挺身隊員だったことは長く夫にも明かせなかった…「今も胸が痛い」 韓国での訴訟計12件で全て原告勝訴、「日本政府は傍観せず手助けを」
47NEWS / 2024年2月15日 10時0分
韓国人の元徴用工や元朝鮮女子勤労挺身隊員らが日本企業を相手取った損害賠償訴訟で、韓国最高裁は昨年12月から今年1月、5年ぶりに判決を言い渡した。2018年の3件と合わせて計12件の訴訟は全て原告が勝訴した。一審、二審では同様の訴訟がまだ残っているが、最高裁で係争中だった一連の訴訟の結論が全て出そろった。日本側はこれまで賠償に応じていない。
韓国の尹錫悦政権は昨年3月、韓国政府傘下の財団に賠償金相当額を肩代わり支払いさせる「解決策」を発表した。しかし、この「解決策」は一部原告の反発などにより、完全な実現が危ぶまれている。元挺身隊員で存命の原告は、日本政府は傍観するのではなく「手助けを」と訴えた。(共同通信ソウル支局 富樫顕大)
▽元挺身隊員「解決なく、寂しい」
1月25日、機械メーカー「不二越」を相手取った元挺身隊員らの訴訟3件の判決が出た。その2日前、原告の1人、李慈順さん(92)のソウル近郊の自宅を訪問し、動員当時の状況や今の思いを聞いた。
李さんは1932年1月、韓国西部・群山で生まれた。日本の植民地だった当時、小学校では朝鮮語の使用が禁じられていた。朝鮮語授業は1週間に1回だけだったと記憶している。日本人教師の「金を稼げて勉強もできる」との説明に、行き先も分からないまま、13歳になってすぐ、挺身隊として富山の不二越の軍需工場へ渡った。
2024年1月23日、ソウル近郊の自宅で取材に応じる李慈順さん(共同)
寄宿舎では「ご飯はおわん半分。空腹だったことを思い出し涙が出る」。朝食が足りないので昼食用のパンも先に食べ「昼は工場でただ座っていた」。母が編んだセーターを農家で豆と換えた。服も足りず、工場の紙やすりのような物を下着代わりにしたという。空襲警戒のため、靴を履いたまま寝かされていた。
日本の敗戦後、地元に帰ったが、日本軍の従軍慰安婦だったと誤解されることを恐れ、恋愛結婚した夫には挺身隊員だったことを長く隠した。
不二越を巡っては、1990年代に日本で訴訟を起こした元挺身隊員らと2000年に和解し、不二越は解決金を支払った。李さんはそうした元挺身隊員に続き、2003年に日本で不二越を提訴、裁判闘争を始めた。
挺身隊として動員された過去のため「今も胸が痛い」。慰謝料などを求める訴えを「不二越は90歳を過ぎるまで解決してくれず、とても寂しい」と嘆く。そして「私たちはとても苦労した。日本政府も解決へ手助けをすべきだ」と望んだ。
不二越を相手取った訴訟で勝訴が確定し、喜ぶ原告ら。手前右は李慈順さん=2024年1月25日、ソウルの最高裁前(撮影・金民熙、共同)
▽日本政府と韓国最高裁で異なる見解
日本政府は、原告の訴えを認めた判決が「日韓請求権協定に違反し極めて遺憾だ」としている。請求権協定は1965年の日韓国交正常化時に結ばれたもので、国と国民の間の請求権問題が「完全かつ最終的に解決された」と明記した。
一方、韓国最高裁は、植民地支配は「不法」だったと明言し、協定は植民地支配が不法か合法かの判断を棚上げにしたと指摘した。そのため植民地支配の不法性と直結する元徴用工や元挺身隊員らの慰謝料請求権は協定の適用対象外だと判断している。
日韓会談の請求権、法定地位の仮調印が終わり、握手を交わす椎名悦三郎外相(左)と李東元・韓国外相=1965年4月、外務省
日本政府と韓国最高裁の見解が異なる中、尹政権は昨年3月、韓国政府傘下の財団が支払いを肩代わりするという、日本に譲歩する内容の「解決策」を発表した。
だが、一部の原告らは拒否している。財団は、新たな企業の寄付などがなければ、勝訴が確定した全ての原告に支払う資金もない。
韓国・尹錫悦政権が元徴用工訴訟問題の「解決策」を発表した2023年3月、対日外交を批判する集会をした後、韓国外務省と日本大使館へ抗議のデモ行進をする人たち=ソウル(共同)
▽「解決策」を受け入れる思いは…
不二越の判決が出た1月25日、林芳正官房長官は記者会見で「韓国政府は、財団が支給する予定である旨を既に表明しており、それを踏まえて対応されるものと考えている」と述べた。
同じ日、原告の金正珠さん(92)は判決後「日本は過ちを認め、韓国と共に補償をしてほしい」と韓国最高裁前で記者団に訴えていた。金さんは「解決策」を全面的には否定せず、日本側も謝罪や財団への資金拠出といった貢献をすることを望んだ。
不二越を相手取った訴訟で勝訴が確定し、記者団に話をする原告の金正珠さん=2024年1月25日、ソウルの最高裁前(撮影・金民熙、共同)
三菱重工業に損害賠償を求めた元徴用工訴訟で昨年12月28日に勝訴が確定した朴相福さん(77)を、京畿道平沢の自宅で確定前日に取材した。朴さんは、平沢周辺から広島の工場に動員され被爆した元徴用工14人(いずれも死去)の遺族らの訴訟の原告団代表を務める。「私の考えでは、この原告団はほぼ全員が『解決策』を受け入れると思う」と述べた。
「植民地下で強制的に連れて行かれて働き、原爆被害を受けた。日本から賠償を受けないといけない」と2013年に韓国で提訴した。韓国政府が「解決策」を昨年3月に発表する直前、韓国外務省幹部らに「財団の金を受け入れるが、三菱か日本政府の謝罪が必要だ」と訴えたという。
2023年12月27日、韓国・平沢で取材に応じる元徴用工訴訟の原告の朴相福さん(共同)
5月、訪韓した岸田文雄首相は尹大統領との共同記者会見で、歴史問題に関し「心が痛む思いだ」と述べた。だが朴さんは、「よく分からない言葉」と話し、謝罪とは全く考えられないと受け止める。
徴用工問題に関する日本側の明確な謝罪はないままだが「私たちは田舎暮らしで、政府がするとおりにしようと思う」と語る。反対すれば野党が政治的に利用するのではないかという懸念も漏らした。
在韓被爆者問題に携わる日本の市民運動家から「日本人として本当に申し訳ない」という言葉を何度も聞いたため「自分はもう謝罪はいい」とも話した。それでも「実際に悪いことをしたのだから謝罪すればいいのに、なぜしないのか」とつぶやいた。
2023年5月7日、ソウルの大統領府で共同記者会見に臨む岸田首相(左)と韓国の尹錫悦大統領(代表撮影・共同)
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