友人は殺され、自宅は全壊した…もはや10月以前のガザは存在しない 眼前で泣きじゃくる6歳児は「攻撃をやめてほしい」と訴えた【共同通信ガザ通信員手記】
47NEWS / 2023年12月13日 11時0分
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエル軍との戦闘が始まり2カ月以上が経過した。現地で取材を続ける共同通信ガザ通信員、ハッサン・エスドゥーディー氏(26)は友人を亡くし、爆風による窓ガラスの破損で自身も負傷した。北部ガザ市から避難した南部ハンユニスには避難者が押し寄せ、水も食料も不足する。エスドゥーディー氏が手記を寄せた。(翻訳、構成は共同通信エルサレム支局長 平野雄吾)
ハッサン・エスドゥーディー氏(共同)
▽ろうそくの火で執筆する
10月7日に戦闘が始まった直後、父(50)や母(43)、2人の兄がガザ市からハンユニスの友人宅へ退避した後、私はガザ市にとどまり、オフィスで仕事を始めた。そこは宿舎にもなった。ガザ保健当局やハマス、国連諸機関の発表をまとめ、街で市民に取材し、共同通信エルサレム支局に伝えるのが私の仕事だ。イスラエルは10月9日以降、「ガザを完全に封じ込める」として燃料や電気を遮断、オフィスの電気も時折停電し、ろうそくの明かりの下で執筆することも多くなった。
イスラエル軍の空爆で立ち上る黒煙。ハッサン・エスドゥーディー氏がパレスチナ自治区ガザ市にあるオフィスから撮影した=10月16日(共同)
食事は1日1回、ツナ缶とパンになり、シャワーを浴びる代わりに、ペットボトルの水で頭を洗った。16階にあるオフィスの窓からは空爆の炎や黒煙が見え、市民の泣き叫ぶ声が響く。爆弾は陸海空から撃ち込まれ、ビルそのものが振動に襲われる。
取材の過程で情報収集をしていると、友人の死にも直面した。同じ大学を卒業し、同じジムに通うハレド・ジャダール(26)。写真を撮るのが好きな男だった。記者仲間のサイード・タウィール(35)。料理が得意な男で、よく一緒に食事をした。冗談を言うのが好きで、戦闘が始まってからも記者仲間を和ませてくれたが、「プレス」と書かれたベストを着ていたにもかかわらず、路上で取材中に殺害された。
イスラエル軍の空爆で立ち上る煙=10月12日、パレスチナ自治区ガザ市(ハッサン・エスドゥーディー氏撮影、共同)
私自身も被害に遭った。10月29日夜、近くの電気通信施設を狙った軍艦による艦砲射撃でオフィスの窓ガラスが割れ、破片が飛び込んできた。デスクを離れ慌てて身を伏せた。激しいほこりがオフィスを覆い、視界を失う。慌てて1階まで階段で避難した。気が付くと、腕には無数の切り傷があった。この日の晩は床で眠った。
これを機に私はガザ市残留に身の危険を感じ、ハンユニスの家族との合流を決めた。だが、避難するのも一筋縄ではいかない。記者仲間1人を助手席に乗せ車を運転中、数メートル先に爆撃があったのだ。急ブレーキで停車、車を降りて身を伏せた。煙が収まり前方を見ると、直系5メートル、深さ3メートルほどの大きな穴が目に入る。まるで私たちを標的にしたかのようだった。
イスラエル軍の攻撃で破壊された建物=10月16日、パレスチナ自治区ガザ市中心部(ハッサン・エスドゥーディー氏撮影、共同)
▽初めて目にしたハマスの「勝利」
戦闘開始日を思い出すことがある。自宅はガザ市東部、イスラエルとの境界から5キロにあった。衝撃音で目が覚め、窓から外を眺めると無数のロケット弾がイスラエルに撃ち込まれている。モスク(イスラム教礼拝所)から流れる「アラー・アクバル(神は偉大なり)」の絶叫。イスラエル軍の報復攻撃が容易に予想され、すぐに避難を開始した。
見たことのない光景が目に飛び込んでくる。イスラエル軍の車両を運転するハマス戦闘員、イスラエル兵の遺体を引きずり、服を引きはがす人…。「勝利の祝砲」が空に撃たれる。らんちき騒ぎだった。自宅はその後、全壊したと聞いている。
▽物資が足りない
南部へ移動してからは避難所や病院への取材が増えた。北部の住民が南部への避難を強要されたため、南部はとにかく人であふれている。多くが親族や友人の家、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)運営の学校、あるいは病院に身を寄せるが、場所が足りない。生きるための物資も十分にはない。
ハンユニスのナセル病院では、廊下に患者も避難者も横たわっていた。その廊下で、麻酔なしで負傷者の傷口を縫う医師らの姿があった。外科医師ウンムイスラムさん(32)は「手術室に空きはないし、麻酔も十分にない。ガーゼも薬も足りない」とやつれた表情で力なく語った。「停電も頻繁で、治療記録を入力するパソコンももう立ち上がらない」
パレスチナ自治区ガザ南部ハンユニスのナセル病院に搬送された負傷者ら=12月5日(ロイター=共同)
病院では中庭にテントを張り、避難者を受け入れている。しかし、食料や水が全員には行き届かないのが実情だ。十分に浄水されていない地下水を飲んでしのぐ避難者もいる。「何も飲めないよりは多少塩辛くても、水を飲みたい」。そんな声が聞こえてくる。病院に避難していた小学生ユスフ君(6)は私の前で泣きじゃくった。「水も食べ物もいらない。ただ、攻撃をやめてほしい」
病院の敷地で子どもと暮らす避難民の女性=12月3日、パレスチナ自治区ガザ南部ハンユニス(ゲッティ=共同)
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は学校にも入りきらない避難者のため、畑だった空き地に数百のテントを設置した。布製のテントが所狭しと並び、ロープに干した色とりどりの洗濯物が風に揺れる。応急的につくられた「難民キャンプ」だが、こうしたテントは1948年のイスラエル建国に当たり約70万人のパレスチナ人が故郷を追われた「ナクバ(大惨事)」を想起させる。ガザ住民の多くはその子孫で、ナクバの記憶は私を含めパレスチナ人に染みついている。ある高齢男性は「第2のナクバだ」と言った。周囲には、テントにさえ入れない避難者が木の下に段ボールを敷いて眠っていた。
パレスチナ自治区ガザ北部、10月10日撮影・イスラエル軍が攻撃する前、10月21日撮影・攻撃された後(マクサー・テクノロジーズ提供、共同)
病院も銀行もモスクも学校も、民間施設が次々と破壊されている。もはや10月以前のガザは存在しない。復興にどれだけ時間がかかるのか。ふと考えるが、戦闘そのものが終わっていない。
私は今、ハンユニス北部の友人宅に家族と共に十数人で身を寄せている。イスラエル軍の攻撃は激しさを増し、近くが爆撃されることもしばしばだ。多くの住民が避難し始め、私も再避難を考えるが、行く当てがない。
× × ×
ハッサン・エスドゥーディー 1997年、ガザ市生まれ。大学卒業後、UNRWAや地元メディアを経て、2023年から共同通信ガザ通信員。
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