「巨人を出ろ」と後押ししてくれた恩人に感謝 「満塁男」の別の顔は「併殺打男」・駒田徳広さん プロ野球のレジェンド「名球会」連続インタビュー(35)
47NEWS / 2024年3月7日 10時0分
プロ野球のレジェンドに現役時代や、その後の活動を語ってもらう連続インタビュー「名球会よもやま話」。第35回は駒田徳広さん。1983年4月に日本プロ野球史上初めてプロ初打席で満塁本塁打を放ちました。歴代5位タイの13本の満塁弾をマークする一方、不名誉な打撃記録を残したシーズンもあります。どのように打開したのか詳しく教えてくれました。(共同通信=中西利夫)
▽相手投手の方が何とか逃れたいと思っている。気負っちゃいけない。
最初に「満塁男」と呼んでくださった新聞記者さん、そして、みんなに言ってもらったことに非常に感謝しています。やっぱり成功していく選手は、そういうものが何かあるはずだから。それを最初にヨーイドンでつくれた。長くやっていける条件を最初にクリアできたのかな。高校の時から満塁で敬遠されたとか、満塁に関してはいろんな「なぜか」ですよね。勢いって怖いですね。勢いづけられるってモチベーションなりますからね。自分のプロ野球選手としての生きる方向も決めてもらったし、その後の野球人生で一つの支えにもなりました。
1981年に巨人へ入団した当時の駒田徳広さん
満塁本塁打13本のうち横浜(現DeNA)時代に8本。打順がローズの後だった、あの打線は満塁で回ってくる可能性が高かった。必ずローズが歩かされる。3番の鈴木尚典が打席に立ってる時に「こいつがヒットを打ったら(ローズが)歩かされて」と、5番の僕は、そればっかり考えてた。満塁の時、バッターは気負いみたいのが出ますから併殺打とかになりやすい。ホームランを狙ってやろうという思いは、ほとんどないです。何とかしないといけないぞ、チャンスでランナー1人はかえさないといけないなという意識が最初にありました。
日本一になった98年は2本、満塁で打った。僕はボールの見極めが悪い選手だったから、満塁の方がいいんです。ボール球に手を出さなければ最後はストライクが来る。ストライクゾーンで勝負する確率が上がるということは、気負わず自分をコントロールできればいい。「満塁男」の意味は集中力があるということ。それが僕を支えてくれていた。気負っちゃいけないよ、相手の方が何とか逃れたいと思ってるんだよって、そういう考え方ができました。
1983年4月の大洋戦、プロ初打席で満塁ホーマーを放つ駒田徳広さん=後楽園
▽ステップ幅の調節で緩急を攻略
巨人に入団してプロ1、2年目は全然駄目でしたね。4~6年目も、まだ駄目でした。この時期に取り組んだ一本足打法は合うとか合わないとかいう次元じゃなかった。王貞治さんや荒川博さんの言うことが理解できなかった。自分で言うのもなんですが、プロ野球選手の95%ぐらいは理解できなかったと思います。それぐらい先をいってることだった。80%ぐらい理解できるようになったのは94年に横浜に移ってからだと思う。
1985年2月、荒川博さん(左端)と当時巨人監督の王貞治さん(右端)に見守られながら打撃練習する駒田徳広さん=グアム・パセオ球場
例えば王さんが「振り遅れちゃいけない。球は前で捉えないといけない」と言う。体の近くに来るとバットの細いところに当たるし、飛ばない。腕が伸びて当たれば遠心力も使えるし、飛ぶ。これは理解できるんです。でも、プロ野球が高度になって、いろんな変化球で緩急が出てくる。前で捉えようとして、それより球が遅かったらどうする? 王さんが何と言ったかというと「球が遅かったら、もっと前で打てばいい」。打席から前に出て打つわけにはいかないし、理解できなかった。王さんは「おまえは足を上げて着地している場所が何でいつも同じなんだ」と。普通はバッターって、いつも同じところに着地する。王さんは違うんだ。「球が速かったら、足を真下に下ろせばいい」。実際は真下には下りない。打ってやろうという勢いがあるから(スタンスが)狭めで足が下りる。着地したら回転運動が起きる。だから速い球が来たら早く回転させる。球が遅かったら、今度は足を下ろさなかったらいい。ステップ幅は広くなる。足を上げている間にバットを振るやつはいない。だから引きつけるんじゃなくて、前でさばけるように足の幅を調節する。
そこで最初に理解できたのは、足を上げないと高打率は残らないということ。体重移動の量は個々の選手で違うけど、足を上げることに関しては必ずこれをやらないと良い選手にはならない。東洋人で足を上げずに、そこそこ打ってるのは大谷翔平と、追い込まれた時の角中勝也だけ。大谷君は膝の柔軟性があるから足を上げる必要性もなく、うまく捉えきれるのではないかと思う。
1989年10月、近鉄との日本シリーズ第7戦で先制本塁打を放った駒田徳広さんは万歳しながら一塁に向かう=藤井寺球場
▽3割を打って、自分が成り立っている景色が見えた
イチローが200安打の日本最速記録をつくった94年シーズンに、僕は29併殺打のセ・リーグ記録をつくった。(緩急を使われて)抜かれた時の球は我慢して引きつけてレフト方向に打てばヒットになる。下半身の柔軟性があった若い頃は打球が上がり、ショートの頭を越えて二塁打になったりした。年を取ってきて我慢しきれなくなると、いい当たりだけどショートゴロになる。だから一番ダブルプレーになりやすい。膝とかの柔軟性が悪くなり、瞬発力も衰えると、体の近くでうまく打たないと捉えきれない意識が出るんですよ。それをやると内野ゴロが出る。うまく打とうとしすぎちゃう。体重移動とか忘れちゃう。そこでもう一回、足を上げて打たないといけないと思った。
どうやったかというと、前で打って引っ張った。泳いでもいい。一塁ゴロでダブルプレーになったって、ショートゴロのゲッツーも一緒。一、二塁間のヒットになるのと、どっちが確率が高いか、それに気付いて併殺打が減り(97年に)もう一回3割を打った。それが王さん、荒川さんが言ってることを80%理解した瞬間だったんじゃないかな。それができていなければ、2千本はあり得なかった。
巨人ではレギュラーを取るまで時間がかかった。その間に入団が1年遅い吉村禎章は背番号55から7になり、槙原寛己も54から17になってローテーションで放れるエース格になった。僕だけがずっと50番台を付けていた。新聞とか読むと、コーチが「駒田と吉村を比べたら吉村の方が確率が違うから」と。そういうものって一生頭に残ってるわけですね。だから3割打つということは、すごく大切。ホームラン20本でも2割2分だったら、くびになってる。僕は88年に規定打席に達し、3割でした。前年は2割8分7厘。それぐらい自分の確率が上がっていると自信になっていた。3割打ってみて、そういう自分が成り立っている景色を感じられるようになったら、なんぼでも打てるんです。その究極が首位打者だと僕は思う。首位打者争いをしても取ったことない人は、その景色が見えてないから、やっぱり取る人ってすごい。
1998年5月の広島戦で通算12本目の満塁本塁打を放つ駒田徳広さん。横浜の38年ぶり日本一に貢献したシーズンだった=下関
▽僕の性格を心配してくれたからこそ移籍を促した
巨人から出た時は流れがあってそうなったんです。巨人への感謝はいっぱいあるけども、これで現役が終わってしまうのはあかんと僕は思ってました。藤田元司監督には横浜へ行けって言ってもらった。(当時の横浜監督の)近藤昭仁さんが89~91年に巨人のヘッドコーチをしていたから「近藤のところへ行け」って。(中日から)落合博満さんが移籍して来るのは分かってたし、一塁のレギュラーポジションがなくなるのもある。藤田さんが一番心配してくれたのは僕の性格。「おまえは、このままいくとトレードなんだ。トレードはポシャる可能性がある。最後の最後でポシャって巨人に残った時、おまえの立ち位置はどこにある? 2軍でずっとくすぶってるのか。勇気と根性があるなら出ろ」と言われて「覚悟してます」と答えた。感謝ですよ。だから2千本打てたと思います。「頑張れよ、駒田」と思ってくれる方もいてくれたからこそ、巨人時代の1027安打から、あと900何本打てた。そこがすごく大きなモチベーションだった。タイトルを1個も取れたわけじゃないけど、いい経験をさせてもらったなと思いますし、胸を張れますよ。
2000年9月の中日戦で通算2千安打を達成し、喜びの記者会見をする駒田徳広さん。この年限りで現役を引退した=ナゴヤドーム
× × ×
駒田 徳広氏(こまだ・のりひろ)奈良・桜井商高(現奈良商高)からドラフト2位で1981年に巨人入団。通算13本の満塁本塁打を記録し「満塁男」と呼ばれた。94年から横浜(現DeNA)でプレー。名球会入り条件の2千安打は2000年9月に達成し、同年限りで引退した。通算2006安打。一塁手でゴールデングラブ賞10度。62年9月14日生まれの61歳。奈良県出身。
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