アメリカはタリバン復権を後押しし、アフガニスタンの民意もそれを支えた 民主化が失敗した理由は何か。これからどうなるのか【アフガン報告】6回続きの(3)
47NEWS / 2024年1月23日 10時0分
イスラム主義組織タリバンの復権は劇的だった。アフガニスタン駐留米軍が完全撤退する直前の2021年8月15日、タリバンは首都カブールに入城し、9月には全土制圧を宣言した。民主政府初代大統領のハミド・カルザイ(65)は、アフガン駐留に意義を見いだせなくなったアメリカがタリバンと和平合意を結んで復権に「ゴーサイン」を出したと信じている。だが復権の理由はそれだけではない。民間人を巻き添えにする対テロ軍事作戦が民主政府への信頼を傷つけ、結果的にタリバン支持を膨らませた。(敬称略、共同通信=新里環、木村一浩)
誇り高い戦士たちは戦後、国造りを怠り目の前の大金に手を付けた 民主化が失敗した理由は何か。これからどうなるのか【アフガン報告】6回続きの(2)
▽20年かけてタリバンは勝者になった
カブール中心部。旧アメリカ大使館近くの壁には、90度右に傾いた星条旗が描かれ「アラーの助けにより、わが国はアメリカを打ち負かした」と記されている。米軍が残した軍用車両をタリバン兵が乗り回し、クラクションを鳴らして街を駆け抜ける。タリバン治安機関幹部は日本人記者である私たちに気づくと「どうだ。治安が良くなっただろう」と自信たっぷりに話しかけてきた。
女性や少数民族を抑圧する政策を非難され、タリバン暫定政権はいまだに国際的な承認を得られずにいる。国内経済は最悪だ。だが今のアフガンで強く感じるのは、タリバンが20年間の反米・反政府武装闘争を経て「勝者」の地位を手にしたという動かしがたい現実だ。
初代大統領のカルザイはタリバンの監視下で、カブール中心部の邸宅に暮らしている。私たちはタリバンの許可を得てカルザイに会うことができた。
「アフガンで民主主義が失敗したのは、アフガン人が拒絶したからではない。国民は民主主義を受け入れ復興も進んだ」。カルザイは特徴的な甲高い声でそう強調し、失敗の原因は「アフガン政府と国際社会のしくじり」だと述べた。中でも「最大の失敗」は、国際テロ組織アルカイダとタリバンの壊滅を目指した「米軍とアフガン軍による過酷な軍事作戦」で何万もの市民を巻き添えにしたことだと振り返った。
アフガニスタンの首都カブールで共同通信との単独会見に応じる元大統領カルザイ=2023年11月22日(共同)
「私たちは市民を殺した。安全を守れなかった」。だから信頼を失いタリバン支持が再興した。2001~21年に死亡したアフガン市民は4万8千人を超す。
被害の一例を紹介したい。米軍は撤退完了の前日、2021年8月29日にカブールで「爆発物を積んだ車両」を無人機空爆したと発表し「過激派組織の差し迫った脅威を排除した」と主張した。だが車に乗っていたのは過激派ではなく支援団体勤務のゼマライ・アフマディ=当時(43)=だった。帰宅を出迎えたアフマディの子どもの他、2~30歳の親族を含む計10人が死亡した。4万8千分の10だ。国防総省のカービー報道官は誤りを認めたものの「自衛のための攻撃で法律違反はない」と強調。「個人の責任は問わない」とも表明した。
米軍無人機に誤爆されたカブールの現場=2021年8月29日(AP=共同)
「同じ事が20年も繰り返されてきた。その結果、憎悪と報復心を生んだ」。死亡したアフマディのいとこ、20代の女性ハミダ=仮名=はそう訴え「アフガン人は(米軍や政府軍に立ち向かった)タリバンを応援すべきだ」とまで言った。ハミダのようにアメリカと民主政府への不信から、タリバンを評価する人は少なくない。
▽アメリカとタリバンの「ドーハ合意」とは
カルザイとのインタビューに戻ろう。カルザイは「過酷な軍事作戦」が多数の民間人を巻き添えにした失敗に加え、米軍がアフガン撤退を強行したことがタリバン復権の直接の要因だと訴えた。特にトランプ政権下の2020年2月にアメリカがタリバンと結んだ「ドーハ合意」を非難した。
2021年8月16日、カブール空港近くで警備するタリバン兵ら
アフガンでの「米史上最長の戦争」にアメリカ世論の厭戦気分が広がったことを背景としたドーハ合意は、タリバンが民主政府との対話を開始しテロ組織と決別することを条件に、米軍が14カ月以内に完全撤退するとの内容。詳細は不明だが、秘密の付属文書が存在するとされる。
この合意が、政権を力ずくで奪っても構わないという「ゴーサイン」をタリバンに与えた。カルザイは「それが現実に起きたことだ。アフガン国民はそう考えている」と明言した。
2021年8月16日、ピックアップトラックでカブール中心部を警備するタリバン兵ら
カルザイ政権で外相を務めたランギン・スパンタ(70)は「アメリカにとって(アフガンよりも)ライバルとしての中国の台頭が問題となっていた」と指摘する。アルカイダと、次世代の過激派組織「イスラム国」(IS)が弱体化し、米軍にとってアフガン駐留の重要性は下がった。だから早期の撤退を決めたという見方だ。
「タリバンをテロ組織から準国家に格上げして扱い、アフガン政府を抜きに合意を結んだ」。スパンタはアメリカのご都合主義を批判する。
アフガニスタンのカルザイ元大統領=11月22日(共同)
▽タリバン復権を歓迎する理由
タリバン復権で米軍や民主政府軍との戦闘が終了し、アフガンの治安は改善した。長年の戦禍に苦しんだアフガン人にとってその意味は大きい。
南部カンダハルはタリバンの本拠地。日本のNPO法人が運営する病院を訪ねると、全身を覆うブルカ姿の女性たちが診察を待っていた。医薬品は不足気味だが20年前に比べ乳児死亡率は大きく改善した。助産師モハシナ(22)は「治安が良くなり皆安心して通院できる」と話した。医師ムハンマド・ワリ(55)は「タリバン復権で戦闘が終わり市民は歓迎している」と語った。
傾いた星条旗が描かれたアフガニスタン首都カブール中心部の壁=2022年8月(共同)
女性の権利擁護を目指し、タリバン復権後も闘い続けるマフブバ・セラジ(75)は、タリバンの監視と妨害に苦しみ「彼らの政策は間違っている」と非難する。その一方で「彼らは勤勉で政策遂行者としては優秀」と統治能力を認める。タリバンは、秩序や国家の破壊だけが目的だったISとは異なる。セラジはそう指摘する。
ただ、復権から2年以上が経過し治安改善が当たり前の日常になるにつれ、タリバンへの批判は増大している。医師ワリは警告する。「カンダハルでも女子教育は重要な問題。そして悪化が続く経済。この2点を解決しなければ市民は反旗を翻す」(続く)
「女性は守るべき存在」タリバンの女性抑圧政策を支える民意とは 民主化が失敗した理由は何か。これからどうなるのか【アフガン報告】6回続きの(4)
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