本場・中国でパンダ人気が再燃!彗星のごとく現れたトップアイドル「和花」がブームをけん引 競争社会の疲れを癒やし、愛国心も揺さぶる
47NEWS / 2023年12月14日 10時0分
パンダの本場・中国でパンダブームが巻き起こっている。ごろんと寝そべり、竹をもぐもぐ食べ続ける姿が、競争社会に疲れた人々を癒やしている。今年2月に東京都の上野動物園から中国に返還された雌のジャイアントパンダ、シャンシャンの人気に代表されるように日本のパンダ熱が中国国内に伝わって、人気が再燃したのも一因とみられる。
さらにパンダ界に彗星のごとく現れた「和花(ホーファ)」が瞬く間にトップアイドルに駆け上り、今回のブームをけん引する。パンダがもたらす経済的恩恵も大きく、新たな雇用も生み出されている。
一方で、主な生息地の一つ中国四川省に和服姿のパンダ像が登場すると「親日だ」と炎上する騒ぎも発生した。「国宝」として大事に扱われるパンダは中国人の愛国心をも揺さぶるとともに、「大国」の外交カードとして利用されている。(共同通信中国総局 杉田正史)
▽日本のスター、本場でも健在
11月上旬、私は中国四川省にある中国ジャイアントパンダ保護研究センターの雅安碧峰峡基地を訪問した。
豊かな緑に囲まれた飼育施設から、丸みを帯びた体がゆっくりと現れた。食べ物が置かれた場所に到着すると、真っ先に大好物のリンゴをくわえ、器用に両手を使って口に運んでいった。
今年2月、日本から中国に返還されたシャンシャン。多くの日本のファンが別れを惜しみ、涙する姿も見られた。シャンシャンのスター性にあふれたキュートさはパンダの本拠地の中国でも健在だった。
中国に返還されたパンダのシャンシャン=11月、四川省のジャイアントパンダ保護研究センターの雅安碧峰峡基地(共同)
シャンシャンの飼育を担当する趙蘭蘭さんによると、基地に到着した後、走り回ったり、食事を拒否したりと、非常に強いストレス反応が出た。趙さんは、シャンシャンの音に敏感で臆病な性格から、新しい環境に適応するまで時間を要すると判断した。焦らないで意思疎通を図っていき、信頼関係を築くことを大事にしたという。
8月以降、人目に触れないように現在の生活エリアで周囲の音に少しずつ慣れさせていった。国慶節(建国記念日)に伴う連休が終わり、来園者数が落ち着いた10月上旬、一般公開に踏み切った。趙さんは「中国でもシャンシャンが戻ってくることが話題になっていた。多くの人が観覧に来ています」と人気ぶりを語る。
パンダを撮影するためスマートフォンを掲げる人たち=5月、中国四川省の成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地
▽思わずパンダに嫉妬
シャンシャンの1日の主な食事は、竹16キロとタケノコ6キロ、リンゴ400グラムなど。にんじんは挑戦したが好みではなかった。発情期を迎えて適切な時期が来たら「恋人」探しをする予定で、好みのタイプはまだ分かっていない。趙さんは、シャンシャンが暮らす環境は動物園とは異なり「パンダの生活習慣に合わせ、できるだけ放し飼いで飼育している」と語り、中国国内で「最も権威がある専門的な飼育施設です」と誇る。
実際に中国四川省はパンダの研究や飼育が盛んで、今年に入って地元の西華師範大学と共同で全国初となる「パンダ学院」が設立された。来年に開校する予定となっている。パンダの文化の伝承や国際交流を目指し、レベルの高い人材を養成していくことを目的としている。
中国に返還されたパンダの桃浜=11月、四川省の成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地(共同)
四川省には「成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地」と呼ばれる施設もあり、シャンシャンと同じ時期に和歌山県白浜町のレジャー施設「アドベンチャーワールド」から返還された永明(えいめい)と双子の桃浜(とうひん)と桜浜(おうひん)も生活する。3頭の日本での人気ぶりは、シャンシャンと合わせて中国でも伝えられた。
シャンシャンに会った翌日にこの施設を訪れると、一般に公開されていた桃浜と桜浜を見ることができた。昼寝をしたり、竹を手に取ったり、終始リラックスした様子で、思わず「うらやましい生活だな」と嫉妬心に駆られた。
中国に返還されたパンダの桜浜=11月、四川省の成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地(共同)
▽落ち着いたトップアイドルの風格
「あっ、動いた!」。スマートフォンのレンズがパンダの一挙手一投足を捉える。今年5月、桃浜と桜浜、永明が生活する成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地は人でごった返していた。「立ち止まらないで」。警備員が「DJポリス」さながら手際よく観覧者を誘導していく。
この基地では多数のパンダを間近で観覧することができる。その中でも絶大な人気と知名度を誇るのが雌の3歳パンダの和花だ。
「争いを好まない穏やかな性格」(中国人記者)が魅力で、この日も長蛇の列ができていた。
大勢の人で混雑する中国四川省の成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地。警備員が「DJポリス」さながら観覧者を誘導していた=5月(共同)
中国では不況や就職難が続く中、若者の間では出世や消費に意欲を見せず、インターネット上で流行した「躺平(タンピン)」に表されるように頑張らない生き方に共感が広がる。成都の飲食店に勤める20代女性は和花のぬいぐるみを持ちながら「無理をしない、やる気もない後ろ姿が素敵」と魅力を語る。
トップアイドルの和花の「吸引力」は、地元経済にもプラスの影響を与えている。
中国メディアによると、5月の労働節(メーデー)前後の連休期間中、和花を目当てに四川省に26万人以上が訪れ、飲食代や宿泊費など観光客1人当たりの消費を1450元(約3万円)押し上げた。パンダ関連のビジネスで毎年約34万人の雇用が生まれており、数百億元の経済利益がもたらされているというデータもある。
しかし中国の象徴、パンダは国の誇りも背負っている。
パンダの和花=6月、中国四川省成都(共同)
今年、四川省雅安市にある和服姿のパンダ像の写真が交流サイト(SNS)に出回ると、「日本の伝統服を着せるな」と批判が殺到した。中国から米国の動物園に貸与されていたパンダが今年2月に死んでいるのが見つかった際には、中国国内で「虐待だ」と反米感情に火が付いた。パンダを巡る炎上が多発する事態に、中国メディアは「愛国心をアクセス稼ぎに利用すべきではない」とくぎを刺した。
▽各国に貸与、外交カードに利用
ジャイアントパンダの主な生息域は中国内陸部の四川、陝西、甘粛の各省で、中国名は「大熊猫」。中国政府はパンダを「中国の国宝であり名刺」と位置付け、2022年の北京冬季五輪では大会マスコット「ビンドゥンドゥン」のモチーフにも選ばれた。野生のパンダは1800頭を超え、飼育下のパンダは700頭近くとされる。
中国はパンダの提供を通じて各国との関係強化や友好を演出する「パンダ外交」を展開しており、中国の習近平指導部は「大国外交」の切り札として、パンダを積極利用している。11月には米国との首脳会談実現を受けて新たにパンダを貸し出す意向を示唆し、米中関係の緊張緩和へ秋波を送った。中東地域への影響力拡大を図る中で、カタールにパンダを貸与した。パンダを「友好の使者」として各国に届けることで、中国脅威論を和らげる狙いも背景にはありそうだ。
米中友好団体による夕食会で演説する中国の習近平国家主席=米サンフランシスコ(新華社=共同)
「パンダの保護で協力を続けたい」。米国で開かれた11月15日の米中首脳会談後の両国友好団体による夕食会のスピーチ。中国の習近平国家主席は「多くの人がパンダとの別れを非常に惜しみ、動物園に見送りに行ったと聞いた」と語り、米国への新たなパンダ貸与をほのめかした。
中国に返還されるパンダを輸送するため用意された車両=11月、米ワシントン(ロイター=共同)
その1週間前、米首都ワシントンのスミソニアン国立動物園で生活していたティエンティエンなど3頭のパンダが返還期限の延長がかなわず、中国に旅立った。米国には他に4頭が残っているが2024年末までに全て返還される計画で、半世紀にわたって両国の架け橋となったパンダが不在になる可能性が高まっている。仮に新たな貸与が実現すれば、「ゼロ」は回避される。
習氏は2019年にロシアを訪れた際、モスクワの動物園で飼育されているパンダを視察した。同席したプーチン大統領は「パンダは中国のシンボルで、友好的な行動を高く評価している」と持ち上げた。
モスクワの動物園でパンダを視察するロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席=2019年6月(タス=共同)
また、中国は安全保障やエネルギーの分野で中東諸国との関係強化を模索し、2022年10月、カタールにサッカーのワールドカップ(W杯)の大会記念の「贈り物」として、中東で初めてとなるパンダを2頭、15年間の契約で貸し出した。
日本へも1972年の国交正常化を契機にパンダの貸与が開始された。現在は国内で計9頭が暮らしているが、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を巡り日中関係の溝は埋まらず、パンダ交流の継続に不透明感も漂っている。
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