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「日本で女性議員が増えない大きな理由のひとつは、ハラスメントでした」支援活動に走り回った研究者が痛感した、構造的な問題の根深さ

47NEWS / 2023年12月19日 10時0分

浜田真里さん=12月、東京都内

 2009年の春、大学3年生だった浜田真里さん(36)は、1年休学して世界一周の旅に出た。将来は海外で働くことも考えていたためだ。帰国後の就職活動の際、海外で働く選択肢に関する情報が少ないと感じていた。そこで、国際的に活躍する日本人女性へのインタビューを始め、内容をまとめたサイト「なでしこVoice」を開設した。
 インタビューは卒業後、マレーシアやタイで働き出してからも続け、男性も含めて千人を超える。ただ、話を聞く中で女性の多くの言葉に共通点があると気付いた。たとえば、こんな声だ。
 「以前は日本の商社に勤めていた。ずっと海外駐在を希望していたけれど、ポストが空いても、後任は後輩の男子ばかり選ばれた。理由は、女性社員が『結婚や出産で退職するリスクがある』と思われているから。いつ実現するか分からないから会社を辞め、海外で就職した」


 日本社会に存在する、ジェンダーをめぐる構造的な問題が、女性たちから活躍する場を奪い、国外に流出させている。「背景についてきちんと理解したい」。30歳を前にそう考えた浜田さんは日本に戻り、大学院でジェンダー問題を学ぶ。やがて、政治分野におけるジェンダーギャップの原因のひとつの根底に「ハラスメント」があることに気付いた。どういうことか。(共同通信=池田知世)


2023年の統一地方選で、街頭でマイクを握る候補者(記事と直接の関係はありません)

 ▽女性の生きづらさの根本は政治にある
 海外生活に一区切りを付けて帰国した浜田さんはお茶の水女子大大学院に進み、ジェンダーと政治が専門の申琪栄教授に師事した。
 学んでいく中で、女性が生きにくい社会構造となっている原因は「社会のルールである法律の制定を担う国会」や「地域の条例を決める地方議会」に、女性議員が少ないからだという確信を強めた。研究を通じて広く課題解決に役立ちたいと、政治の世界に向き合う道を歩んだ。
 中でも取り組んだのはハラスメント。この問題に行き着いたのは、女性である自分が議員になりたくない理由を考えた時にハラスメントの存在が浮かんだからだ。そこで、先行する研究状況を調べたところ、海外にはたくさんあるものの、日本ではほぼ見当たらない。それなら、自分が取り組もうと決めた。
 日本で研究が少なかったのはなぜか。こう考えた。「研究対象となる女性議員がそもそも少なかった。また、学会に参加してみても、周りは男性ばかり。研究する側にも女性が少なく、だからハラスメントがテーマになりにくかったのだろう」
 ハラスメントをテーマとした論文に取りかかった。まず、女性の地方議員や議員経験者に話を聞くと、想像以上にひどかった。共通した被害内容も多く、中でも新人議員の被害がひどい。こんな被害を受けていた。


福岡県議会主催のハラスメント研修会で講師を務める浜田さん=11月、福岡市

 「当選後すぐの1期目の頃は、Facebookで友達になると、メッセンジャーで『あなたの活動を教えて下さい。会いましょう』と言ってくる人が多かった。実際に会ってみると、結局『彼女を探しています』、『彼氏はいないんですか』という目的の人が結構いた。びっくりした。議員ってお嫁さん探しの場だっけ?と思った」
 「駅前での街頭演説(駅頭)を本当にしたくなくなってしまった。人と一緒じゃないと怖い。体を触ってくる人もたまにいて、しかも犯人がわからないことが多い。それが一番ストレスで、駅頭は怖いなと思った」
 研究を通して見えてきたのは、地方議員当選後の支援不足だ。
 ハラスメントは、加害者との間に「クッションとなる人」がいるかどうかで、被害者が受けるダメージは大きく異なることがヒアリングで浮かび上がってきた。特に、地方議員は、国会議員のように公費で秘書を雇える制度はなく、政党に所属しない無所属も多い。間に立つ人が少なく、孤立しがちだ。
 そこで、女性地方議員が孤立して苦しむ状況をなくそうと、「第三者として間に入る」サポートプロジェクト「Stand by Women」を2021年5月に始めた。


内閣府の調査研究報告書

 この時期、ハラスメントが女性の政治参画を阻む要因として少しずつ認識されつつあった。その年の4月に内閣府が公表した地方議員対象のアンケート調査では、こんな結果が出ていた。
 議員活動中の課題として「性別による差別やセクシャルハラスメント」を挙げた女性議員は34.8%。一方、男性議員は2・2%にとどまった。当選までの課題として同様に挙げた女性議員は24.9%、男性議員は0.9%だけ。いずれも大きな差だ。
 2021年6月には、政治分野の男女共同参画推進法改正で、ハラスメント対策が国や地方自治体に義務付けられてもいる。

 Stand by Womenの開始から約2年がたった今春は、4年に1度の統一地方選挙があった。研究とサポートの成果を生かす時が来た。
 浜田さんは女性候補を支援すると同時に、選挙ボランティアをする上での注意点をまとめたしおりを作成。インターネット上で無料公開した。女性議員を増やそうとボランティアをしたくても、経験がないために不安に感じる人たちに活用してもらう狙いだった。作成したしおりは2023年10月時点で6000枚以上配布し、現在もプロジェクトのサイト上で提供を続けている。
 活動はそれだけではない。ハラスメントについては、女性候補や議員からの相談に無料で応じるセンターも開設した。
 さらに、女性を選挙から遠ざける一因は、「子育て」を念頭に置いているとは思えない今の選挙制度にある。そう考えた浜田さんは、子どもを同伴した「子連れ選挙」を昨年の参院選で経験した元候補者らと共に、子育て世代の女性候補を支援する「こそだて選挙ハック!プロジェクト」も展開した。


統一地方選の女性候補者向けのハラスメント相談窓口を開設し、記者会見する浜田真里さん(右から2人目)ら=2月、東京都千代田区

 ▽「地殻変動」は感じたが…
 幸い、統一地方選では41道府県議選をはじめ、各種選挙の候補者や当選者に占める「女性数」や「女性率」が従来の記録を軒並み更新した。
 「地殻変動が起きつつある」と確かに感じた。
 しかし、まだまだ議員の圧倒的多数は男性。今回の支援活動を通じ、特に痛感したのは、地域的な偏りだ。大都会に比べ、地方ではまだまだ女性が当選しづらい。同じようにジェンダー平等を訴えているのに、なぜ結果が異なるのか。背景に何があるのか。新たな研究課題となった。
 相談センターに寄せられた相談からは、各政党による「公認」の問題も浮かび上がった。公認を得る過程での、さまざまなステークホルダーから受けるハラスメント。政治生命に関わる点では、有権者や支援者からの「票ハラ」より深刻と言えるかもしれない。加害者との関係の断ちにくさ、公認基準のあいまいさが、ハラスメントの温床になっている。


東京都内の書店に並ぶ小冊子「女性議員を増やしたい」=11月

 ▽もっともっと女性議員を増やすために
 女性議員をもっともっと増やしたい。ただ、浜田さんの頭の中に「自ら立候補」という考えはない。当事者という立場になると、ハラスメントのことはどうしても声を上げづらくなる。また、党派を超えた議員からのヒアリング調査や相談対応もしづらくなるだろう。自分の立場だからこそできる研究や支援活動を通じて、女性が政治の舞台にチャレンジしやすい環境を整えていきたいと考えている。
 最近では、個人で発行が可能な出版物「ZINE」の仕組みを活用し、女性の政治参加についてまとめた小冊子も出版した。女性議員を増やすには、投票や立候補する以外にもさまざまな方法がある。選挙ボランティアも一例だ。それを可視化したいと考え、ボランティア向けのしおりも付録としている。もちろん、ハラスメント問題も取り上げた。
 この小冊子のタイトルは「女性議員を増やしたい」。
 「日本には女性の政治家が少ないという問題意識を持った人が、何かできることを見つけるきっかけになれば」。
気軽に手に取れるようにと、薄く、軽く、小さい形にした一冊に、溢れるほどの思いが込められている。

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