「レズビアンを理由に迫害を受ける恐れがある」ウガンダの女性は、かろうじて裁判で救われた 関空で「帰れ」→難民認定されず→有識者は話も聞かず【あなたの隣に住む「難民」①】
47NEWS / 2024年3月7日 10時30分
アフリカ東部ウガンダに住むマリアさん(仮名)宅に、警察官が踏み込んだ。この国の刑法は同性愛を犯罪とし、終身刑を規定している。当時30代のマリアさんは、この家でレズビアンの仲間と一緒に暮らしていた。
逮捕され、棒のようなもので激しく殴られた。手術を受けて7カ月入院したが、今も下半身に残る傷は深い。
「また牢屋に入れられるか、殺されるのでは」
外国に脱出しようと、ブローカーに依頼し、パスポートと日本の商用ビザを取得する。「欧州諸国はビザが出ないと言われた。自由になれるなら、どこでもよかった」。こうしてマリアさんは、日本を目指した。(共同通信編集委員=原真)
▽来日直後に収容
2020年、関西空港に到着。入国審査で渡航目的を疑われた。「私は性的少数者で、母国で迫害された」と訴えたが、出入国在留管理庁の係官は「帰れ」と繰り返す。
「衝撃を受けた。その他のことは、よく覚えていない」
そのまま、大阪出入国在留管理局に収容された。助けを求めて来た日本で、身柄を拘束されるなど、想像もしていなかった。
難民認定を申請したものの、1カ月足らずで不認定とされた。異議を申し立て、「口頭意見陳述」を求める。有識者の難民審査参与員に話を聞いてもらう手続きだ。難民審査の〝一審〟は出入国在留管理庁の職員が担当するのに対し、〝二審〟は第三者の立場である参与員が意見書をまとめ、最終的に法相が認定するか否かの結論を下す。
参与員の判断に期待したが、口頭意見陳述は却下された。「申立人の主張が真実でも、難民となる事由を何ら包含していない」。参与員は異議自体も退けた。
国外退去を命じられたマリアさんは、不認定の取り消しを国に求め、提訴した。
▽待ちに待った判決
大阪市のNPO法人「RAFIQ(ラフィック)難民との共生ネットワーク」の田中恵子代表理事は、マリアさんの収容直後から面会に通った。身柄拘束を一時的に解く「仮放免」の許可が出たものの、就労を禁じられ、いつ再び収容されるか分からない。マリアさんに住まいを提供し、弁護士と協力して医療記録を用意するなど、全面的に支援した。
2023年3月、待ちに待った判決が出る。大阪地裁は「原告はレズビアンであることを理由に迫害を受ける恐れがある」と判断。マリアさんは、ようやく難民認定された。
「うれしかった。RAFIQが助けてくれたおかげ。日本語を勉強して、お年寄りを介護する仕事に就きたい」。マリアさんはほほ笑んだ。
▽入管は入り口を閉じようとする
一連の経緯は、日本の難民保護の不十分さを浮き彫りにした。裁判で難民と認められるような人でも、空港で難民申請しようとすると、入国を拒否されたり、収容されたりしているのだ。
国連難民条約は、人種や宗教、政治的意見などを理由に、母国で迫害される恐れのある人を難民として、条約加盟国に保護を義務付けている。日本も加盟しているが、難民が適切に保護されていないとの批判が強い。
たどり着いた日本の空港で、追い返された外国人は少なくない。その理由を、元入管職員はこう説明する。「難民申請されると法律上、強制送還できなくなるから、入管としては入り口を閉じようとする」
田中代表は批判する。「マリアさんのケースは、ウガンダの状況をちょっとでも調べれば、帰したらいけないと分かる。参与員も彼女の話を聞くべきだった」
なお、参与員を巡っては、2023年春の入管難民法改正案の国会審議で、入管庁が一部の参与員に極端に多くの審査を任せていたことも判明。「恣意(しい)的運用だ」と反発を招いた。
【取材記者から】
「難民」と聞くと、遠い外国の話だと思われるかもしれません。でも、自分は難民だと言って、日本で保護を求める外国人が急増しています。2023年に難民認定を申請した人は1万2000人を超え、過去最多に迫る勢いです。
なぜ増えているのでしょうか。新型コロナウイルス感染防止の水際対策が解除され、世界各地で紛争が多発していることが主な原因です。
難民とは一般に、戦争や災害などで故郷を離れざるを得なくなった人を指します。ただ、記事にあるように、難民条約の定義はそれよりも狭く、政治的意見などのために迫害されかねない人を難民(条約難民)と定めています。
ウクライナやパレスチナのような紛争地から避難した人は、条約難民に該当しないこともあるため、多くの国が条約とは別の枠組みで受け入れています。日本も23年12月、紛争避難民らを難民と同様に保護する「補完的保護」の制度を導入しました。
難民・避難民は、私たちの隣にいます。どんな人たちなのでしょう?訪ねて話を聞き、この連載記事にまとめました。
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