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各国の思惑が交錯、AI規制はどうなる?欧米の有識者に最新動向を聞いた 安全管理をテーマに初めて開かれた国際会議

47NEWS / 2023年12月12日 10時30分

記者会見で「AI安全サミット」の成果を強調するイギリスのスナク首相=11月2日、ロンドン郊外(共同)

 生成AI(人工知能)の「チャットGPT」が昨年11月末に公開されてから1年がたった。誰もが手軽に高度なAIにアクセスできるようになった一方で、偽情報の拡散やプライバシーの侵害といった悪用を懸念する声が強まっている。

 AIがもたらす恩恵は世界に広く行き渡るのか、それとも少数の人のみが享受するのか。AIの規制と活用の在り方は分岐点にある。11月初めにイギリス政府が開いた国際会議「AI安全サミット」には日米欧に加えて中国政府の関係者も参加した。欧米の有識者に国際的な規制の方向性を聞いた。(共同通信ロンドン支局 宮毛篤史)

 ▽AI規制の国際的な構図は?
 米コロンビア大のアニュ・ブラッドフォード教授は、国境を超えた影響力を持つAIには、国際的な枠組みの構築が求められると指摘する。一方で、各国の文化的、制度的な違いを踏まえると、世界的に統一された規制の実現は困難との考えを示す。


米コロンビア大のアニュ・ブラッドフォード教授(提供写真)

 「日本が議長国を務める先進7カ国(G7)で良い対話が行われたことには勇気づけられた。AIを監視、検閲、プロパガンダに利用している中国と比べると、(G7のような)『志を同じくする国』の間では大きな違いはない。しかし、EUと米国ではスタンスが異なる。EUは人権が中核だ。デジタルトランスフォーメーション(DX)は人間中心の考えを前提にしている。社会構造が民主的であることに加え、個人の権利保護、デジタル経済がもたらす利益の公平な再分配を重視している」

 「米国が基本的権利として言論の自由に焦点を当てているのに対し、欧州はプライバシーを基本的権利と考える。欧州の市民はヘイトスピーチに強い不快感を抱くが、米国人はより寛容だ。権利の概念の違いだけでなく経済的、社会的な権利の種類も異なる。日本はAIに関してEUと多くの価値観を共有している。しかし、EUのように厳しい制裁のある規制を導入するのではなく、米国に近い形で民間部門との連携を重視している」

 ▽AI規制でも「ブリュッセル効果」を狙うEU


米コロンビア大のアニュ・ブラッドフォード教授(提供写真)

 EUがデジタルや環境といった分野の新ルールを作り、世界に波及させる現象は「ブリュッセル効果」と呼ばれるようになった。ベルギーのブリュッセルに本部を置くことになぞらえたもので、ブラッドフォード教授がこの言葉を広めた。2018年導入の個人情報保護を厳格化したルール「一般データ保護規則(GDPR)」は、日本の個人情報保護法にも影響を与えた。EUは年内にAI規制法案をまとめる予定だ。

 「GDPRは採択時点で『ブリュッセル効果』を狙った訳ではなく、たまたま起きた副次的な効果だったとみている。しかし、EUは今、そうした考えを明確に受け入れるようになり、AIの分野でもブリュッセル効果を得たいと望んでいる。他の地域もEU型の規制の枠組みになれば、EUに拠点を置く企業の競争力強化に役立つからだ」

 ▽初の国際会議の成果は?


取材に応じるイギリス学士院チーフ・エグゼクティブのヒタン・シャー氏(共同)

 イギリスは「AIの父」と称される数学者アラン・チューリングを輩出するなどAIの歴史は深い。イギリス政府は11月、第2次大戦中にナチス・ドイツの暗号解読の拠点だったブレッチリー・パークで、AIの危機管理を主眼に置いた世界初の国際会議「AI安全サミット」を開いた。関連討論会に参加したイギリス学士院のチーフ・エグゼクティブ、ヒタン・シャー氏は、AI活用の在り方が岐路に立っているとの認識を示した。

 「米国、EU、中国が一堂に会して発言したことは非常に重要で象徴的だった。AI開発と規制は米欧中が大きな役割を担っており、(反対論がある中でも)中国を招待したことは正しい判断だった。意見の一致のポイントを理解する出発点となった」

 「私は討論会で『規制を厳しくしてもらいたくない』という企業と『もっと規制されるべきだ』という市民団体が対立すると予想していたが、実際にはそうはならなかった。企業は自ら規制を受けたいと言い、規制が導入されるまでの当面の対策を紹介していた」

 「国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のような機関の設立を求める声もがあるが、人によってその機関に何を求めるかのイメージが異なる。大事なのは科学的であることだ。一方で、国際的な規制機関の設立は実現しないだろう。各国が異なるアプローチを取りたいと考える場合、どうして規制する権利を他に委ねることになるだろうか」

 ▽AIは仕事を奪うのか?
 米国の起業家イーロン・マスク氏はスナク・イギリス首相との対談で「全ての仕事をAIが代わりにやる時がくる。人間にとって仕事は、やりたければやるというものになる」と述べ話題を呼んだ。シャー氏は、こうした指摘に疑問を呈する。

 「私はマスク氏の発言には懐疑的だ。現時点ではAIは仕事を奪うのではなく、増やすのに役立っている。しかし、こうした予測より、AI活用の在り方が分岐点にあると考える議論の方が有意義だろう。AIが仕事の手助けをしてくれ、恩恵が広く行き渡る世界に向かうのか、それとも例えば職場で人間を監視するために使われ、少数の人が利益を享受する世界に向かうかだ」


「AI安全サミット」で、参加者と話すイーロン・マスク氏=11月1日、ロンドン郊外(ゲッティ=共同)

 ▽規制に従うのは「善人」だけ
 イギリスのコンサルティング会社プロフュージョン・メディアは、AIやビッグデータを活用した分析手法を企業に助言している。航空会社の需要予測の的中率を20%向上させた実績もあるという。同社のアリステアー・デント最高戦略責任者は、規制を受ける立場からAI規制の意義を説明した。


取材に応じるプロフュージョン・メディアのアリステアー・デント最高戦略責任者(共同)

 「AIが社会にもたらすリスクは2種類ある。利用者の指示で文章などを作り出す生成AIは多くの間違いを犯す。間違っているのに、もっともらしい回答をする。業界はこうした事象を『ハルシネーション(幻覚)』と呼ぶことに熱心だが、実際にはエラーだ。利用者は生成AIの回答と、自分で意思決定する際の判断を分けて考えないといけない。もう一つのリスクは生成AIが誰の手にも渡るという事実だ。強力なツールにもかかわらず、ならず者の利用を防ぐことはできない。『善人』を規制できても『悪人』は規制を気にしない」

 「大企業は利己的な理由で規制強化を求めている。自社のAIツールを競合他社より倫理的なものにすれば、競争に勝てる可能性があるからだ。競合相手と条件が対等になることを望んでいる」

 「GDPRが発表された時、みんな意図しない結果がもたらされるのではないかと心配したが、実際にはウェブサイト上で(利用履歴収集に使われるクッキー取得に同意を求める)迷惑なポップアップが表示されることを除けば、肯定的に受け止められている。GDPRは必要以上のデータを取得してはならないとされている。企業側はデータ保存のコストを抑えられ、将来の訴訟リスクからも守られる。AI規制も実際には善人だけが対象になるとしても規制を設けることには意味がある」


「AI安全サミット」に出席したイギリスのスナク首相(前列右から4人目)ら=11月2日、ロンドン郊外(ロイター=共同)

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