カカオ原産地で横行する児童労働、「ブラックサンダー」は撤廃目指し調達先を変更 日本のチョコ会社で進む現地の農業支援と環境改善
47NEWS / 2023年11月3日 10時0分
チョコレート菓子「ブラックサンダー」を主力商品とする有楽製菓(東京)は2020年、自社製品に使う全てのカカオ原料を児童労働に頼らないものにすると発表した。調達先の変更は簡単ではなかったが、全製品の約96%の原料を切り替えた。河合辰信社長は「商品を通じてお客さんに笑顔を届けたいと思ってやってきたが、その過程で誰かの笑顔を搾取しているとしたら矛盾だと思った」と話す。
チョコレートの原料カカオを生産する西アフリカでは、子どもが学校にも行かず収穫などの作業に従事させられる児童労働が横行する。欧米の企業が先行していたが、日本の菓子メーカーの間でも児童労働に頼らないカカオだけを使用し、さらには現地農家に農業支援などを実施して労働環境の改善を手助けする動きが加速している。(共同通信=板井和也)
カカオ豆生産上位5カ国
▽150万人以上の児童が農作業に従事
有楽製菓の河合社長によると、調達先変更に取り組み始めたきっかけは、児童労働問題を専門とする認定NPO法人ACE(エース)を通じ、ガーナで学齢期の子どもが学校に行けずに労働を強いられている現状を聞いたことだった。ガーナは日本にとって最大のカカオ輸入相手国。鋭利な刃物で実を割ったり、重い袋を頭に載せて運んだり、農薬を散布したり…。危険な作業も多い。世界最大の生産国コートジボワールと2位のガーナだけで計150万人以上の児童が作業に従事しているとも言われる。
児童労働に従事させられカカオをなたで割る少年=2012年、ガーナ・アシャンティ州(ⓒACE)
既存の取引先に相談したが、「急にそんな原料は用意できないと渋い反応をされたり、コストが上がりますよと言われたりした」(河合社長)。原料を変えることで、商品の味が変わってしまう懸念もあった。
それでもただ1社、児童労働を排した原料を提供できると申し出た海外メーカーと新たに契約し、原料の一部を切り替えた。その後、切り替えられた国内メーカーも有楽製菓の本気度をくみ取り、児童労働に頼らない原料を供給するようになったという。こうしたカカオは農家への農業指導や、児童労働の監視活動などに対する支援金を上乗せして購入している。
有楽製菓は2025年までに全製品のカカオを児童労働に頼らないようにする目標を掲げ、ブラックサンダーは既に全て切り替えた。河合社長は「ゴールはこの会社が児童労働に配慮したものに切り替わることではなく、日本の業界全体が当たり前にそうなっていくこと」と話す。
自社製品を手にする有楽製菓の河合辰信社長=8月、東京都小平市
▽根底にあるのは貧困、支援プログラムの積み重ねが重要
今春、国際人権団体などが世界の大手チョコレート企業や商社計53社の原料調達における人権・環境対応を評価した「世界チョコレート成績表」を発表した。日本企業で首位となったのが油脂大手の不二製油グループ本社(大阪市)だ。不二製油は有楽製菓にも児童労働に頼らないカカオを供給している。
不二製油グループ本社の信達等執行役員油脂事業部門長=8月、大阪市
不二製油はサステナブル(持続可能)な原料調達を目標に、サプライチェーン(供給網)上における児童労働を2030年までに撤廃するとの目標を掲げる。信達等執行役員油脂事業部門長は「児童労働の根底にあるのは貧困。個々の農家の家計を豊かにする以外、児童労働撤廃は難しい」と話す。
信達氏によると、不二製油の児童労働対策は、2019年にアメリカの業務用チョコ大手ブラマー・チョコレート・カンパニーを完全子会社化したことで加速したという。ブラマー社は早くからこの問題に着目し、撲滅に取り組んできた。信達氏は「世界チョコレート成績表では、ブラマー社と一緒に取り組んでいる内容が評価されたことが大きい」と話した。
不二製油は西アフリカの農家を対象に気候変動に強いカカオ栽培を支援し、収量や所得の向上を後押しするなどのプログラムを実施。現地スタッフを通じた児童労働の監視活動にも力を入れる。
信達氏は「現地の政府筋を支援するのか、各農家を直接支援するのか、なかなか難しい問題もある」とこぼす。「乗り越えなければならない課題、目標はあまりに大きいが、一つ一つのプログラムを積み上げていく中で可能性が見えてきたらそれを広げていくのが最も近道ではないか」と話す。
児童労働に従事させられ、カカオ豆の入った袋を運ぶ少年=2011年、ガーナ・アシャンティ州(ⓒACE)
▽カカオ栽培のために失われるゴリラの生息地
有楽製菓の取り組みのきっかけとなった認定NPO法人ACEの白木朋子副代表は「日本企業もやっとカカオ産業の児童労働対策に動き出したが、欧米では2000年ごろには既にこの問題に関心が持たれていた」と指摘。「個別の企業の取り組みには限界があるため連携が必要。『もっとここ、一緒にできるよね』という方向に進んでいければ」と期待する。
認定NPO法人ACEの白木朋子副代表(ⓒACE)
白木氏はその上で消費者の関心の高まりも必要だと語る。「社会がサステナブルな方向につながるような商品選択をするのは大前提。そうした行動を個人レベルでやって満足するのではなく、そういう人たちが増えていくなり、『もっとできることがある』と企業に訴えかけられるようになれば」。
現地で問題なのは実は児童労働だけではない。カカオを生産するためのプランテーションは森林破壊の大きな原因になっている。西アフリカでは世界のカカオの4分の3近くが生産されているが、コートジボワールとガーナではこの60年間で森林がそれぞれ94%、80%減少したというデータもある。それらの約3分の1がカカオ栽培のために失われたとみられている。原生林の消失は、ゴリラやチンパンジーなどの生息地を奪うことにもなる。
世界チョコレート成績表のコーディネーターを務めたオーストラリアの人権団体代表のファズ・キット氏は「最近、コートジボワールを訪れた時、ブルドーザーが稼働し、手つかずの森林を伐採してカカオのプランテーションを作ろうとしていた」と指摘する。成績表で日本企業は児童労働問題には積極的に取り組んでいると評価されるようになってきたが、その他の課題への取り組みについては評価が低い傾向があり、環境対策も急務だ。
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