「女性は守るべき存在」タリバンの女性抑圧政策を支える民意とは 民主化が失敗した理由は何か。これからどうなるのか【アフガン報告】6回続きの(4)
47NEWS / 2024年1月24日 10時0分
アフガニスタンなど保守的なイスラム諸国には「女性の尊厳や貞淑さを守るため」として、女性を家族以外の男性と接触させない慣習がある。女性の社会進出を妨げる考え方だが、多くの国々に定着した文化でもある。アフガンの問題点は、統治者として復権したイスラム主義組織タリバンが、女性の就労と教育を制限する政策を国家として推進していることだ。タリバンは民意の支持を得ていると主張する。本当だろうか。変化は可能なのか。(敬称略、共同通信=新里環、木村一浩)
アメリカはタリバン復権を後押しし、アフガニスタンの民意もそれを支えた 民主化が失敗した理由は何か。これからどうなるのか【アフガン報告】6回続きの(3)
▽「恐怖の組織」ではない?
アフガンの首都カブールと他の地域では、街に広がる空気が微妙に異なる。カブールではスカーフ姿の若い女性たちが顔を隠さずおしゃれをして歩く姿を見かける。レストランやカフェでは、家族連れの女性客の姿もちらほら目に入る。外国人との接触が多い首都で、民主化と男女同権が進んだ名残だろう。
タリバンの本拠地、南部カンダハルでは話が別だ。市場の食料品売り場は女性客であふれているが、みな全身を覆うブルカ姿。表情は見えない。買い物の様子を撮影しようとスマートフォンを構えると、タリバン情報機関員の男が現れ追い出された。監視は徹底している。
アルミホイルで顔を覆われたマネキン。タリバンは偶像崇拝につながるとして、マネキンの首を切るよう命じている=2023年2月、アフガニスタンの首都カブール(共同)
それでも、カンダハル市民のタリバン観はおおむね好意的だ。「タリバンの考え方は土着の文化を反映している。ブルカ姿も強制ではない」という声をよく聞く。
欧米や日本から見ると「自由を抑圧する恐怖の組織」に見えるタリバンは、彼らの母体民族パシュトゥン人が多い保守的な南部や東部を中心に、アフガン人に支持されている。女性よりも男性が支持する傾向が強い。
タリバン暫定政権は、公共の場では目以外を布で隠すよう女性に命じ、女性だけでの長距離移動も禁じた。こうした政策には地域の慣習と重なる部分がある。
▽性欲と道徳的退廃から女性を守る
タリバンの最高指導者ハイバトゥラ・アクンザダは強硬派の中核で、巡礼・寄進相サケブや最高裁長官アブドルハキム・ハッカニら古参メンバーが顧問役として脇を固めている。彼らが理想とするのは、イスラム教の原理主義的な解釈と、パシュトゥン人に根付く保守的な慣習に基づいた社会だ。個人主義と民主主義、完全な男女同権を重視するアメリカやヨーロッパの価値観とは大きな隔たりがある。現代の日本人にとっては欧米の価値観の方が身近だろう。
アフガン・イスラム通信がアクンザダ師として2016年に配信した写真(共同)
タリバンに近い20歳代の男性記者は、その価値観を「男性は女性を扶養し、女性の名誉と尊厳を守る義務がある。女性は働く必要がない代わりに、子育てと家族の世話を課されている」と説明する。さらに「見知らぬ男性の性欲から女性を守るために衣服や行動を制限し、西洋文化と男女混合の場を禁じることで、道徳的退廃と家族の破壊を防ごうとしている」と指摘する。女性の外出や就労、就学に否定的な強硬派の主張を支える考え方だ。
濃淡の違いはあったとしても「女性は守り、隠すべき存在」という発想は幅広い層のアフガン人に浸透している。教育を受けた人たちも例外ではない。
2023年10月、1400人以上が死亡した西部ヘラートの地震被災地を取材したときのことだ。国連機関で働くアフガン人男性(24)に話を聞いた後、家族の女性の写真も撮影させてもらえないかと頼んだ。すると男性は「勘弁してくれ。アフガンの慣習は分かるだろ」と露骨に不快感を示した。
男性は英語を話し、外国人との付き合いに慣れた知識層だ。女性らは布で顔を覆い目の部分だけしか見えていなかった。それでも家族以外の男性と接触し、ましてや写真を撮られることはタブーなのだとあらためて思い知らされた。
地震で村の家屋が全壊したアフガニスタン西部ヘラート州ナヤブラフィ村=2023年10月(共同)
▽眉毛ケアはイスラムの教えに反する
タリバンが女性に課した就労制限は幅広い。2022年12月、非政府組織(NGO)で勤務する女性職員の出勤停止を命令。2023年4月には国連機関に女性職員の出勤停止を命じた。さらに6月には、全国の美容院に閉鎖を指示し多くの失業者を生んだ。命令の理由は、髪と全身を覆う衣服の着用義務違反や、派手なメーク。「眉毛を整えることはイスラム教では許されていない」という理由まであった。カブールで美容院を経営していたファウジア・サダト(34)は「理解に苦しむ。タリバンはいつも女性の意見を聞かず一方的だ」と批判する。
アフガンでは2001年の旧タリバン政権追放後、民主政府の下でカブールなど都市部を中心に男女平等の啓発が進んだ。女性は国会議員として政治参加もできた。だがタリバン復権後、女性は政治参加を認められておらず、公園や公衆浴場、ジムの利用も禁止されており、次々と社会から居場所を奪われた。自由と男女平等を知った女性らの反発は強く、カブールに住む元教師の女性(29)は「タリバンは女性が子どもを産む生き物と思っている」と憤る。
▽宗教的アプローチに期待
タリバン暫定政権、特に最高指導者をはじめとする強硬派に変化を促す方法はあるのか。カブール出身のイスラム教シーア派法学者ザカリヤ・マシュクールは、タリバンの偏った思想と実践を正すために、イスラム教発祥の地サウジアラビアの権威が必要だと指摘する。マシュクールは「サウジのイスラム法学者らが、タリバンの法解釈は誤っていると説明し続けるしかない」と訴える。軌道修正には政治ではなく、宗教的アプローチが欠かせないという主張だ。
反タリバン勢力の会合で記者会見するザカリヤ・マシュクール・カブリ氏=2023年12月、オーストリア・ウィーン(共同)
タリバンが政策を変更する可能性はゼロではない。カンダハルに拠点を置くアクンザダら強硬派指導部と比べ、外交団や国際支援団体との接触が多いカブールでは閣僚の大半が女子教育再開を支持している。タリバンは国連とNGOに女性職員の出勤停止を命じたが、国連の交渉で保健医療分野は対象外となるなど、柔軟性も垣間見える。
タリバン穏健派への期待を語るレシュマ・アズミ氏=2023年5月、アフガニスタンの首都カブール(共同)
国際NGO「ケア・インターナショナル」のアフガン事務所幹部レシュマ・アズミは「タリバンの多くが女性活躍の大切さを知っている。問題は指導部だ」と見抜く。「時間はかかると思うが、女性抑圧的な政策が変わることを待っている」[続く]
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