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「僕が見ていた世界は地獄のようでした」韓国のBTSが世界的スターになれた秘話 逆境バネに成長 〝兵役の壁〟乗り越える戦略も

47NEWS / 2023年11月6日 10時0分

2022年5月、米ホワイトハウスでバイデン米大統領と記念写真に納まるBTSのメンバー(所属事務所提供、聯合=共同)

 世界的な人気を誇る韓国の音楽グループ「BTS」は今年、デビュー10周年。弱小の芸能事務所に所属し、SNSでの中傷にも苦しんだグループが、どうやって逆境を乗り越え、ここまでの成功を収めることができたのか。事務所関係者やデビュー前から関わったプロデューサー、オフィシャルブックの監訳者らに取材すると、綿密な戦略が見えてきた。(共同通信=加藤駿)

※この記事は、筆者が音声でも解説しています。各種アプリで、共同通信Podcast【きくリポ】で検索してお聴きください。


斎藤英介さん

 ▽見た瞬間「ビビビッときた」
 BTSの日本進出に役割を果たした、音楽プロデューサーの斎藤英介さん。初めてメンバーの7人に出会ったのは、彼らがデビューする前だった。


 斎藤さんはレコード会社でサザンオールスターズらの宣伝を担当。1990年代には日本の芸能事務所アミューズで金城武さんらの売り出しを担った。2012年頃、仕事で訪れた韓国で1枚の宣伝写真がたまたま目に入った。「ブレザー姿の男子4人で、他のK―POPグループにない〝何か〟が、ちょっと気になった」
 数日後、写真の彼らが所属するビッグヒットエンターテインメント(現HYBE)の事務所を訪れ、出会った音楽プロデューサーのバン・シヒョクさんにこう誘われた。
 「斎藤、うちの防弾少年団を見に来たんじゃないの?ほとんど完成した曲があるから見てよ」
 聞けば「防弾少年団」はデビューに向けた準備中。近所の練習スタジオで彼らに会い、7人組グループと知った。最初の印象で「ビビビッときた」という。
 「パフォーマンスを2曲見せてもらったけど、もう完璧でした。その場で『契約しよう』と言ったら、バンも驚いていましたね」
 音楽的にはヒップホップを柱にし、他のアイドルたちとの明確な違いを出した。音楽作りにも予算をかけ、ロンドンに音源を出し、最後はロサンゼルスでミックスをして「世界水準」に近づけた。斎藤さんが圧倒されたのは、彼らのダンスだった。
 「ただ動きがそろっているだけでなく、セクシーで曲のノリが表現できている。ラップ担当が3人いて、ダンスもルックスもピカイチ。そんなグループはそんなにない。メンバーの努力もすごかった。みんな寮生活で、仲がとても良いんです」


BTS(BIGHIT MUSIC提供)

 ▽母は韓流、姉は東方神起、妹はBTS
 斎藤さんはBTSを日本で売り出す前に、韓国での活動優先を徹底させたと振り返る。「まず韓国で話題になってから、日本に持ってくる。若者の日韓の距離感は近くなっていましたから。ソウルから彼らの情報が伝わってくる方が、『本物感』があって良いと思いました」
 日本では、メインターゲットを女子中学生ら10代前半に定めた。理由は、彼女たちの家庭環境にある。当時の中学生は、母親が韓流ドラマのファン、姉はBTSに先行するK―POPグループ(東方神起など)が好き、という家族が普通に存在していた。そこで中学生たちにはBTS(防弾少年団)を好きになってもらおうと考えたという。
 「力を入れたのがライブです。当時、韓国で有料の単独公演を開けるのは一握りのグループだけ。多くは、テレビの公開収録を兼ねたイベントに合同出演して2、3曲を披露する。1曲1曲のパフォーマンスがすごいグループはいるが、それは『ショー』でしかない。ライブは自分たちだけで60分や90分やる。中だるみせず、場を持たせないといけない」
 全体的な構成をどうするか、疲れるタイミングで何をしゃべればいいのか…。「チームワークも、ライブの現場でしか学べない。彼らもその点はすごく理解してくれた」


公演でパフォーマンスを披露するBTS=2018年11月、韓国・仁川(聯合=共同)

 ▽北米市場へと続く「想定外のアイデア」
 BTSはライブ会場にもこだわった。すぐに「大きな箱」には出ず、ショーケース(お披露目)も数百人規模に絞った。最初のツアーも、小さい会場を回るところから始めたのは、明確な狙いがあったからだ。
 「汗が飛び散るライブ感を出したかったのと、ストリートから出て来てファンと一緒に一歩一歩成長していく、そんな物語を描きたかった」
 テレビ出演も日本デビューから1年後まで待った。「世間の話題になり始めた段階で出演すると、2倍くらいの効果があるんです」
 斎藤さんが担当したのは2017年まで。「正直に言うと、僕も日本、アジアでナンバーワンにはなれるけど、欧米の壁は越えられるかな、と思っていた」
 プロデューサーのバンさんは当初から「世界」を描いていたという。「日本での成功はうれしいが、もっと大きな成功を収めたい」。デビュー後2年半くらいのツアーで斎藤さんは「アジアに加えて南米でもやりたい」と聞かされていた。
 「想定外だったけど、すごいアイデアだと思った。米国にもラテン系の住民は多い。北米市場へと続く道を組んだのでしょう」


BTSのオフィシャルブック「BEYOND THE STORY」日本語版を監訳した桑畑優香さん

 ▽弱さも見せ、乗り越えた中傷
 アジアを飛び出し、世界でも爆発的な人気を得た要因は何か。SNSの戦略的な活用を挙げるのは、オフィシャルブック「BEYOND THE STORY」(カン・ミョンソク、BTS著)の日本語版を監訳した桑畑優香さんだ。
 BTSが最初にSNS戦略に手応えを得たのは、海外進出する前だという。
 BTSは、韓国でデビューしてすぐに爆発的に売れたわけではない。所属する芸能事務所HYBEは当時、規模が大きくなく、資金や影響力もなかった。地上波テレビへ売り込むことも簡単ではない。代わりに、BTSのメンバーたちは、ブログやユーチューブに自分の言葉で率直な心境をつづったり、飾らない姿を撮影した動画コンテンツを投稿したりすることをデビュー前からやっていた。SNSでは、初期段階から「テレビ番組に出たら新たにフォロワーを何人増やす」といった具体的な目標も決めさせていたという。
 これが世界規模のファン形成に役立った。桑畑さんが取材したサウジアラビアの女性は、BTSがデビューした2013年からARMY(アーミー、ファンの通称)になったという。SNSで偶然流れてきた動画を見ているうちに、すっかり魅力にハマってしまったのだそうだ。


BTSのオフィシャルブック「BEYOND THE STORY」日本語版。500ページを超え、内容に関連する動画やサイトを参照できる二次元コードも掲載

 ▽前例のない成功を手に前にして迎えた解散の危機
 SNSは、中傷を乗り越える過程でも威力を発揮した。
 売り上げが上昇カーブを描き始めた2015~17年、BTSはインターネット上で大規模な誹謗中傷に見舞われた。競争の激しいK-POPの世界で、中小事務所という不利な環境出身にもかかわらず、頭角を現し始めたグループに、他グループのファンの嫉妬や疑念もあったのか「たくさん売れたのは買いだめをしたからだ」などと、根拠のないバッシングが発生した。
 中には、BTSをアイドル業界の悪とでもみなすかのように、過去の言動を脈絡なく切り取って、「死ね」などと攻撃する投稿が共有されることもあった。
 大きな危機だったが、メンバーは表では笑顔で耐えた。ARMYは、対抗するようにグループやメンバーへの愛をネットで拡散、かえって一致団結したという。桑畑さんは指摘する。
 「弱さもためらわずに見せる姿勢が共感を呼び、ファン自身がメディアとなって拡散、世界的人気につながった面があると思います」
 メンバーがこれまでの歩みで内面に抱えていたつらい気持ちや葛藤は、オフィシャルブックで、これまでにないほど率直に明かされた。
 SUGA(シュガ)さんは数年もの間、中傷にさらされた当時を振り返り、こんなことを書いている。
 「僕が見ていた世界は、ひとことで言うと地獄のようでした」
 J―HOPE(ジェイホープ)さんは、米国での人気に本格的に火がついた2018年、あまりの多忙さと、アジア出身の音楽グループとして前例のない成功を手につかもうとしているプレッシャーから、解散の危機を迎えていたともつづっている。
 「BTSとして活動していく中で、本当に初めて、続けていけるだろうかと思うほど深刻な雰囲気でした」

 赤裸々な心情がつづられていることに、翻訳した桑畑さんも「ここまで書くのか」と驚いたという。関連する動画やサイトを見たことで「そうした感情が、いかにその時々の作品に昇華されているのかも分かりました」。 


2021年11月、アメリカン・ミュージック・アワードで最優秀アーティスト賞を、アジアの歌手で初受賞したBTSメンバーら=米ロサンゼルス(AP=共同)

▽「活動休止はプラスになる」
 世界的スターとなったBTSだが、また新たな壁が立ちはだかった。韓国の兵役だ。年齢制限があるため、メンバーは順次入隊。昨年6月、グループ活動の一時休止を発表した。
 K―POPの男性グループにとって、兵役に伴う芸能活動の空白期間は大きな問題だ。ファンに長期にわたって姿を見せられないために人気が失速したり、メンバーの足並みが乱れて脱退や解散に至ったりすることもある。
 「でも、BTSのメンバーはSNSコンテンツをうまく生かし、自分たちの『今』を発信できているように見えます」と桑畑さん。ファンとアーティストがオンラインで直接交流できるプラットフォーム「Weverse(ウィバース)」で、入隊したメンバーのJIN(ジン)さんやJ―HOPE(ジェイホープ)さんも時々、他のメンバーの投稿にコメントを付けている。
 BTSはこれまでも、逆境をバネにさらに飛躍してきた。未発表曲の公開やオフィシャルブックの出版など、ARMYが応援できる環境をつくり続けている。だから「相変わらずARMYは忙しいんです」。
 日本での展開を支援したプロデューサーの斎藤さんも前向きに捉えている。「グループ活動の休止はプラスになると思います。私が以前、担当したサザンオールスターズでも、何度か休止期間がありました。メンバーがそれぞれの活動を経て集まると、新たなパワーが生まれる。BTSもさらに大人に、音楽的にも豊かになった姿が見られるのではないでしょうか」


2022年4月、米グラミー賞の式典で「Butter」を披露したBTS=米ラスベガス(AP=共同)

 ▽リアルタイムの投稿、ファンの日常へ浸透
 BTSらが所属するHYBEは、今や韓国の大手芸能プロダクションになった。アーティストの育成、マネジメントのみならず、ウィバースにも力を入れている。他の事務所にも門戸を開き、今年5月以降、AKB48、imase、ちゃんみならが参加。日本進出も本格化しつつある。IT技術の力で多彩な体験を可能にする「世界規模のファンビジネス拠点」を目指すという。
 BTSのファンで、東京都内に住む美容師の20代女性も情報を得るため、2年ほど前からウィバースを利用している。「推し」のJINさんが入隊後も他のメンバーの投稿に返信していることが分かり、安心できるという。「いま何してるとか、リアルタイムで投稿があり、身近に感じる。今では自分の日常です」
 「ファン活動をより楽しく、アーティストとのコミュニケーションを円滑にするのが狙いです」。日本法人「HYBE JAPAN」の最高経営責任者(CEO)、ハン・ヒョンロック氏は4月、東京都内の説明会でそう語った。2023年8月時点でウィバースの月間利用者は約1千万人に上る。
 BTSが切り開いた世界への道。そこから新たなエンターテインメントの楽しみ方が生まれつつある。

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