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夜が明けると中国船団に囲まれていた!フィリピン軍補給船団の〝攻防〟8時間 上空に米軍機が旋回、現場取材で感じた「本物の緊張感」

47NEWS / 2023年12月11日 10時0分

11月10日、南シナ海のアユンギン礁に向かうフィリピンの巡視船を追尾する中国海警局の艦船(右奥)(共同)

 米中両軍がにらみ合う南シナ海の対立の最前線、アユンギン礁(英語名セカンド・トーマス礁)の緊張感は本物だった。11月8~11日にかけ、同礁のフィリピン軍拠点に向かう補給船を護衛する巡視船「メルチョラ・アキノ」に同行取材した。夜が明けると、中国船団に囲まれていた。まるで映画のようだった。その後、8時間にわたって続いた執拗な進路妨害。海上で威圧を張り合う危険なゲームのように感じた。
 今回の補給任務に対し中国が展開したのは過去最多の38隻。うち5隻は病院船を含む軍艦で、遠巻きに配置してフィリピン側を威嚇した。中国海警局の艦船の上空を、フィリピンを支援する米軍の偵察機が旋回し、にらみを利かせる。米国は南シナ海でフィリピンの公船が攻撃されれば防衛に加わると警告しており、偶発的衝突の恐れも懸念されている。(共同通信マニラ支局 マリカー・シンコ)

 ▽「異例の態勢」狙いは

 私が乗船した巡視船メルチョラ・アキノはフィリピン沿岸警備隊で最大。日本の円借款で建造し、昨年引き渡された全長97メートルの巡視船2隻のうちの1隻だ。沿岸警備隊にとって日本は最重要の協力相手。同型の5隻の追加供与も受ける見通しになっている。
 海軍がチャーターした補給船2隻を拠点に送り込むため、警護を担う沿岸警備隊は今回、メルチョラ・アキノのほか、同じく日本製の44メートル級2隻を含む巡視船計3隻を投入した。これまでは44メートル級2隻だったことが多く、異例の態勢。中国側の「注意を分散させる」(乗組員)のが狙いだ。
 さらに沿岸警備隊は、中国の「極めて無謀で危険な嫌がらせ」を訴えるため、国内外のメディア16社に同行取材を認めた。補給任務でこれほど多数の報道陣を受け入れたのは初めてだ。


11月10日、南シナ海のアユンギン礁に向かうゴムボートに掲げられたフィリピン国旗を持つ沿岸警備隊員(共同)

 ▽「戦い」前日、落ち着かぬ記者

 記者らは巡視船3隻に分乗。メルチョラ・アキノは南シナ海を臨むフィリピン西部パラワン島の中心都市プエルトプリンセサ沖の停泊地を11月9日午前9時に出発した。記者や乗組員らは携帯電話が通話圏外になる前に会社や家族に連絡しようと、電波が届く船尾に集まってきた。
 「また戦いになるだろう」。若い沿岸警備隊員が母親と思われる女性に話しかけている。「そんなこと言わないで」との女性の声が漏れ聞こえる。隊員は「でも今回はメディアも同行している。心配しないで。怖くないよ」と説得する。

 そんな会話を聞いていると「万が一、私に何か起きたらどうしよう」と感情が高ぶってきた。私も無性に家族に電話したくなった。私は前日、過去の補給任務の記録を読みあさっていた。10月には補給船団が中国の船に衝突されている。中国は今回、何をしてくるのだろうか?
 夕食時、心配で落ち着かない様子の記者らが船内の食堂に集まってきた。補給任務の同行取材を以前に経験したパラワン島の地元テレビ局記者は「怖くないですか」と聞かれ、「以前は怖かったよ。でも今はそれほどでもない」と答えた。そして「夜明けに合わせて準備を整えるのが大切だ」と教えてくれた。

 ▽異常接近

 助言は正しかった。10日未明、暗がりの中、周囲に多くの光が出現した。夜が明けていくと、中国の海警局や海上民兵の船団に囲まれているのが分かった。どこからともなく、突然やってきたかのような印象だ。


11月10日、南シナ海のアユンギン礁への途上、夜が明けて巡視船の周囲に姿を見せた中国の船団(共同)

 「ブオーン」。艦船は警笛をけたたましく鳴らし、繰り返し立ち退きを要求してきた。アユンギン礁に近づくにつれ、中国船はさらに増え、進路の直前を横切り、挟み込むような形で妨害されることもあった。
 「30メートルです!」。巡視船の甲板を走り回る隊員は、中国の海上民兵の船の異常接近を確認し、携帯無線機に叫んで報告した。民兵の船の乗組員からはカメラを向けられた。
 「この海域から即座に離れなさい」。44メートル級の別の巡視船「カブラ」の船橋には、中国側からの無線警告が響き渡った。乗組員は「妨害は比中関係に悪影響を与える」と必死に反論したが、中国側がひるむ様子はない。「中国へようこそ」。一部の記者の携帯電話には、中国のローミングにつながったとの表示が出た。


11月10日、南シナ海のアユンギン礁に向かうフィリピン巡視船に接近する中国の船団(共同)

 ▽ぎりぎりの計算

 中国の接近妨害は、衝突だけは避けるよう、ぎりぎりの計算をしているように見えた。挑発としか思えない。
 記者らは接近妨害や警笛などを一つ一つ記録しようとしたが、あまりにも多すぎて数え切れなくなった。上空に航空機1機が繰り返し飛来した。当初は民間機かと思ったが、実は米軍偵察機だったと後にフィリピン沿岸警備隊が認めた。


11月10日、南シナ海・アユンギン礁のフィリピン軍拠点に向かう補給船団の上空を旋回する米軍偵察機(共同)

 沿岸警備隊によると、中国がフィリピンの巡視船3隻に発した無線警告は計172回に達した。中国海警局の艦船はフィリピンの補給船2隻を護衛の44メートル級の巡視船「シンダンガン」から引き離そうと、わずか50メートルの距離に近づいて妨害した。補給船の1隻に向け中国海警局の艦船が放水砲を使用した。攻防の末、補給船2隻はアユンギン礁にやっと到達できた。


11月10日、南シナ海・アユンギン礁のフィリピン軍拠点への補給任務の際、中国海警局の艦船の上空を飛ぶ米軍偵察機(共同)

 ▽常駐兵士に試練

 フィリピン軍の拠点となっているのは、中国の海洋進出に抵抗するため、1999年にわざと座礁させた軍艦「シエラ・マドレ」だ。軍は兵士を送り込んで交代で常駐させ、定期的に水や食料などを補給してきた。


11月10日、南シナ海・アユンギン礁への補給任務の際、中国の海上民兵の船(左)に追尾されるフィリピン沿岸警備隊の巡視船(共同)

 シエラ・マドレの付近は浅瀬のため、メルチョラ・アキノは近づけなかった。だが、甲板にいた沿岸警備隊員が、約80年前に建造された老朽艦が青く澄んだ水平線に見えていると教えてくれた。名前の由来となった雄大な山脈とは異なり、茶色くさびついた無残な姿をさらしていた。
 フィリピン軍のブラウナー参謀総長は10月の記者会見で、シエラ・マドレの居住環境について「悲惨だった」と認めている。「まともな寝場所や食堂」をようやく整備。インターネットが使えるようにし、兵士らは家族と連絡して孤独を紛らすことができるようになったという。


11月10日、南シナ海のアユンギン礁で、フィリピン軍拠点となっている座礁艦。赤くさび付き、老朽化している(共同)

 ▽「死」との闘い

 だが、中国はアユンギン礁を仁愛礁と呼んで権益を主張、フィリピン軍拠点への補修資材の搬入を阻止。「朽ち果てるのを待つつもりだ」とフィリピン軍高官はいら立ちを募らせる。ブラウナー氏も「表面的な部分補修」しかできていないと語った。
 「死を待つ老人のようだった」。巡視船からゴムボートに乗り換え、シエラ・マドレ間近で見ることができた一部の記者らは、その惨状を「残念だ」と形容した。


11月10日、南シナ海・アユンギン礁のフィリピン軍拠点への任務を終えた補給船(手前左)と中国海警局の艦船(右)(共同)

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