対立の地に響く銃声、パレスチナ人男性は崩れ落ちた 病気の症状落ち着いた27歳女性は行方知れずに…イスラエルにも苦悩
47NEWS / 2023年10月29日 11時0分
地中海を臨む中東の国イスラエルを、国際社会が注視している。占領地であるパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが10月7日早朝、突然イスラエル側を大規模攻撃。戦闘員はガザに隣接する居住区の市民らを次々と殺害し、200人以上を連れ去った。
世界は当初、痛ましい被害を前にイスラエルの人々に圧倒的な同情を寄せたが、その雰囲気は時間を経ずに変わっていったようにも見える。イスラエル軍の連日の空爆でガザ市民の犠牲は24日時点で5700人以上と伝えられ、「国際人道法違反が起きている」(国連のグテレス事務総長)との声が高まる。
10月10日にイスラエルに入り、12日間にわたり取材した。家族や友人を失い途方に暮れる人々に出会った一方、イスラエルの占領地では抗議活動のパレスチナ人男性が狙撃され、崩れ落ちるのを目撃した。悲しみと憎しみの交錯する現場の様子を報告する。(共同通信=菊池太典)
▽「そんなにユダヤ人が憎いのか」
崩れかかった家屋の扉から中に入る。「これを見てくれ」。同行の兵士が指さした台所の床には、べったりと血痕が残っていた。イスラエル南部ベエリは、ハマスの襲撃を受けたキブツ(集団農場)の一つだ。あちこちの住宅の壁が黒く焦げ、放棄された乗用車の銃弾の跡が生々しい。人口約千人のコミュニティーは100人以上の住民が殺害され、壊滅した。
通りを歩くと随所に異臭が漂う。少なくとも8遺体が白い袋に入れられ、野外に横たわっている。軍によると、イスラエル側との交戦で死亡したハマス戦闘員だ。私が訪れたのは11日。その前日まで銃撃戦が続いていたという。
住民の遺体は既に収容が終わっていた。遺体捜索のボランティアに従事した会社員メンディ・ハビブさん(43)は「一生忘れられない悲惨な光景だった」と振り返った。
遺体捜索を振り返るメンディ・ハビブさん=10月11日、イスラエル南部ベエリ近郊(共同)
「後ろ手に縛られたまま焼かれた子どもの遺体の横で、母親とみられる女性が無数の銃弾を浴び、力尽きていた」。地下室に集めた住民を手りゅう弾で一度に殺害したとみられる現場もあったという。ハビブさんは「そんなにわれわれユダヤ人が憎いのか」と、ハマスを呪った。
イスラエル南部ベエリで、台所の床に血痕が広がる家屋=10月11日(共同)
▽「ガザで生きているはずだ」
ガザから離れた地域でも、イスラエルは悲しみに包まれていた。「侵入者との銃撃戦を勇敢に戦った」。軍服姿の中年男性が部下の最後を沈痛に語る。エルサレム郊外の軍用墓地では、南部でのハマスとの戦闘で死亡した兵士(22)の葬儀が執り行われていた。参列者の中には、共に戦ったとみられる、担架に乗せられた負傷兵の姿もあった。兵士の母親は「早く治ることを祈っています」と声をかけた。
兵士の葬儀で涙をこらえる参列者ら=10月12日、エルサレム(共同)
葬儀は40分ほどで終わった。遺族らが退席すると、間を置かずに次の葬儀のための参列者が会場に集まった。
行方不明者の家族は苦悩していた。相当数がガザに拉致されたことが明らかな一方、損傷が激しく身元確認が進まない遺体も多い。「遺体が見つからないということはガザで生きているに違いない」―。生存を信じて連日、商都テルアビブなどで早期帰還への協力を求めるデモを繰り返す。
道路脇の柵に張られた行方不明者の情報を伝えるちらし=10月16日、イスラエル中部テルアビブ(共同)
「諦められない」。アドゥバ・グッドマンさん(38)は中部クファルビンヌンの自宅で、妹タマルさん(27)への思いを語った。タマルさんはガザ境界付近での音楽フェスティバルに友人4人と参加。襲撃を受け2人は遺体で見つかったが、タマルさんを含む3人は行方が分からない。
タマルさんは何年にもわたり苦しんだ消化器疾患の症状が落ち着き、弁護士を目指して猛勉強中だった。アドゥバさんは嘆いた。「妹は人生を取り戻し始めたばかりだったのに」
タマルさんの身を案じる姉のアドゥバさん(左)と母のヤイラさん=10月16日、イスラエル中部クファルビンヌン(共同)
▽「イスラエルこそ最悪のテロリスト」
ガザとは別に、イスラエルが占領するもう一つのパレスチナ自治区ヨルダン川西岸地域。イスラム教の金曜礼拝があった20日は、パレスチナ自治政府があるラマラでイスラエルに対する抗議デモが行われた。400人ほどのデモ隊が「アラー・アクバル(神は偉大なり)」とシュプレヒコールを上げながら行進する。ハマスの旗を掲げる参加者もいた。
ハマスの旗を羽織ったパレスチナの少年=10月13日、パレスチナ自治区ラマラ(共同)
この日までにイスラエル軍はガザ北部への集中攻撃を予告し、南部に移動するよう住民を脅迫。一般人を巻き込む手法に国外からは疑問の声も上がっていた。
イスラエルはナチス・ドイツの迫害を受けたユダヤの人々が1948年に建国した。この際、元から住んでいたパレスチナ人は移住を余儀なくされたことが、長い敵対関係へとつながる。西岸とガザは分断され自由な往来ができないが、西岸のパレスチナ人はガザの同胞に対するイスラエルの所業に憤る。
終点の広場に到着すると、デモ隊の一部が遠くの丘にあるイスラエル軍基地に向けて投石を始めた。はるか先の高台の基地には届きそうにない。
パァン―。高台の方角から乾いた爆発音が響き、私から数十メートル先で投石をしていた男性が足を押さえて倒れた。「撃ってきたぞ!」。辺りが騒然とする中、待機していた救急隊員たちが男性に走り寄り、救急車に担ぎ込んだ。
撃たれた男性に走り寄る人ら=10月20日、パレスチナ自治区ラマラ
思わず、望遠レンズを装着したカメラで高台を撮影する。画像を拡大すると、ライフルの銃口をこちらに向ける兵士の姿がはっきり写っていた。静寂の後、デモに参加していた女性(22)が顔をゆがませて訴えてきた。
「パレスチナ人の命は自分たちの命よりも軽いと思っているに違いない。人を簡単に撃てるイスラエルこそ世界最悪のテロリストだ」
デモ隊側に銃口を向ける兵士ら=10月20日、パレスチナ自治区ラマラから撮影
▽「パレスチナ人一掃のチャンス」
「ハマスと一般のパレスチナ人を同一視するつもりはない」、「どうやれば共存の道が見つかるのだろうか」。取材を通して多くのイスラエルの人々から、対立の歴史を平和的に解消したいとの願いを聞かされた。ただ強硬な意見があったのも事実だ。「今回はガザのパレスチナ人を一掃するチャンスだと思っている」。ガザ境界に近い南部ネティボトで家族と散歩していた休暇中の兵士(21)はこう言い放った。
イスラエル南部スデロトから撮影したガザ方面で立ち上る煙=10月21日(共同)
取材最終日の21日、ネティボトにほど近い境界の町スデロトの外れからガザを臨んだ。イスラエル側の砲撃が絶えず鳴り響く。かすんで見えるガザの町並みの上には、戦闘によるとみられる黄土色の煙が現れては消え、また立ち上っていた。
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