コロナ後遺症は「最大500万人」リスクを訴え続けてきた医師「新たな国民病」と危機感 理解不足で孤立する患者も多く、支援態勢の整備が急務
47NEWS / 2024年2月20日 10時30分
今冬に入り、新型コロナウイルス感染が再び拡大している。無症状や軽症で済む人もいるが、感染後に倦怠感や頭痛といった症状が長引く後遺症に苦しみ、退職や休学を余儀なくされる患者も多い。神奈川県が昨年12月に公表した実態調査では感染者の45%が後遺症に悩んだと回答し、理化学研究所などの研究で感染が続くと心不全のリスクが高まる可能性も明らかになった。
流行開始直後から診察を続け、コロナ後遺症のリスクを訴え続けてきた平畑光一医師は、治療が必要な国内の患者が最大500万人に上る「新たな国民病」と指摘し、支援態勢の整備を求めている。(共同通信=小嶋捷平)
▽6800人の患者を診てきた平畑さん「後遺症に年齢や体力は関係ない」
平畑さんは東京都渋谷区のヒラハタクリニックで院長を務める。クリニックに足を運んだ患者の診察が午後9時ごろに終わると、オンラインでの診療が始まる。寝たきりで自宅から出られない人や、地方で適切な診断を受けられなかった人も多い」。遅い日は午前3~4時まで患者と向き合う日々が続く。
平畑さんはこれまで、感染後に体の不調で苦しむ約6800人の患者を診てきた。9割以上が倦怠感を訴え、せきや頭痛が長引く例が多い。うち300人が後遺症をきっかけに職を失い、自殺した患者もいる。
「地方の病院では『後遺症なんてあり得ない』と冷たい対応をされ、家族からも『休みたいだけだ』とあしらわれて孤立する。社会の理解不足が患者をどんどん追い込んでいる」と警鐘を鳴らす。
平畑さんは新型コロナ流行が始まったばかりの2020年3月、感染後に症状が長期化する患者向けの外来をいち早くスタートした。感染症の正式名称から世界で「Long COVID(ロングコビッド)」と呼ばれる症状を「後遺症」と呼び、テレビ出演や交流サイト(SNS)を通じて繰り返し発信した。
周囲から後遺症の存在を否定された患者もいるため、診察の冒頭には「その症状は必ず改善する」と伝えて治療に入るという。「後遺症に年齢や体力の有無は関係ない。感染後2カ月は無理のない生活を心がけるべきだ」と話す。
▽45%が「後遺症に悩んだ」と回答
新型コロナ感染が国内で初確認されてから4年がたち、後遺症に関する調査は進む。神奈川県は昨年12月、実態把握を目的に約1万8千人を調査した結果を公表した。感染した約9600人の45%が過去悩んだり、現在も悩んでいたりすると回答。仕事や学校を1カ月以上休んだり、やめたりした人も目立つ。
神奈川県の担当者は調査結果について「後遺症に悩んでいる人の回答が特に集まりやすく、実際の割合は45%より低い可能性も拭えない」と分析する。ただ依然として後遺症に苦しむ人が多いとして、相談窓口など県の支援に関する情報発信を続けるという。
理化学研究所と京都大学は人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来の心臓のミニ組織を使った実験で、感染が続くと心不全のリスクが高まる可能性があると米科学誌に発表した。心臓組織にウイルスが残り続け、虚血性心疾患のような低酸素状態になると、ウイルスが再び活性化することが示されたという。
理化学研究所の升本英利上級研究員(京大病院特定准教授)は「体内にウイルスが残り続けると、症状がない人も将来心不全につながる恐れがある。新型コロナとの共生に向け、診断方法や治療の研究が重要だ」と指摘した。
iPS細胞から作ったミニ心臓組織の血管の顕微鏡写真(理化学研究所提供)
▽新たな変異株の流行で「第10波」との見方広がる
「全国コロナ後遺症患者と家族の会」は昨年12月、国の支援は不十分として、傷病手当の延長や社会保険料の減免などを求める要望書を国に提出した。今冬に入り新たな変異株「JN・1」が流行の主流とされ、厚生労働省の集計では11週連続で新たな感染者数が増えている。
昨年夏の流行ピーク時に匹敵する規模が続き、流行「第10波」との見方が広がる。海外では後遺症による労働力人口の減少で、多額の経済的な損失が生じるとした推定もある。
平畑さんは、治療が必要な国内の後遺症患者は感染者全体の1~2割、400万~500万人程度とみる。医療現場では、治療薬の早期活用で症状が軽減するとの声もあるという。「新型コロナ後遺症はもはや、がんやうつ病と並ぶ『新たな国民病』といえる。政府は後遺症への理解を促すと同時に、最適な支援の仕組みを早急に用意する必要がある。国の対応が遅れて自殺者が出たり、働けない患者が増えたりするぐらいなら、素早い支援で後遺症の悪化を未然に防いだほうが社会全体の損失は抑えられるはずだ」と訴えた。
新型コロナウイルス・オミクロン株の電子顕微鏡写真(国立感染症研究所提供)
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