〝民主の女神〟周庭さん、香港には「恐らく一生戻らない」…決断に至る心境は 精神の病に苦しみ、オンラインインタビューで日本旅行の希望も
47NEWS / 2023年12月11日 11時0分
香港の民主化を求めた2014年の「雨傘運動」や2019年の反政府デモで注目を集め、〝民主の女神〟とも呼ばれた周庭さん(27)=英語名、アグネス・チョウ=が2年半の沈黙を破り、留学先のカナダ・トロントに今年9月から滞在し「(香港には)恐らく一生戻らない」とインスタグラムで明らかにした。流ちょうな日本語で香港民主化への支持を訴え続けていた周さんの〝爆弾投稿〟は事実上の亡命宣言に当たる。決断の裏には一体何があったのか。オンラインインタビューで経緯や心境を聞いた。(共同通信香港支局長 一井源太郎)
▽強いられた反省文
周さんは2019年のデモを巡り、翌年、実刑判決を受けて服役。2021年に出所し、今年初め、カナダに留学したいとの希望を香港警察に伝えると、没収されていたパスポート返還の条件に中国行きを提示された。
「(拘束されるのではないかとの心配から)中国に行く前には不安しかなかった。恐怖しかなかった。カナダに行くための賭けだった」。中国入りせよという香港警察の要求に応じた時の心境をこう振り返る。香港国家安全維持法(国安法)違反の疑いで逮捕されたことのある周さんは、国安法違反罪で起訴される可能性が残っており、パスポートを没収されていたのはそれが理由だった。
「もし中国で何かあっても、だれも救いに来ないし、弁護士もいない。拘束されても、だれも知らない。香港に帰れるかどうかも分からない状況だったので、帰るまではすごく怖かった。断ればカナダに行けず逮捕の可能性もあると思った。私には選択肢がなかった」。当時を思い出すかのように不安げな表情を浮かべた。
8月に警察に付き添われて訪れた中国・深センでは、改革・開放政策の展示施設や中国IT大手、騰訊控股(テンセント)を見学。「祖国の偉大な発展を理解することができ警察に感謝する」との文章や、過去の政治活動を後悔し、今後は関わらないとする反省文を書かされた。
中国行きも反省文も「香港の法律に書いていないこと。なぜ警察はそういう権限を持っているのか」。自身が納得できないことを無理強いされ、それを拒否できなかった悔しさが表情ににじむ。
共同通信のオンラインインタビューに応じた周庭さん(共同)=12月6日
▽変わらぬ舌鋒
柔らかい物腰ながら、自身が不合理だと考える事柄については妥協せずにはっきりと意見表明する女性。2019年に来日した際の取材で私が抱いた印象は、逮捕や収監など普通は経験することのない困難を経た今も変わっていなかった。周さんは日本語を独学し、インタビューの全ての質問に日本語で回答した。
「雨傘運動」の大規模デモで、香港中心部の幹線道路をうめた参加者たち=2014年10月(共同)
2020年に国安法違反の疑いで逮捕されて以降は、不安障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病に苦しんできたという。民主派逮捕などのニュースを見ると「発作が出てすごく怖くなる。頭がすごく混乱して泣いたり叫んだりした」。
2021年6月の出所から今年9月の留学開始までの間は再び拘束されるのではないかとの不安にさいなまれていた。「(政治と無関係な)友人とご飯を食べたりすることはできたが、一緒に運動した人とは連絡を取らなかった。私も友達もいつでも逮捕される可能性があるので、連絡していることが知られたら、互いに悪い影響が出るかもしれないという心配があった」。仕事には行っていたが、それ以外はほぼ家にいたという。
香港の警察本部を包囲するデモに参加した周庭さん=2019年6月(共同)
民主派による表だった活動がほぼ封じられている香港の情勢については「一国二制度や三権分立、法の支配はなくなった。選挙制度も変わって完全に中国にコントロールされ、親中派じゃないと立候補できなくなった。香港政府は今でも常に法治社会だとか、一国二制度があると言っているが、民主的な選挙はなくなり、言論の自由、法の支配もなくなった」と鋭い舌鋒は鈍っていない。
▽将来の展望は
逮捕以降の3年間で自分にとって最も大きかったのは、精神的な病のことだったという。支えの一つとしてよく聴いたのが韓国の歌「私の思春期へ」。
「心に刺さった。政治的、社会的な歌でないが、うつの発作の時によく聴いた。悲しい曲だけど、希望もある」
将来については「まだ全く考えていない。自由に生きるだけで十分、という気持ち。この3年間で恐怖から自由になることがどんなに大事なものか分かった」と話す。ただ「カナダにも中国の秘密警察がいたり、そういう脅威がある」と警戒感を拭えないことをうかがわせた。
「今も香港でたくさんの人が自由を求めるために、民主主義を求めるために苦しんでいる。収監されて弾圧されて、何も言えなくなって、そういう社会になった。日本も含めた国際社会からの関心が大事だ」とし、香港の情勢に関心を持ってほしいと訴えた。
インタビューの最後に「(最近)フィルム写真にはまっている」と明かしてくれた。「日本にも行きたい。景色の良い場所に行って、フィルム写真を撮りたい。東京ディズニーランドに行きたい」。20代の女性らしい普通の希望を語る笑顔に救われた気がした。
保釈され、記者の質問に答える雨傘運動の元リーダー、周庭さん(中央左)=2019年8月、香港(共同)
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