ガザ戦時下の身体障害者…5万人超が直面する困難 がれきでテントをつくる人も、戦闘開始4カ月の現実
47NEWS / 2024年2月28日 10時0分
イスラエル軍が地上侵攻するパレスチナ自治区ガザでは、170万人が自宅を追われ避難生活を送る。うち約60万人が国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)運営の学校などに避難しており、中には障害者もいる。バリアフリー設備のない学校での避難生活に「自分は何もできない」と天を仰ぐ車いすの男性。軍の絶え間ない攻撃は健常者以上に障害者やその家族に困難をもたらす。また、UNRWA運営の学校周辺には、避難所に入りきらない市民が自らテントを設置した。戦闘開始から4カ月以上が経過したガザの現状を共同通信ガザ通信員ハッサン・エスドゥーディーが報告する。(敬称略。翻訳、構成は共同通信エルサレム支局長 平野雄吾)
ハッサン・エスドゥーディー氏(共同)
▽30キロの道のりを車いすで避難
色とりどりの洗濯物が干されたガザ南部ラファの学校で、車いすの男性ムハンマド・ナビール(30)が長男アハマド(9)、長女サファ(5)の2人を抱き寄せた。
「この戦争が始まる前、よく(ガザ北部)ガザ市のビーチで子どもたちと遊んだ。今は本当に何もできないと感じる」
ムハンマドは戦闘開始から約1カ月経過後の昨年11月中旬、ガザ北部ジャバリヤから約30キロの道のりを移動した。妻サマ(24)や2人の子ども、いとこの計6人での避難。サマが車いすを押したが、破壊された街の移動は容易ではなく、途中で車いすが故障、いとこがムハンマドを背負った。未明に出発したが、ラファの学校にたどり着いたのは深夜だった。
ムハンマドは2019年、以前のガザ戦闘でイスラエル軍に破壊された建物の解体作業中に2階から転落、下半身不随となった。「1人では着替えさえできなくなった」と振り返る。それでも、青果商の仕事を始め、新たな人生を歩み始めたところで、今回の戦闘に巻き込まれた。
避難所で長男アハマド君(左)、長女サファちゃん(右)と過ごすムハンマドさん=1月20日、パレスチナ自治区ガザ南部ラファ(ハッサン・エスドゥーディー撮影、共同)
避難先の学校は人であふれ、落ち着ける場所はない。サマは「特にトイレが狭くて汚くて大変だ」とこぼす。ムハンマドは排尿パックやおむつも利用するが、UNRWAからの支給には数の制限があり、排尿パックを再利用するケースも増えたという。週に3回実施していた理学療法のリハビリはできなくなり、身体機能の低下にも不安を抱える。
学校周辺に広がる、避難者自らが設置した〝テント村〟=1月22日、パレスチ(ハッサン・エスドゥーディ撮影、共同)
▽戦闘でさらに5千人が…
パレスチナ自治政府統計局によれば、ガザでは戦闘開始以前、約5万8千人が障害者登録をしていた。スイス拠点の非政府組織(NGO)、欧州地中海人権モニターは今回の戦闘で少なくとも5千人が回復不能な傷を負い、障害者になったと発表している。
ムハンマドは「今思えば、戦闘前は『半分』の障害者だった」と話す。ガザでも、バリアフリーの意識が広がり、2019年にはガザ市に障害者用トイレを設置したビーチもオープンした。ムハンマドは「子どもたちと遊んで楽しかったのが忘れられない」と振り返った。
学校周辺に広がる〝テント村〟を眺める少年=1月22日、パレスチナ自治区ガザ南部ラファ(ハッサン・エスドゥーディ撮影、共同)
ムハンマドは子どもを両腕に抱き寄せながら、こう続けた。
「避難している私はいま『完璧な』障害者になった。イスラエルは美しかった『残り半分』の私の生活も奪っていった」
▽自作テント、冬の朝は結露でびしょびしょに
UNRWA運営の学校の周辺には、広大な“テント村”が広がっている。がれきから集めた資材で市民が自らテントをつくり、住み始めたのだ。冬を迎えて降雨も続き、暖房のない中で、寒さと飢えに耐えながら避難生活を続ける。
避難民が多く集まるUNRWA運営の学校=1月28日、パレスチナ自治区ガザ南部ラファ(ハッサン・エスドゥーディー撮影、共同)
「テントの端には、毛布を敷き詰め、中に水が入らないようにしている。それでも結露は防げず、テント内は毎朝びしょびしょにぬれる」
避難者の1人、アイマン・ザキ(50)が自らつくったテントを説明した。テント2張りに生後2カ月の男児を含め子どもや孫、一家32人で暮らす。「夜はみんなで肩を寄せ合い、暖まりながら眠る」とアイマン。長男アハメドは「暴風雨のときは、テントが吹き飛ぶかと思った」と振り返った。
自らつくったテントの前に座るアイマン・ザキさん=1月10日、パレスチナ自治区ガザ南部ラファ(ハッサン・エスドゥーディー撮影、共同)
ザキ一家は北部ガザ市から中部マガジ難民キャンプ内にあるUNRWA運営の学校に避難したが、周辺への軍の攻撃が激しくなり、昨年末ラファに逃れた。ラファでもUNRWA運営の学校に行ったが、空いている場所が見当たらず、周辺の空き地でテントをつくった。軍の攻撃で破壊された建物の中から布や木の棒、プラスチック板を探す。生きるためのそうした行為をとがめる市民はいない。
〝テント村〟で避難生活を送る子どもたち=1月22日、パレスチナ自治区ガザ南部ラファナ自治区ガザ南部ラファ(ハッサン・エスドゥーディ撮影、共同)
“テント村”にトイレはなく、近くのモスク(イスラム教礼拝所)で用を足し、料理の際の燃料には、拾い集めたごみを利用することもある。洗濯などの汚水は垂れ流し状態なのが現実だ。
「週に2回、UNRWAから水や食料の配給がある」と話すアイマン。妻ナディア(40)は「子どもたちは常に空腹だ」と、支援物資の小麦でパンを焼きながら静かに話し、肩を落とした。
「夜は寒く、子どもたちは甘い物を欲しがる。けれど、紅茶やミルクに入れる砂糖さえ手に入らない」
テントの前でパンを焼くナディアさん=1月10日、パレスチナ自治区ガザ南部ラファ(ハッサン・エスドゥーディー撮影、共同)
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