白濁して輝きを失った新米、収穫は4割減。大雨・猛暑ダブルパンチ 秋田・大仙市の農家の嘆き「最悪の出来だ」
47NEWS / 2023年11月17日 10時0分
「50年農家をしていて、最悪の出来だ」。秋田県大仙市で米農家を営む佐々木義実さん(69)の田んぼは、今年7月の大雨で1日半もの間、冠水した。さらに土砂崩れで、山あいにある田んぼと用水は壊滅的な被害を受けた。そして8月には、記録的な猛暑や干ばつで、ため池が枯渇し田んぼはひび割れを起こした。平地にあった米の収穫は昨年から4割減。米は白濁し、新米から輝きが失われていた。(共同通信=赤羽柚美)
▽「稲が呼吸できない」
「朝起きると集落が陸の孤島になっていた」。佐々木さんの自宅と田んぼがある大仙市大沢郷宿椒沢(おおさわごうしゅくはつかみさわ)は、雨が降り続いていた7月16日早朝、周辺が一面、茶色の水で覆われていた。低い場所にある水田はほぼ全て冠水した。「稲が呼吸できなくなってしまっていた。このままでは昨年の半分も収穫できないかもしれない」。道路も冠水したため、集落の外に出ることができなかった。
佐々木さんはさらに衝撃的な被害を発見する。山あいにある田んぼでは土砂崩れが起きたのだ。山あいの田んぼは1970年に減反政策が始まったとき真っ先に減反したが、その後荒れてしまい、18代続く祖先に申し訳ないと思ってなんとか復田した、思い入れの田んぼだった。「これは現実か?その光景を見た時は一瞬言葉が出ねがった」。しかし崩れた土砂をどかし補強工事をするのは莫大なお金がかかる。税金を使っての工事も提案されたが、これ以上山の斜面が崩れないようにするための簡単な工事をした。
被害は続く。水がひくと木や枝などのゴミが流されてきていていたことが判明。23日には、集落で集まって道路や用水路に流れ着いたゴミを取り除いた。
秋田県では農林水産分野の被害額が約138億円に上った。冠水などで被害を受けた水稲は5280ヘクタールで、約22億円にも上る。
流れ着いたゴミ=7月17日、秋田県大仙市(提供写真)
▽冠水の原因
佐々木さんら水害地区の関係者は8月、秋田県庁と国土交通省東北地方整備局湯沢河川国道事務所に、ポンプなどを使って内水排水対策を講じるよう要望に行った。
大仙市の大沢郷は1級河川の雄物川と、近くを流れる支川大沢川が合流する付近に位置する。2022年度には合流部に、本流である雄物川が逆流するのを防ぐため大沢川に排水樋門がつくられた。
湯沢河川国道事務所によると、今回の大雨では、雄物川が大沢川に逆流しないよう、7月15日23時40分頃には完全に門を閉め、16日の17時50分には門を完全に開けた。しかし、もともと雄物川に流れていた大沢川の水も流れなくなってしまうため、内水が増水して排水できず、冠水したという。一般的な内水対策としては、排水機場という支川の内水をポンプで排水する施設や、移動可能なポンプ車、川の流域の山などに水が浸透する場所の確保、貯水池の確保、ハザードマップの作成や家屋のかさ上げなどがある。しかし佐々木さんの地域では、排水機場はなく、貯水池などもなかった。ハザードマップは、外水のハザードマップはあったが、今回の冠水の原因となった内水のハザードマップはなかった。
6月4日(上)と7月16日の秋田県大仙市の水田(提供写真)
国や県などへの取材によると、雄物川からの氾濫による外水の対策は、雄物川本川の管理者である国が実施し、内水対策については支川の大沢川の管理者である秋田県が基本対応する。豪雨当日、国の機関である湯沢河川国道事務所は広域的に支援するため、保有している3台のポンプ車のうち1台を大仙市からの要請により配備した。一方、県担当者に当日の内水の対策を聞くと、「樋門は水田が浸水する想定で国につくってもらったもの。それが前提だった。樋門により雄物川の逆流を防ぎ、家屋には影響しなかった」との回答だった。
湯沢河川国道事務所は「樋門は雄物川からの逆流を防ぐ施設で、ゲートを閉めると降雨が多いときには水田が浸水してしまう可能性も考えられた。支川の管理は県が責任を負うが、国も連携して対策したい」と話した。
また、ハザードマップに関して「7月の大雨での状況を受けて、内水の対策は大仙市が基本対応するものだが、国も支援して避難計画の元となる内水ハザードマップを作成したい」とした
土砂崩れで埋まった秋田県大仙市の水田=7月17日(提供写真)
▽枯れる
8月には、追い打ちをかけるように猛暑と大干ばつが起きた。大仙市では最高気温が30度を越える真夏日は30日で35度以上の猛暑日は13日だった。佐々木さんの田んぼでは39度になる日もあったという。そして、雨が降らない。8月中の大仙市の降水があったのは計5日で8月20日~9月1日までは雨が1ミリも降らなかった。
村では小さなため池を使って田んぼに水を入れていたが、猛暑でため池は枯渇。稲に水をかけることができず、枯れてしまったものもあった。佐々木さんは、地域に伝わる獅子舞の踊り手でもあり、部落を一軒一軒回って安全祈願して歩き、周囲を元気づける日もあった。
稲刈りをする佐々木さん=9月、秋田県大仙市(提供写真)
9月、1年間の仕事の中で一番の楽しみだった収穫の時期を、不安とともに迎えた。13日から稲刈りを開始した。農業体験イベントも開き、近くの大学生などと山奥の土砂崩れあった田んぼの隣の田んぼの稲刈りをし、米を自然乾燥させるハサがけの作業もした。
平地の米は4割が減少。米は香りが少なく、つやが無い。乳白粒が多くてもち米のようになった。米が黒っぽくくすんでいるものもあり「黒い部分は精米すれば取れるけど、玄米で食べるお客さんは嫌がるだろう」と落ち込む。
「毎年新米を食べるときには感動するが、今年は物足りない」と残念がる。「今年は肥料と農薬の価格がやたらと高くなりかなりのコスト高となった。50年農家をしていてこんなに厳しい年はなかった」
2023年産のコメ(水稲)の全国の作況指数(平年=100)では、秋田は97で「やや不良」となった。秋田県の最も質が良い1等米の比率は2022年の同時期より30ポイント低い62.6%と過去2番目の低さとなった。土砂崩れの起きた土地以外は、来年豪雨や猛暑に見舞われなければ、通常通り収穫ができる。「農家に自然災害はつきもの。米を買ってくれている全国のお客さんから励ましの言葉やお見舞金などをいただいた。お客さんに喜んでもらいたい。これからも米作りを続ける」
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