「子どもを見守る母親の気持ち」にさせるJO1 海外ファンも夢中に 韓国のノウハウをフル活用した日本発グループは、世界的スターになれるか
47NEWS / 2023年11月26日 10時30分
11人組ボーイズグループの「JO1」は異色ずくめだ。メンバーは全員日本出身だが、楽曲や売り出し方はK-POPのノウハウをフル活用。かといって、韓国のボーイズグループのコピーでもない。オーディション番組を通じて結成された韓国のグループは多いが、彼らはもともと歌やダンスの練習を相当積んだ、いわば「セミプロ」。これに対し、JO1のメンバーの中には、歌もダンスも未経験の素人もいた。
ただ、そんな彼らが泥くさい努力を重ね、次第に成長していく姿が逆に共感を呼び、ファンの輪は国境を超えて広がった。現在、初のアジアツアーに挑んでいるJO1は、日本の枠を超え、世界的スターになれるのか。取材して見えたのは、グループと「JAM」と呼ばれるファンが、共にさらなる高みを目指す姿だった。(共同通信=加藤駿)
台北公演に臨むJO1のメンバー=11日、台湾北部の新北市(C)LAPONE ENTERTAINMENT
▽経歴も実力もバラバラ
きっかけは2019年9月、日本の芸能界を大きく変える番組の配信が始まったことだ。韓国の人気オーディション番組の日本版「PRODUCE 101 JAPAN」。書類選考などを通過した101人の「練習生」から、新たなボーイズグループを誕生させるプロジェクト。画期的だったのは合格メンバーの決め方だ。審査員や運営側の意向ではなく、視聴者がインターネットで「推し」の練習生に投票した結果、11人が選ばれた。
この決め方は、番組の人気にもつながったようだ。視聴者が練習生の運命を決めるため、既存のオーディションよりはるかに感情移入しやすい。山口百恵さんやピンク・レディー、中森明菜さんらを輩出した「スター誕生!」や、「モーニング娘。」を生んだ「ASAYAN」など、業界側のプロが選ぶこれまでのオーディション番組とは決定的に違っていた。
台北公演で歓声に応えるJO1のメンバー=11月11日、台湾北部の新北市(C)LAPONE ENTERTAINMENT
番組のフォーマットは、男性グループ「Wanna One」や日韓合同女性グループ「IZ*ONE(アイズワン)」を生んだ韓国版とほぼ同じ。ただ韓国のアイドルは一般的に芸能事務所に所属し、長期トレーニングを受けた上でデビューする。韓国版「PRODUCE―」の参加者も、基本的には〝デビュー予備軍〟だった。一方、日本では番組の応募条件を「事務所未所属」にした結果、練習生の多くが素人になった。
集まったのは、就職活動中の大学生、高校卒業後にメーカーで働いていた社会人、別のグループで以前活動していた人…。経歴も実力もバラバラな者たちが、見る者を驚かせるほどの努力を積み重ね、ドラマチックに成長する姿が番組で話題になった。
JO1の公演に訪れたファン3人=11月11日、台湾北部の新北市(共同)
▽「ほんまにアホというか、良い意味で欲深いし、満足もしない」
見守るうちにファンになった人々は、「推し」をデビューさせようと、交流サイト(SNS)で応援活動を盛り上げた。このプロジェクトのために、韓国のエンターテインメント企業「CJ ENM」と日本の吉本興業が合弁会社「LAPONE(ラポネ)エンタテインメント」を設立。番組は練習生の動画をユーチューブで大量に無料公開し、インターネット上で拡散させた。韓国にならい、練習生の写真をファンが応援活動に使うことを認め、日本各地の駅などに応援広告が出たことも話題になった。
その動画やSNSで存在を知ったファンも少なくない。台湾のファンネーム「Peggy」さん(21)も高校時代にK―POPを聴き、韓国版に続いて日本版を見てJO1を応援し始めた。
JO1の河野純喜さん。台北公演は「言葉も違い不安もあったが、とにかくみんなが温かくて最高の瞬間をつくれて大成功。まだ行けていないところにも行きたい」。(C)LAPONE ENTERTAINMENT
「JO1のメンバーは『真っ白』な状態でオーディションに挑んだ。デビュー後も一生懸命頑張り、成長する親しみやすさが他のK―POPグループにない魅力」
練習生たちは約3カ月にわたって配信された番組で、ステージパフォーマンスの課題に挑み、選ばれた11人がJO1を結成した。メンバーの1人、河野純喜さん(25)はグループの強みを語る。
「相変わらず泥くさいというか、青臭い一面があるんです。ほんまにアホというか、良い意味で欲深いし、満足もしない」
2020年3月のデビューシングルCDは、番組の勢いのまま発売初週に30万枚超を売り上げ、日本のビルボードチャート1位に輝いた。新興の芸能事務所に所属する男性グループとしては異例のことだった。
台北公演でファンと一緒に記念写真に納まるJO1のメンバー=11月11日、台湾北部の新北市(C)LAPONE ENTERTAINMENT
▽直接触れ合えないコロナ禍にも人気広がり
しかし、当時は世界的な新型コロナウイルス禍だった。せっかく1位になったのに、スケジュールは軒並みキャンセルに。それでも、コロナ禍の間、JO1はユーチューブなどで情報発信に努め、さらにこの期間を利用して本格的な歌やダンスパフォーマンスのトレーニングを重ねた。
JO1のリーダー、與那城奨さん。初のアジアツアーに臨み「海外の方と直接会うことはなかなかできなかったが、ツアーで叶えられた」。(C)LAPONE ENTERTAINMENT
「JAM」と呼ばれるファンたちは、JO1のメディア出演や活動予定の情報をSNSで拡散させた結果、ファンと直接触れ合えない日々も人気は広がっていった。
2022年、音楽配信スポティファイでヒット曲「SuperCali」は「SNSなどで最もシェアされた楽曲」の年間1位に輝いた。さらにイヴ・サンローラン・ボーテなど、メンバーが登場する企業広告はファンの間で瞬く間に共有されていく。
JO1リーダー與那城奨さん(28)は、JAMが自分にとっての「全て」と言い切る。「僕たちを選んでくれて、こうやって活動できている。本当に生みの親じゃないですかね」
JO1の公演に訪れたファン2人=11月11日、台湾北部の新北市(共同)
▽韓国のノウハウと「日本らしさ」
日本で瞬く間に人気になったJO1が、国際的な展開をするために欠かせないのが、韓国「CJ ENM」が持つノウハウだ。
CJ傘下の音楽ケーブルテレビ局の歌番組には何度も出演した。放送後にパフォーマンスがユーチューブで無料公開されるため、韓国内のみならず各国のK―POPファンらが視聴する。日本ではこれまでなかったやり方だった。CJがタイや米国で開催した韓国カルチャーイベント「KCON」の合同ライブにも出演。2023年10月にデジタルリリースされた新曲「Eyes On Me(feat.R3HAB)」は、オランダのR3HABさんがプロデュースし、米ロサンゼルスでレコーディングした。
一方で、〝日本らしさ〟を発信することにも力を注いだ。企業や自治体と連携した「HOT JAPAN with JO1」プロジェクトでは、兵庫・姫路城をはじめ日本各地の絶景をバックに、グループがパフォーマンスをする動画を公開した。
JO1の白岩瑠姫さん。初のアジアツアーに臨み「本当に全部の都市でファンの熱気が伝わってきて、すごく幸せな時間でした」。(C)LAPONE ENTERTAINMENT
▽“推し”への愛
満を持してスタートしたのが、ジャカルタ、バンコク、台北、中国・上海を巡るアジアツアーだ。台北公演では有志のグループが、台北市内の地下鉄駅に応援広告を出し、会場周辺の道路に街頭旗を設置した。総額9万台湾ドル(約42万円)ほどかけたという。30代会社員のファンネーム「A子」さんは「台湾ファンの応援を見てもらって、また来てほしいから頑張った」。20代会社員の張以欣さんは「“推し”への愛ですね」と語った。
ファンの熱い思いは、確実にメンバーに届いている。白岩瑠姫さん(26)は、公演会場周辺で自分の誕生日を祝う広告付きトラックが走るのを見た。「誕生日で毎年(応援の存在を)感じるし、海外の皆さんも思い続けてくれている。その愛の大きさが、くじけそうになってもつらいことがあっても頑張ろうと、何度も立ち直れた原動力です」
映画「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」の台湾公開記念イベントで、ファンと一緒に写真に納まる「JO1」の白岩瑠姫さん(手前)=11月12日、台北(共同)
11月11日の台北公演の冒頭、メンバーの佐藤景瑚さん(25)は感慨深げだった。
「『プデュ』のステージみたい。それを思い出しました」
プデュとは、オーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN」のこと。日本では大阪・京セラドームといった「大箱」で公演するまでになった彼らにとって、小規模でアットホームな台湾の会場は、原点を思い出させることになった。
JO1結成から12月で4年。実力が備わると共に、アーティストとしての自覚も強くなった。台北公演でも、振り付けのアレンジやフォーメーションを開演ぎりぎりまで調整していた。河野純喜さんは「基本形はあるけど(メンバーから)いろいろと意見を言える」。與那城奨さんは「最終的には自分たちで楽曲製作ができたらすごくいいな」。
新曲でコラボしたR3HAB(後列中央)とJO1(C)LAPONE ENTERTAINMENT
▽アマチュアっぽさ、そして誠実さ
「PRODUCE―」以降、日本でもテレビやネットでオーディション番組が増えている。ボーイズグループも「BE:FIRST」「&TEAM(エンティーム)」、「ラポネ」でも「INI」など後輩組が続く。
その中で先輩格のJO1は、大みそかのNHK紅白歌合戦にも2年連続で出場が決まった。白岩さんはこう語って表情を引き締めた。
「今いろんなグループがいる中で、先陣を切ったパイオニアの自負がある。後輩もできて、格好いい先輩でいるためにも、どんどん新しいことに挑戦して、結果も出していきたい」
台湾で取材したJAMたちは、見守ってきたグループが「めっちゃ成長した」と口をそろえた。ファンのPeggyさんは「子どもを育てるお母さんみたいな気持ちになるし、どんどん有名になる姿に感動する。これからも(良い意味で)アマチュアっぽさ、そして誠実さを忘れないでほしい」。
台北公演のアンコールでメンバーが記念撮影しようとすると、客席のJAMが一斉に応援メッセージを掲げた。日本語と中国語で「一緒にいれば“無限大”」と書かれていた。ファン有志のグループが制作し、用意したものだった。初の台湾公演をファンと一緒に完成させた。
「推し」に対するファンの応援文化は、SNSの普及と共に発達した。時に過剰な消費や、愛が反転しての中傷が問題になることもある。だが、JO1とJAMは国境を超え、幸福な関係を築いているように見える。
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