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「日本でこんなに人気になるとは…」韓国ドラマはなぜ世界的ヒット連発? 始まりは20年前「冬のソナタ」の熱狂 自信を持った制作陣、ネトフリも追い風に

47NEWS / 2024年1月1日 10時0分

2004年11月に来日した韓国ドラマ「冬のソナタ」主演の「ヨン様」ことペ・ヨンジュンさんを熱狂的に迎えるファン=成田空港

 雪景色を背景に男女の純愛を描いた韓国ドラマ「冬のソナタ」は、日本で韓流ブームに火を付け、ドラマの国際市場を切り開いた。〝ヨン様〟が熱狂を呼んだ初放送から20年。韓国ドラマは日本に浸透し、今や世界的な人気を誇る。その成功への軌跡をたどると、決して順風満帆ではなく、政治の荒波にもまれながら挑戦と進化を続ける姿が見えてきた。(共同通信=楡金小巻)


2004年4月に来日した韓国ドラマ「冬のソナタ」主演の「ヨン様」ことペ・ヨンジュンさん=羽田空港

 ▽「こんな世界があったのか」目からうろこ
 2003年4月3日夜、北海道室蘭市に住む小野ひろみさんは、帰宅後にたまたまつけたNHKのBS放送に心を奪われた。「何だろう、ずいぶんきれいなドラマだな」。当時は仕事に子育て、親の介護と忙しく、ほとんどテレビを見ない生活だったが、冬ソナの初回放送で美しい映像と音楽に引きこまれた。


 「翌日から次の放送を逃すまいと、新聞のテレビ欄を毎日チェックしました」
 それまでエネルギッシュで劇的な展開の韓国映画は見たことがあったが、ドラマは初めて。「冬ソナは柔らかく叙情的。俳優さんもナチュラルメークで、声がきれいで美しい。こんな世界があったのかと目からうろこが落ちる思いで、見事にはまりました」
 同僚や友人にも勧めると次々にはまった。小野さんはドラマを見るだけでは飽き足らず「この国をもっと知りたい」と日韓の近現代史を学び直し、仲間と韓国語も勉強。冬ソナを通じて世代を超えた友人と出会い、何度も渡韓した。
 「冬ソナは私の人生を彩り豊かにしてくれた。韓国ドラマ熱は今なお冷めません」


日本での「冬のソナタ」放送20周年記念イベントに出席したPANエンタテインメントの金喜烈副社長=2023年7月、北海道千歳市の市民文化センター

 ▽手紙ドカドカ2万通「尋常じゃない」
 NHKのチーフプロデューサーを務めた小川純子さんによると、NHKの海外ドラマはそれまで「アリー・myラブ」「ER 緊急救命室」など欧米作品が中心で、アジアのドラマシリーズ自体が初めてだった。
 中国や香港、台湾の作品も検討し、日本の視聴者になじむ作品の選考が続いた。「その中でもユン・ソクホ監督の冬ソナは演技が非常に抑制的で、自然の情景描写が美しい。『これなら日本の視聴者にも見てもらえるのではないか』と選ばれたそうです」
 視聴率は人気シリーズ「ER―」を1カ月で抜き、視聴者から手紙が続々と届き始めた。「通常なら1週間で1、2通のところ1年で2万通。手紙が入った段ボールがドカドカと運び込まれ、尋常じゃなかった」
 手紙は60代以上からも届き、中には筆でしたためられた巻紙も。ドラマの感想に加え「戦争で生き別れになった初恋や、夫とのなれそめなど、ご自身の思い出を語る方が多かった。冬ソナは、誰しもが心にしまった思い出の鍵を開けるような作用があったのではないでしょうか」。冬ソナは「恋愛ドラマを見る60代以上の女性」にも光を当てた。
 翌2004年の4月に地上波で放送されると空前のブームに。主演のペ・ヨンジュンさんが表紙を飾る雑誌は予約時点で完売した。〝ヨン様〟が来日した羽田空港には中高年を中心に女性約5千人が押し寄せた。ロケ地の韓国・春川市には多くのファンが訪ねて一大観光地となるなど、社会現象となった。


韓国・春川市で2004年12月、「冬のソナタ」の主演俳優ペ・ヨンジュンさんとチェ・ジウさんの銅像の除幕式が行われた(共同)

 ▽冬ソナが生んだドラマ産業、輸出へ
 冬ソナを制作したPANエンタテインメントの金喜烈(キム・ヒヨル)副社長は「過去に複雑に絡み合った日韓関係の影響で、長く日本への市場進出は難しかった」と振り返る。状況を変えたのは、両国が未来志向の関係をうたった1998年の日韓共同宣言だった。2002年のサッカーワールドカップ(W杯)日韓共催に向けた文化交流が始まり、韓国ドラマも日本の地上波で放送されるように。そこで爆発的ブームが生まれ「ドラマ制作者は日本を新たな市場と捉え、多くの会社がドラマを作り始めました」。
 韓国の放送局SBSで韓流スター、チャン・グンソクさん出演の「美男(イケメン)ですね」を制作した洪性昶(ホン・ソンチャン)さんも「韓国ドラマを産業化させたのは冬ソナ」と言い切る。現在、SBSが設立した制作会社「スタジオS」の制作局長を務める洪さんは「日本の市場でドラマが売れると分かりアジア、中国へと広げていった。文化は輸出できると自信を持てるようになった」。
 ペ・ヨンジュンさんに続き、チャン・ドンゴンさんやイ・ビョンホンさん、ウォンビンさんが日本で「韓流四天王」として人気を集め、出演作がこぞって買い付けられた。音楽にも波及し、2008年には東方神起が、2011年には少女時代とKARAがNHK紅白歌合戦に初出場し、K-POPが韓流をけん引するようになった。


韓流スター、チャン・グンソクさん(左端)が出演したドラマ「美男(イケメン)ですね」。U―NEXTで配信中(ⓒSBS)

 ▽日韓関係が冷えると中国そして世界配信へ
 しかし翌2012年から韓流は国際政治の荒波にほんろうされる。李明博(イ・ミョンバク)大統領の竹島(韓国名・独島)上陸で再び日韓関係は急速に冷え込む。日本へのドラマ輸出は減少し、不況に陥るかに思われたが、同時期に中国でドラマブームが起きた。
 「日本に代わる市場として芸能人やクリエーターが進出し、日本での人気で高騰した制作費にも耐え得る新しい道が開かれた」とPANエンタテインメントの金副社長。潤沢な中国資本で韓国ドラマはよりダイナミックな演出や撮影が可能となり、高い技術と経験が蓄積されていった。
 その中国での好景気も長くは続かない。2016年に韓国が米軍の迎撃システムの配備を決定すると「限韓令」が出され、韓国ドラマの放送が制限されてしまう。再び危機に見舞われたが、今度は動画配信大手「ネットフリックス」が放っておかなかった。同年、韓国に支社を設立。毎年数百億円規模の費用を注ぎ、優秀な人材を確保してオリジナルコンテンツを制作し世界配信に乗り出した。


韓国の大手エンターテインメント企業「CJ ENM」のIP(知的財産権)戦略を担当する李起赫局長。「良い企画のため、脚本家に一定の前金や時間的余裕を与える契約も結んでいる」と話す=ソウル(共同)

 ▽IPが生んだ「愛の不時着」
 韓流は、動画配信サービスという新たな大波に乗る。ネットフリックスが韓国に進出した2016年、放送局主導のドラマ作りから脱却する制作会社スタジオドラゴンが設立された。やがて「トッケビ」「愛の不時着」などの大ヒットで知られるようになる。
 親会社の大手エンターテインメント企業「CJ ENM」のIP(知的財産権)戦略担当の李起赫(イ・キヒョク)局長によると、当時は国内放送に伴う広告収入が収益の柱だったが、インターネット広告の影響もあり市場は縮小していた。「放送で得られる収益は限界があり、このままではクオリティーも上げられない。作品で得た収益を次のコンテンツに投資する好循環を生み出すには、スタジオを設立し知的財産権を確保する必要があった」と語る。


ネットフリックスで配信中のドラマ「愛の不時着」より。ヒョンビンさん(右)とソン・イェジンさん

 ▽「一つの文化」のように広がる韓流
 スタジオドラゴンは企画から制作、流通までを一手に担って主導権を持ち、それまでテレビ局の下請けのようだった立場を逆転させた。脚本家や監督ら約250人と契約を結び、創作のための一定の前金を渡すなど、優れたコンテンツを生む体制も整えた。
 放送局中心のドラマ制作から解放されたことで、既存のジャンルにとらわれない発想も可能となり、ネットフリックスから投資を受けたスケールの大きな制作も実現した。北朝鮮エリート将校と韓国の財閥令嬢の純愛という南北問題とラブストーリーを掛け合わせた「愛の不時着」もその一つ。2020年に日本で配信されると冬ソナ以来の韓国ドラマブームを再燃させた。
 「愛の―」はもともと韓国の視聴者をターゲットに作られ、李局長によると、これまで海外で成功した作品の大半が国内の視聴者を意識したものだという。そうした韓国ドラマが世界で視聴者を獲得する理由を、CJ ENMの徐章豪(ソ・ジャンホ)常務は「人と人との関係性を特によく表し、温かい情緒の描写に優れている」と分析する。
 またアジアを越え、国際的に広がりを見せる韓流について「日本における人気が始発点になったのは確かなのではないか」と指摘。冬ソナを機に「韓流は一過性の人気現象でなく、一つの文化のように、映画や音楽、食べ物など多様な分野に広がった」。


2022年の米エミー賞で主演男優賞を受賞した韓国ドラマ「イカゲーム」のイ・ジョンジェさん(ロイター=共同)

 ▽資源の少ない国で人材生かす
 韓国ドラマの成功を語る上では手厚い支援も欠かせない。政府系機関の韓国コンテンツ振興院はドラマやゲームなどの産業に年間約5千億ウォン(約500億円)をかけ、審査で選ばれたドラマに企画段階から資金を提供。プロデューサーや脚本家など若手を育成する教育プログラムにも力を入れている。
 2017年には韓国中部・大田(テジョン)市に、広さ6万平方㍍を超える国内最大級の「スタジオキューブ」を建設した。六つの室内スタジオなどを備え、世界的な大ヒット作「イカゲーム」も撮影された。管理に当たる韓国コンテンツ振興院の李知奐(イ・ジファン)チーム長は「動画配信サービスの普及で大型作品の撮影を可能にするスタジオが必要になったが、民間では手が出せない」。
 韓国は、フランスに次ぎ世界7位の規模とされるコンテンツ産業の拡大を目指している。韓国コンテンツ振興院の李咏勲(イ・ヨンフン)日本ビジネスセンター長は強調する。
 「資源の少ない韓国で、人材を生かせるのがクリエーティブ産業だ。短期間で発展するには国の支援は必須で、大手企業が独占しないためにも、多様な制作会社が互いに鍛えるできる環境を整えなければならない」


日本での「冬のソナタ」放送20周年記念イベントに出席したPANエンタテインメントの金喜烈副社長=2023年7月、北海道千歳市の市民文化センター

 ▽20年で「出演料100倍」の俳優も
 世界的コンテンツを生み出す韓国ドラマだが、作り手の頭を悩ませているのが制作費の高騰だ。韓国ドラマ制作社協会によると、5年前から1話当たりの制作費は平均で3倍に膨張した。動画配信大手はさらに桁違いの巨額を投じており、撮影中の「イカゲーム2」の制作費は総額800億ウォン(約80億円)とも1千億ウォン(約100億円)ともささやかれる。
 中でも制作費を圧迫しているのは俳優の出演料だ。関係者によると、トップ俳優が1話あたり200万ウォン(約20万円)未満だった冬ソナ時代の相場から「100倍に上がっている人もいる」という。
 韓国ドラマ制作社協会の裴大植(ペ・デシク)事務総長は「演出料や脚本、俳優の出演料の全てが値上がりし、業界全体の相場を押し上げている」と、予算確保が難しい放送局などの苦境を明かした。
 動画配信サービスの巨額投資は、制作会社に映画並みの制作の規模や裁量を与える半面、課題も突きつけている。制作費の見返りに作品の知的財産権を渡さざるを得ないことが多く、二次的な収入が見込めないからだ。


ネットフリックスで配信中の「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」より

 ▽ほんろうされながら進化
 最近は、その知的財産権の獲得に打って出て成功したケースも出ている。自閉スペクトラム症の弁護士が主人公の法廷劇「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」の制作会社は、大手の投資話を断って初期費用を自ら負担し、知的財産権を確保した。作品は大ヒットし、海外でのミュージカル化などでさらなる収益の拡大が見込まれている。
 制作費の高騰に頭を悩ませるドラマ業界だが、裴事務総長は言う。「苦しい時期があってもいずれまた勢いを取り戻すでしょう。これまでも韓国ドラマはその力を作品で証明してきました」
 外交や政治にほんろうされながらも市場の変化に柔軟に対応し、進化と挑戦を続けてきた韓国ドラマ。ロマンスにサスペンス、時代劇など多様なジャンルに挑み、ジェンダーや格差社会、いじめといった社会の暗部にも果敢に切り込んで支持を集めている。ネットフリックスに続き、アップルTVやディズニープラスなど動画配信大手各社がオリジナル作品の配信に乗り出した。世界を舞台に磨かれてきた韓流コンテンツに、私たちはこれからも熱い視線を注ぐことになりそうだ。

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