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日本の農業は「伝統と未来を両立できるいいポジション」 国連機関のベクドル事務局次長が日本の技術に期待

47NEWS / 2023年11月22日 10時30分

インタビューに応じる国連食糧農業機関(FAO)のベクドル事務局次長=11月14日、農林水産省

 ロシアによるウクライナ侵攻や新型コロナウイルスの流行をきっかけに、安定的に食料を確保する「食料安全保障」の重要性に対する認識が世界的に高まっている。日本の農業技術を視察するため来日した国連食糧農業機関(FAO)のベス・ベクドル事務局次長が共同通信のインタビューに応じ、食料安全保障の問題は「もはや特定の国・地域の問題ではなく、(先進国を含めて)世界が共通に抱える問題に変わった」と強調した。

 日本は、伝統的な農法と未来型の「スマート農業」を両立できるポジションにあると指摘。アフリカや東南アジアへの技術展開に期待を示した。(共同通信=徳光まり)

 ▽食料安全保障は先進国にも重要な課題


インタビューに応じる国連食糧農業機関(FAO)のベクドル事務局次長=11月14日、農林水産省


 ―食料安全保障はこれまでは途上国を中心とする課題だったとの印象があります。
 「食料安全保障は飢餓や栄養リスクの問題もありますが、国際的に認識が高まり、もはや特定の国・地域の問題ではなく、(先進国を含めて)世界が共通に抱える問題に変わったと思います。FAOは農業、食の生産をいかに効率的で強靱にできるかというのが一番大事な仕事です。特に農家を中心に、従来とは違う生産の手段や方法を実現していくことが重要です」

 ―各国が食料安全保障を強化するために乗り越えるべき壁は何でしょうか。
 「食料生産システムは農業単体ではなく、世界的な経済や社会と関連し、エネルギーや貿易、環境、公衆衛生ともつながっているとの認識が必要です。また、近年は戦争や気候変動、災害など次から次へ危機に見舞われる中、被災地や紛争地帯で一番弱い立場に置かれるのは農業従事者です。農村の人たちを念頭に置き、支援方法や資源の配分を考えるべきです」

 ―支援とは具体的には何でしょうか。
 「直接的な食料支援は、病気に例えると原因ではなく単に症状への対症療法です。つまり、食料や水、シェルターを提供することに加え、各国政府は農業支援の検討が必要です。FAOでは種や家畜防疫に必要なワクチン、家畜の餌、かんがいのための水管理に関わることなど農家にとって基本的な需要への支援を、厳しい状況に置かれた国々へ行ってきました。こうした手法で、農業の強靱化を進めるべきです」


茨城県つくば市の国際農林水産業研究センターで研究成果を聞く国連食糧農業機関(FAO)のベクドル事務局次長=11月14日

 ▽日本は伝統的な農法と未来型の農業が両立可能
 ―日本の農業技術や取り組みへ期待することはありますか。
 「日本は伝統的な農法と、「スマート農業」と呼ばれる未来型の農業をともにできるいい立場にあります。例えばかんがいの水管理や自律型の田植え機械、ドローンで肥料を投入できる仕組みがあり、自動化のための技術やデジタルを使った取り組みがたくさんあります。ただ小規模の農家を念頭に置いて開発されたようなので、他国の状況に合わせた形での導入と、途上国向けにはコストを下げることが必要です」

 ―日本の技術を広げるなら、どの国や地域へ適用できると思いますか。
 「アフリカや東南アジアです。東南アジアは日本から近い。農業生産性を飛躍的に伸ばす必要があるアフリカ大陸にも深刻な需要があります。FAOは農家を対象に、現場での訓練と農業技術の普及を目的とした「ファーマーズフィールドスクール」を約30年前から100カ国以上で実施しており、このプログラムにも日本の革新技術や研究成果を取り込んでいきたいと考えています」

 ―温暖化など世界的な課題の気候変動への対応では、日本の技術を生かせますか。
 「はい。例えば乾燥や高温が厳しいアフリカ大陸の一部地域では、日本の技術を活用して新しい品種の種を作ったり水管理システムを利用してかんがいを行ったりできれば恩恵が大きいでしょう」


国際農林水産業研究センターでエビの研究成果の説明を受ける国連食糧農業機関(FAO)のベクドル事務局次長(左)=11月14日、茨城県つくば市

 ▽国主導ではなく民間企業を巻き込んだ研究開発を
 ―日本ではこれまで、農業・食品産業技術総合研究機構などが比較的、国主導で農業分野の研究開発を進めてきました。FAOで民間連携の責任者を務める中、どのように感じますか。
 「農業と食の分野は、民間か政府主導かを選択するのではなく、両方のバランスを取っていく時代に入っています。基礎研究、応用研究ともに、官民の融合が大事です。持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる2030年の「飢餓人口ゼロ」達成まで残された時間は少ない。官民と科学界が協力しないと、食の生産性を上げながら収益を上げることはできません」

 「今回の視察で、日本は既に国の機関が民間と貴重な連携をしている例も知りました。民間は投資という形で財政支援ができる能力を持っていて、彼らの力を生かすべきです」

 ―日本に限りませんが、そもそも農業の担い手不足が大きな課題です。どのような解決策があると考えますか。
 「農業を若い人にとって魅力的なものにすることが一番大事です。きつい、つまらない、もうからないという古い世代のイメージのままで変わっていません。若い世代は高度な分析ツールも使い慣れていて、デジタルネーティブです。農業は自動化やデジタル活用が進んで変わりつつあると示していくことが必要です」

 ―今後、FAOはどういった分野に資金を重点的に振り向けていきますか。
 「最近増えてきているのは危機のあった地域への緊急支援です。市場関係や解析、データの標準化といった技術的な分野の予算も増えており、さまざまな需要を見て、バランスを取っていきます」


日本の農業関連スタートアップ企業の説明を聞く国連食糧農業機関(FAO)のベクドル事務局次長(右端)=11月13日、東京都千代田区

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 ベクドル氏は11月12日から18日まで日本に滞在し、日本の食料・農業を巡る最先端研究や、FAOが認定した「世界農業遺産」の滋賀県琵琶湖地域を視察した。
 FAOは食料と農林水産分野の国連の専門機関で、本部をローマに置く。準加盟を含め196カ国と欧州連合(EU)が加盟している。世界経済の発展と人類の飢餓からの解放を目指し、食料に関する情報収集や調査・分析、途上国への技術協力などを行っている。

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