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「命だけは助かった」でも…残された荷物はどうなった? 羽田の航空機炎上事故、避難した乗客が語る「その後」

47NEWS / 2024年1月13日 10時30分

羽田空港の滑走路で炎上するJAL516便と逃げる乗客ら=2日午後(乗客提供)

 羽田空港滑走路で起きた日本航空(JAL)の衝突事故。埼玉県に住む30代の鈴木浩一さん=仮名=も乗客の1人だった。客室乗務員の指示に従い、脱出用シューターをすべり降りた後、安堵の思いがこみ上げた。「命が助かって良かった」。一方で、身の安全が確保されたことを自覚した時、ぼんやりと思った。「荷物はどうなるんだろう」
 1月2日の事故では、炎上する機体のショッキングな映像とともに、乗客乗員379人が全員無事だったことで世界中に驚きを与えた。ただ、着の身着のままで空港に留め置かれた乗客は、その後どうしたのだろう。貨物室に残された荷物約200個や、機内に持ち込んで収納棚にしまった手荷物の中には、乗客にとって大切なものもあったはず。荷物の返還や補償はどう進むのか。北海道旅行の帰りに巻き込まれた鈴木さんに、未曽有の航空事故の一部始終と「その後」を語ってもらった。(共同通信=助川尭史)


羽田空港の滑走路で炎上するJAL516便=2日午後6時48分

 ▽炎上する機体、財布とスマホだけを手に脱出
 鈴木さんは昨年末から3泊4日の日程で札幌の友人を訪れ、埼玉の自宅に戻るため、2日の便に搭乗した。
 北海道旅行は、新型コロナウイルス禍以降初めて。年始で値が張る時期だったが、JALを予約した。理由は、以前に格安航空会社(LCC)を利用した際、積雪で欠航したのに振替便がなかったため。「万が一」を考え、便数が多い航空会社を選んだ。
 羽田空港に着いた午後5時47分、着陸の衝撃と同時に「ドン」という別の大きな衝撃があった。窓を見ると、エンジン部分からオレンジ色の火が出ていた。衝撃が収まった後、機内は煙が充満し、辺り一面に焦げ臭いにおいが立ちこめた。

 「衝撃があってから非常ドアが開くまで5分ぐらいだったと思うけど、すごく長く感じました。収納棚から荷物を取りだそうとした人もいましたが、客室乗務員さんに『手荷物を取り出さないでください』と言われ、みんな指示に素直に従っていました。避難は比較的スムーズだったと思います」
 鈴木さんが身につけていたのは財布とスマホだけ。脱出用シューターをすべり降りた直後、右のエンジンから「ウィーン」とうなるような音が上がった。
 「離れて!」
 客室乗務員の声を頼りに走って機体から離れた。近くにいた乗客たちと、燃え盛る機体を遠巻きに見つめた時、安堵の思いと同時に「荷物はどうなるんだろう」と思った。
 預けたトランクの中には、4日分の着替えや職場へのお土産、友人宅で遊ぶために持参したニンテンドースイッチが入っていた。


炎上したJAL516便から避難した乗客たち=2日午後7時56分、羽田空港(画像を一部加工しています)

 ▽タクシー代3万5千円、焼失した荷物の補償は…
 避難した乗客は、全員の安否確認が終わってから約1時間後、バスに乗せられて空港内のホールに集められ、毛布やおにぎりなど簡単な食事が配られた。
 「預けた荷物はどうなるのか」
 JALの係員に尋ねる人もいたが、係員は「後日住所に送る」「詳しいことはお伝えできない」と答え、具体的な話はなかった。
 ホールの出口は帰宅を急ぐ人で大混雑している。鈴木さんが交通費の精算用紙を受け取り、外に出た頃には午後10時半をまわっていた。
 終電がなかった鈴木さんは、タクシーで埼玉の自宅に帰った。料金は3万5千円。既に日付は変わっていた。
 「事故当時はそんなに恐怖心とかは感じなかったのですが、自宅に帰ると興奮していたのか、全然寝付けませんでした。友人からきていたLINEを返したり、事故のニュースを読みあさったりして、夜中の3時頃になってやっと寝ることができました」
 翌朝午前10時、JALの専用ダイヤルから着信があった。


事故後にJALから届いた補償案内

 電話に出ると、オペレーターからは事故の謝罪と「荷物は探せない状況にある」との報告があった。お見舞金と荷物の焼失の補償分を合わせて計20万円が支給されるので、後日郵送する振込用紙と航空券を送るよう説明があった。
 オペレーターからは「もし高価な品物があれば、分かる範囲で書面に記入して送ってほしい」とも言われたという。
 「お気に入りの洋服とか、ゲームのセーブデータが無くなってしまったのは残念ですけど、買い直せば済むものですし、あきらめもつく。私にとっては十分足りる金額でした。でも、本当に高価なものや思い入れがあるものを預けていた方や、ペットを預けていた方の気持ちは、察するに余りありますが…」


焼け焦げたJAL機=3日午前8時10分、羽田空港(共同通信社ヘリから)

 ▽「飛行機にまた乗る?」記者の質問に…
 鈴木さんは現在も「事故を起こした機体に乗っていた実感が湧かない」という。
 事故後、上司や知人から安否を気遣う連絡が相次いだが、それらへの返答も落ち着き、元の日常に戻っている。それでも、ニュースサイトや動画サイトなどで炎上する機体の画像が目に入ると、少し胸が苦しくなる。
 「飛行機同士がぶつかった大きな事故で、全員無事だったのは本当に奇跡的だと思う。乗務員さんに助けていただいた感謝の気持ちしかない。あれだけの大事故で次の日に補償の案内があったのも迅速だったと思う」
 また飛行機に乗る機会があったらどうするか、と記者が尋ねると、少し考えてこう答えた。
 「まだなんとも言えないですが…。怖いという思いは今もそんなに感じていないです。また必要があれば乗ろうと思えるくらいの対応をしてもらったと思います」
 JALは事故後の1月3日に開いた記者会見で、搭乗していた乗客に対する補償内容については「返せる荷物があるか中身を確認している」と答えた。その上で、「個別の補償内容については回答を控える」としている。

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