作りに集中できるようになった」と話す、にこにこ農園の井上宏輝さん=9月6日、神奈川県藤沢市

 背景には、藤沢市で農作物を販売する生産者の特徴がある。ほとんどが小規模農家で、これまではスーパーマーケットではなく直販所をメインに展開。収穫した野菜の陳列や商品の補充を自前で担う必要があり、負担になっていたという。

 にこにこ農園はこれまで、近所のレストランや住民などがメインの顧客だったといい、「配達が忙しいと十分な野菜作りができないこともあった」と振り返る。農園が住宅街から少し離れたところにあるため、「野菜を回収してくれるのは大助かり」とにっこり。にこにこ農園は年間100種類ほどの有機野菜を育てており、「こだわっている部分や野菜作りにかける思いを、サイトやパンフレットを通じて消費者に伝えられるのはうれしい」話した。

 ▽地元の有機野菜を気軽に購入
 「ハックツ!」を利用した会社員の稲垣乃理子さん(52)は、「農家がこだわった野菜を食べたいと思っていた」と話す。これまで有機野菜に関心があったが、農家を直接訪ねて野菜を購入するのはハードルが高いと思っていた。「地元の有機野菜を食べられるのはうれしい」とはにかむ。今後も継続して利用する予定で、「スーパーマーケットでは自分が使いやすいものを買うので、野菜の詰め合わせセットなど、何が入っているか分からないところを楽しみたい」と笑顔を浮かべた。


育てた野菜を収穫する、にこにこ農園の井上宏輝さん=9月6日、神奈川県藤沢市

 ▽課題は価格と品ぞろえ
 地域活性化につながる一手として有効に見えるが、浸透に向けては課題もある。価格と種類だ。小規模な農家や飲食店が主な出品者のため、スーパーマーケットなど大型店舗に比べると価格は割高で、品物の種類も少ないという。利用者が1回の注文で1週間分の食料を購入することは難しく、スーパーマーケットなどと併せて使う必要がある。

 受け取りスポットが現在は1カ所しかなく、時間も午後2~5時と限られており、サービスの拡充を求める声も多いという。スポットの増設や受け取れる曜日を増やすなどし、利用者数と出品者数をそれぞれ増やしていきたいとしている。

 現在の利用者数は500人程度。サイトを運営する芦澤さんは「エシカル(倫理的)な消費を求めている人に限られている」と指摘する。収益性を上げるには「少し価格が高くても購入したい人」を増やしていくことが必要だ。芦澤さんは「パナソニックはこれまで家電を作って家事の大変さを軽減してきた。今度は暮らしをアップデートしようという段階に入った。大量生産、大量消費ではなく、必要なものを必要な分だけ消費する、持続可能な生活を提案していきたい」と話した。


ECサイト「ハックツ!」で購入できる野菜=9月6日、神奈川県藤沢市

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