ドラフトで6人指名の快挙「プロ野球に一番近い」と言われる徳島の独立リーグ球団 高校時代は控え、道半ばで諦めた選手…結果残し開いたプロへの道
47NEWS / 2023年12月3日 10時30分
今秋行われたプロ野球のドラフト会議で、独立リーグ「徳島インディゴソックス」は阪神2位に椎葉剛投手が指名されるなど、育成選手も含めて6選手がプロ野球への道を切り開いた。全国に21ある日本独立リーグ野球機構所属チームのうち最多で、スカウト担当者が「なかなかない」と評する快挙。実は、徳島は11年連続でドラフト指名が続いている。なぜ、四国の1球団がこれほど多くの日本野球機構(NPB)選手を輩出するのか。背景を探った。(共同通信=米津柊哉)
▽北海道大から「一番プロに近い球団」へ
徳島から最多の3人を指名した西武の入団交渉後、選手が記者団の取材に応じた。5位指名された宮沢太成投手は心境を率直に語った。「練習の環境面や、指導者、球団関係者にすごく恵まれた。10年輩出が続くだけの環境があると感じている」。北海道大野球部を経て、在学しながら徳島でプレーした。
入団のきっかけや独立リーグでの生活を尋ねるとこう返ってきた。「NPBに行きたくて、一番近い球団がどこか考えたとき、当時10年連続輩出しており一番近い球団だと思った。大学の単位や履修すべき授業は取り切ってから徳島に入団し、野球に集中した。持ち味の直球とフォークや、目標にしがみつく姿勢が磨かれた」
西武から5位指名を受け、ポーズをとる宮沢太成投手=10月26日、徳島県藍住町
▽NPBへのモチベーションを上げる
インディゴソックスは2005年に誕生した「四国アイランドリーグplus」の球団。「インディゴ」は徳島伝統の藍染めに由来し、靴下を特徴的な青色に染めている。
選手は高卒や社会人経験者などさまざまで、約30人のうち20人程度が毎年入れ替わる。経営や編成など多方面で支えるのが、2015年に球団社長に就任した南啓介さん(41)だ。「技術は監督やコーチが教える。私は、NPBへのモチベーションを上げるのが仕事だ」と話す。
選手全員と年3回、一対一で面談する他、チャットアプリで目標設定や振り返りを促す。他の人に話せない悩みにも耳を傾け「一人一人の頭の中を開拓する」。ベンチに入れなかった選手を励まし、元気な「チーム」をつくり上げていく。2023年は四国アイランドリーグの年間総合優勝を果たした。
南さん自身も野球を24歳まで続けた後、ハンドボールなど野球以外のスポーツ選手のマネジメントも行ってきた。「プロになるのは一つのゴールだが、やりきった先にしか次のステージはない。それが彼らの自信になり、突き詰めた先にかっこよさや生き様がにじみ出る。(徳島での生活を)あの時あそこまでできたと励みになるような期間にしてほしい」と願う。
徳島インディゴソックスの南啓介社長=11月9日、徳島市
▽高校時代は控え。徳島から西武の育成に
徳島には紹介から入団に至るケースが多い。西武育成1位のシンクレア・ジョセフ孝ノ助投手は、米国の大学を卒業後、知人の紹介で徳島へ。西武との入団交渉後、次のように喜びを語った。「大学の卒業が近づいてきて、メジャーリーグのドラフトの可能性が低くなり、どうやって野球を続けるのかという時に、日本の知り合いに紹介してもらった。(育成指名され)ここから精いっぱい頑張ればいつまでも野球を続けられる」
同じく西武の育成2位の谷口朝陽内野手。徳島県出身で、広島県の名門、広陵高校に進んだ。徳島に戻り入団した理由について、こう言った。「1日でも早くNPBに行きたかった。高校時代は控えだったが、頑張ればこうなれると控えの選手に見せたい。徳島に来て恩返しもしたかった」
西武との入団交渉後に笑顔でポーズを決める(左から)シンクレア・ジョセフ孝ノ助投手、宮沢太成投手、谷口朝陽内野手=11月14日、徳島市
▽道半ばで諦めた選手を説得し再生
ここまで紹介した若者のように、最初から自らの意思で門をたたく選手がいる一方、道半ばで退いた選手に南さんが再起を促すこともある。今は西武でプレーする岸潤一郎外野手はその一人だ。
「なんで野球を辞めた? もう一回やってみないか」。南さんは2017年夏、自宅を訪れこう語りかけた。高校時代は甲子園で活躍していたが、大学を中退し野球への気持ちが切れていた時期という。「輝いていたヒーローがつぶれてしまうのはもったいない」。色よい返事が得られなくても南さんは諦めない。「慌てることはないから一回見に来て」
見学は実現し「あの選手、いいですね」などと口にして興味を示した。岸さんは再びユニホームを着ると決意し、同年秋に入団が決定。2019年のドラフトで西武に8位指名された。南さんは「努力を重ね、わくわくさせる選手に成長した」と喜んだ。
▽選んでもらうため、熱意でプレゼン
独立リーグからはドラフトの下位や育成で指名されるケースが多い。同じような能力の選手のライバルが大勢いるといい、南さんはスカウトとの交流にも力を注ぐ。「選んでもらうために熱意を持ってプレゼンすることが重要だ」
取り組みは11年連続指名の結果に表れ、今年も3人の育成選手を含めて計6人が選出された。西武の鈴木敬洋育成・アマチュア担当は舌を巻く。「(徳島出身選手が)一軍で結果を残しており、チームの評価は高い。6人選ばれるのはなかなかないことだ」
2022年のドラフトでオリックスから育成枠の指名を受けた徳島の茶野篤政外野手は、翌年の開幕戦で先発に抜てきされた。
トークイベントでファンと交流するドラフト指名の6選手=11月12日、徳島市
▽積み重ねが生む好循環
南さんも「OBがしっかりやってきた積み重ねで、入団選手の質が高くなっている」。こうした実績が潜在能力の高い選手を引き寄せ、次のドラフト指名につながる好循環が生まれている。
2018年にファンになり、徳島で毎試合見に行くという勢井良枝さん(34)は、感慨深い。「監督やコーチが寄り添って遅くまで指導している。地元徳島からNPBに選ばれるのはうれしい一方、寂しさもある」
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