米大統領選は高齢対決の再来か?体調不安のバイデン、刑事訴追のトランプ弱み抱える両氏 選挙まで1年、第3の候補やAIの脅威に注目【共同通信特派員座談会】
47NEWS / 2023年12月6日 10時0分
来年11月の米大統領選まで1年を切った。民主党現職のバイデン米大統領(81)と共和党のトランプ前大統領(77)の再対決が濃厚となっているが、本当にこのまま高齢政治家による選挙戦となるのか。首都ワシントンや全米各地で取材を続ける特派員たちが語り合った。(共同通信ワシントン支局・大統領選取材班)
▽白人労働者の人気が依然根強いトランプ氏
―大統領選の話題の中心は現職のバイデン氏よりも前職のトランプ氏になっているように見える。人気は健在か。
高木良平(議会担当・大統領選キャップ) 保守的な中西部、南部、西部の地方の選挙集会を取材すると、トランプ氏を熱心に支持する支持者は依然として多い。前回の大統領在任中に既存のエリート層一掃との公約を実行したと評価している。
支持者には白人労働者が多い。通底しているのは、従来の白人中心の価値観よりも移民や黒人ら少数派、LGBT(性的少数者)の権利擁護を重視する民主党への嫌悪感だ。
米国の主流派だったはずの自分たちが肩身の狭い思いをするのはリベラル派の支配のせいだと思い、有名大学を卒業したインテリ層に見下されていると感じる人も多い。
11月にフロリダ州マイアミ近郊で開かれたトランプ前大統領の集会(共同)
―議会襲撃事件などで起訴されて被告人になっているのに、なぜ人気が続くのか。
高木 支持者は民主党のバイデン政権に極めて強い不信感を持っていて、トランプ氏を追い落とすための政治的な捜査をしていると信じている。自分たちの不満を代弁するトランプ氏がバイデン大統領や民主党関係者を汚い言葉でののしっても気にしないという人がほとんどだ。
支持者は事実を度外視する人々のように感じるかもしれないが、日本人記者に対する対応は丁寧だ。むしろ、トランプ氏が自分の都合の悪いことを報じる「偽ニュース」と非難するCNNテレビなどリベラルな米メディアの方が取材は難しい。
▽共和党穏健派には異論も
―トランプ氏に弱みはないのか。
高木 トランプ氏は77歳と高齢だが、バイデン氏と比べると、声に張りがあって元気そうだ。ただ、7年前の集会で見たときと比べると、当時ほどは生き生きとしていない。
選挙集会で1時間近く続く演説は、終盤になると対抗馬を罵倒することの繰り返しに飽きて席を立つ人も目立つ。共和党の穏健派は、トランプ氏が自身の敗北した前回2020年の選挙結果を認めず不正があったと主張していることを苦々しく思っている。
これまで共和党の牙城だった西部アリゾナ州などで敗北したのは、事実に基づかない主張にうんざりした共和党の穏健派や無党派が離れたからだ。起訴されたこともあり、穏健派や無党派の支持を得るのは難しそうだ。
金友久美子(経済担当) 街中でインタビューをすると、バイデン氏も嫌だけど、トランプ氏も嫌だと言う人が増えてきている気がする。じわりと人気は剝落してきている。
11月にテキサス州ヒューストンで開かれた集会に出席したトランプ前大統領(ゲッティ=共同)
▽米国の孤立志向強まる可能性
―日本政府はトランプ氏の返り咲きに備え始めているとも言われる。米国の外交政策への影響をどう見るか。
新冨哲男(ホワイトハウス担当) バイデン氏や現政権閣僚の外遊に同行すると、会議や会談の合間に関係国の首脳らと親しげに触れ合う場面が目立ち、国際協調を尊重しようとする姿勢を感じる。トランプ氏が当選すれば、「米国第一」を掲げた前回の大統領在任中と同様、米国の外交は孤立志向を強めるのではないか。
トランプ氏はロシアの侵攻を受けるウクライナへの軍事支援継続に懐疑的だ。支持基盤である親イスラエルのキリスト教福音派の意向もくみ、イスラエルが地上侵攻したパレスチナ自治区ガザへの人道支援にはかねて冷淡だった。これまで米国が主導してきた対ロ包囲網は大きく揺らぎ、イスラエルへの支援が加速するだろう。
―中国への姿勢は変わるか。
新冨 軍事・経済両面で台頭する中国との競争では、バイデン政権は日本を含めたインド太平洋地域の同盟・友好国との連携強化を重視してきた。トランプ氏は対照的に同盟・友好国を再び軽視し、首脳間の個人的な関係構築による事態打開を図るシナリオも予想される。中国の習近平国家主席のほか、核・ミサイル技術の脅威が高まる北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記とも独自の直接交渉に臨む可能性もあり、日本にとって予測が難しくなりそうだ。
11月にサンフランシスコ近郊で開いた記者会見で語るバイデン大統領(共同)
▽バイデン氏が抱く強い自負
―従来はバイデン氏だからこそトランプ氏に勝てると言われてきた。今後、民主党内で戦況が不利となったら交代はあり得るのだろうか。
高木 バイデン氏の最近の演説を見ると、明らかに調子が悪そうな日があって見る人を心配させることが多い。せき込んで声がかすれることもしょっちゅうで頼りなさが目立つ。壇上で既に死亡した議員の名前を呼んで探し、国民をあきれさせたこともある。
リベラル派や若者たちからはバイデン氏がイスラム組織ハマスと戦闘を続けるイスラエルに寄りすぎているとの批判も噴出している。
ただ、政権関係者によると、本人の出馬意思は揺らいでいないようだ。トランプ氏の支持層と重なる白人労働者の票を得られるのは自分だという自負は強い。実際、中西部の労働組合の関係者に話を聞くと、バイデン氏の支持は根強い。
自身が体調を崩すなどしない限り、ハリス副大統領に道を譲る選択肢はないだろう。ハリス氏は当初担当した国境管理などで実績を残すことができず人気がない。
金友 バイデン氏への若者層の支持率低下は見逃せない。ガザ地区を巡る対応で、Z世代と呼ばれる若者やアラブ系など非白人層の支持を失った。これは致命傷になりかねない。若者層は人権への関心が強く、ガザ地区で殺されていく人々の映像をリアルタイムで見て、ショックを受けている。
一方で、バイデン氏自身の人柄や政策は、歴代米大統領の中では非常に優れていると言えるのではないか。2022年7月に安倍晋三元首相が奈良市で銃撃を受け死亡した際、ワシントンの日本大使公邸を弔問に訪れたバイデン氏の姿が今でも忘れられない。部下が準備した言葉ではなく、ひと言ずつ時間をかけて、じっくり考えながら記帳していた。それほどの人物でも統治できないのがアメリカの現状だ。
安倍元首相の死去を受け、米ワシントンの日本大使公邸で記帳するバイデン大統領=2022年7月(共同)
▽物価上昇が好調な経済の実感帳消し
―経済情勢は争点になりうるだろうか。
建部佑介(経済担当) 米国では新型コロナウイルス禍の後、記録的なインフレに見舞われた。共和党は、物価高はバイデン大統領による大規模な財政出動などが招いた失策だと批判している。一方、バイデン氏は足元で物価上昇率が縮小しつつ、雇用は堅調さを維持し続けていることを政権による成果として誇っている。
統計上、米国経済は先進国の中でひとり勝ちと言っていい状態だ。物価上昇率の縮小は通常、経済の減速を伴うが、米国では個人消費も雇用も一時ほどではないが底堅いまま。年初にはマイナス成長を予想する声があった2023年の国内総生産(GDP)成長率は、2%と見込まれている。
しかし、好調な経済は政権支持率につながっていない。多くの米国民は好況を実感できていない。賃金の伸びは物価上昇を下回り、家庭の購買力が実質的に下がっているためだ。家賃は高騰し、中低所得層が重い負担を感じていることも支持低迷の一因となっていそうだ。
米首都ワシントンにあるガソリンスタンド=2023年6月(共同)
高木 数字上は良くても、食料品店のものの値段は上がり、移動に欠かせないガソリン価格も高いままで国民の不満は強い。政権が経済政策の効果をアピールしているのに、実感が伴わないのは、オバマ政権末期の2016年の時の雰囲気と似ている気もする。当時のオバマ大統領や民主党候補者、クリントン元国務長官への国民の不満が強く、トランプ氏の劇的な勝利につながった。
▽既存の二大政党にうんざりした有権者は第3の候補に
―再選を目指すバイデン氏にとって最も気がかりなのが、第3の候補の動きだ。
ペンシルベニア州フィラデルフィアで10月に演説するロバート・ケネディ・ジュニア氏(共同)
高木 故ケネディ元大統領のおいで無所属のケネディ氏や、小政党「緑の党」のスタイン氏が出馬した。民主党中道派のマンチン上院議員も名乗りを上げそうで、バイデン氏の票が割れる可能性がある。乱立すれば岩盤支持層を抱えるトランプ氏が有利になるとの見方がある。スタイン氏は2016年の選挙でクリントン氏の票を奪い、トランプ氏の劇的勝利につながった要因の一つとされている。
新冨 ケネディ氏の集会では、2020年大統領選でバイデン氏、トランプ氏に投票したとの声をそれぞれ耳にし、民主、共和両党の支持層が流れつつある実態が垣間見えた。集会の参加者は気候変動問題への取り組み強化や米軍の態勢縮小といったケネディ氏の公約に魅力を感じているという以上に、分断をあおる既存の二大政党にうんざりしているとの印象が強かった。
一方、白人の中高年層の姿が目立ち、非白人や若者も含めた多様な有権者が結集しているような状況ではなかった。投票行動の大きな変化につながるかは、今後の選挙戦次第ではないか。
▽生成AIによる偽情報の拡散に注意必要
―生成人工知能(AI)が登場してから初めての大統領選となるのも注目点だ。
井口雄一郎(科学担当) 生成AIの特徴の一つは、人間が書いたような自然な文章が容易に、大量に作成できるようになったことだ。メッセージは同じだが、少しずつ表現やターゲットとする読み手を変えたコンテンツをAIに大量に作らせてSNSに投稿する。そうすれば、みんなが異口同音の意見を述べ、「世論の流れ」が存在するように見えてしまう恐れがある。大量の偽情報で本物の情報を押し流してしまうこともできるかもしれない。
高度なAIが無料または低額で誰でも使えるようになった点も効いてくる可能性がある。ポジティブに利用するとすれば、自分が支持する候補のために訴求力のある文章や魅力的なスピーチを作り、米国内で使われる複数言語に翻訳して応援するようなことが考えられるが、この利点はそのまま悪用にもつながる。過去に米国に敵対する国がお金をかけて組織的にやったようなコンテンツの大量生成と拡散を、少人数ですることもできそうだ。
ワシントンで開かれたイベントでは、出席した有力政治家とスパイダーマンが握手する画像を生成AIで作成して見せていた=10月(共同)
―有権者側ができる自衛策はないのか。
井口 有権者側は、実績のあるオンライン報道メディアやテレビ、候補者の公式アカウントで確認して「さっき見たSNSの投稿は何か怪しいな」と思うこともできるだろう。だが普段から考えていたことに沿った情報であれば、確かめずに思わず拡散してしまう人もいるのではないか。選挙戦の最終盤に激戦州の、それも限られた地域を狙って偽情報がばらまかれた時やインフルエンサーが拡散の過程にかんだ時、公式情報による訂正や反論は間に合わないかもしれない。
―最後にずばり、トランプ氏とバイデン氏の再対決になった場合はどちらが有利か。
高木 選挙戦の先はまだ長くて見通せないが、注目する必要があるのは日本人のなじみが深い人口の多い東部ニューヨーク州や西部カリフォルニア州ではない。多くの州は民主党寄りか共和党寄りという色が既に決まっていて、結果が動くことはない。一部の接戦州の勝敗が大統領選全体の結果を左右する。
具体的には、両党の力が拮抗しつつある東部ペンシルベニア、中西部ミシガン、ウィスコンシン、南部ジョージア、西部アリゾナ、ネバダの有権者の選択が次の大統領を決めることになる。再対決を想定した世論調査ではトランプ氏がわずかに上回っているとの結果も出ているが、いずれも僅差でどちらに転んでもおかしくない。
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