夜泣きは迷惑では?体調変化も心配…赤ちゃん連れや妊産婦に専用避難所 「子ども連れて徒歩でたどり着ける?」指定のホテルに体験宿泊、助産師の派遣も
47NEWS / 2024年3月5日 11時0分
災害時に妊産婦や乳幼児を専門に受け入れる福祉避難所の整備が徐々に広がっている。自治体が学校やホテルなどを避難場所に指定するほか、助産師を派遣するケースもある。乳幼児は夜泣きをする、妊婦は体調の変化を伝えづらい、などの事情から一般の避難所を避ける傾向があり、専用避難所の重要性は能登半島地震でも再認識された。整備が進んでいる自治体では、どんな取り組みをしているのだろうか。(共同通信=若林美幸)
避難体験会でポリ袋を使った洗濯方法を学ぶ親子=2024年1月、大阪府泉大津市
▽母親1人で子ども3人を連れて避難できる?避難所に指定のホテルで体験会
1月中旬、大阪府泉大津市のホテルに、おむつや離乳食入りのバッグを抱えた親子連れが次々と到着した。この日は泉大津市が乳幼児、妊産婦専用の福祉避難所として指定しているホテルに実際に泊まり込む、1泊2日の避難体験会。6歳、3歳、0歳の子どもと参加した母親(37)は「平日に災害が起きたら、自分一人で3人の子を連れて避難しなければならない。リュックを背負って実際に歩いて来られるかどうか試したかった」。
幸い子どもたちは素直に歩いてくれて、無事に到着した。母親は「歩ける距離だと分かったが、もし雨だったら、がれきが散乱していたら、同じように歩けるだろうかと考えてしまった。避難リュックは詰め込み過ぎて重かったので、中身を見直したい」と、実際に歩いてみて感じたことを説明してくれた。
体験会には市内の親子13組が参加。レジ袋とタオルを使った応急的なおむつの作り方や、少量の水を入れたチャック付きポリ袋で洗濯する方法などを学んだ。がれきに見立てた積み木の上をベビーカーで移動する体験では、保護者が「車輪が動かない。普段は必ずベビーカーで外出するが、避難する時は抱っこひもがいい」と納得した様子だった。
避難体験会で、がれきに見立てた積み木の上をベビーカーで移動する親子=2024年1月、大阪府泉大津市
泉大津市の政狩拓哉危機管理監=2024年1月、大阪府泉大津市
▽ホテル側は宿泊特典の液体ミルクや離乳食を災害用に多めにストック
泉大津市は市内の二つのホテルを乳幼児や妊産婦専用の避難所に指定し、2023年から体験会を実施している。ホテルは日常的に乳幼児連れの家族が利用するため、宿泊特典として渡す液体ミルクや離乳食を多めにストックしてもらい、災害用の備蓄としているという。政狩拓哉危機管理監は「子育て世代は仕事や育児に追われ『何を備えたらいいか分からない』という声も聞く。体験会を通じて理解を深めてもらえたら」と期待を込める。
神奈川県逗子市は23年、私立の学校を妊産婦や乳児専用の避難所に指定した。災害時には助産師を派遣し、体調管理や精神的ケアに当たる。東京都文京区の先行例を手本にしたという。京都市は約300ある指定福祉避難所のうち、15を妊産婦らの専用にしている。
避難体験会でレジ袋とタオルを使った応急的なおむつの作り方を説明するスタッフ=2024年1月、大阪府泉大津市
▽高齢者優先、少数派の妊婦や乳幼児の対策は後回しにされてきた
1995年の阪神大震災以降、一般の避難所で生活するのが難しい高齢者や障害者、妊産婦ら「要配慮者」向けの福祉避難所の必要性が認識されるようになった。高齢者施設や障害者支援施設のほか、ホテルや旅館に開設されることもある。内閣府によると、2022年12月時点で全国に計2万5356カ所ある。
ただ日常的に介護や福祉サービスの対象となる高齢者、障害者に比べ、妊産婦や乳幼児への支援は広がりに欠ける。
吉田穂波・神奈川県立保健福祉大大学院教授による2021年人口動態統計の分析では、健常者58・8%、高齢者29・1%に対し、乳幼児4・5%、妊産婦0・6%。関東地方の自治体の担当者は「どうしても人口が多い高齢者への対策が優先されてきた」と打ち明ける。
吉田穂波・神奈川県立保健福祉大大学院教授=本人提供
▽子育て世帯は周りを気にして一般の避難所を避ける傾向、「事前にルールを」
乳幼児は夜泣きをしたり走り回ったりするため、子育て世帯は一般の避難所の利用を避ける傾向がある。2016年の熊本地震を経験した育児中の女性に対し「熊本市男女共同参画センターはあもにい」が実施した調査では、本震直後の生活場所は「自宅敷地内(車中泊を含む)」が最多だった。避難所と回答した人も、半数以上が建物内ではなく車で寝泊まりしていた。
吉田教授によると、災害時に在宅避難をしていた子育て世帯が物資をもらうため避難所に行ったところ、「避難所にいない人にはあげられない」などと言われ、支給されなかったケースがあったという。「妊産婦や乳幼児がいる世帯は、周りに迷惑をかけないように『自分さえ我慢すればいい』と考えてしまいがちだ。災害が起きた後にルールを決めるのは困難なため、自治体はニーズを把握し、事前にルールを決めて周知しておくことが必要だ。誰もが安心して過ごせる環境づくりを進めてほしい」と指摘している。
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