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駐ウクライナ大使が語る、各国が「支援疲れ」で終わってはいけない理由 「ロシアの侵略を許せば、別の地域でも…」日本に期待される役割とは

47NEWS / 2024年4月1日 10時0分

インタビューに答える松田邦紀駐ウクライナ大使=2月23日、東京都千代田区

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから2月で2年が経過しました。侵攻は長期化し、欧米ではウクライナへの「支援疲れ」が指摘されます。アメリカ議会では支援予算の承認が進まない上に、11月に控える大統領選で自国第一主義を掲げるトランプ前大統領が返り咲き、ウクライナ支援をやめる可能性も取りざたされます。前線ではロシア軍が攻勢を強め、ウクライナは正念場に立たされています。
 日本から遠く離れたウクライナをなぜ助けなければならないのでしょうか。一時帰国していた松田邦紀・駐ウクライナ大使に2月下旬、東京都内でインタビューし、現地の様子やウクライナ支援を続ける意義について尋ねました。(共同通信=崎勘太郎)

 ―侵攻から2年がたちました。

 「侵略されているウクライナ国民の団結や連帯感、ロシアに対する抵抗心が引き続き強いことに感動しています。日本や欧米諸国が、ウクライナの主権と領土の一体性を守るための戦いを引き続き応援し続けてきたことも、国際社会の団結と連帯を示していると思います」
 「ロシアは国連安全保障理事会の常任理事国であり、核保有国です。世界の平和と安定に本来責任を持つべき国が、国連憲章を初めとする国際法を一方的に踏みにじって隣国に侵略しました。そしてウクライナは一方的に侵略をされた国です。この戦争の本質を忘れることなく、国際社会はウクライナ支援を続けるべきだと思います」


ロシアのミサイル攻撃で破壊された集合住宅の横を歩く女性=2月、ウクライナ東部

 ―ウクライナでの生活はどうですか。

 「首都キーウ(キエフ)ではインフラは安定していて、物不足もありません。侵攻開始後に多くの人が避難し、人口は半分ほどに一時減少しましたが、昨年春には侵攻前とほぼ同水準に戻りました。ミサイルや無人機による攻撃は続いていますが、攻撃のたびに発令される空襲警報の精度も上がっています。緊張の中にも生活のリズムが生まれています」

 ―大使館は侵攻開始以降、一時ポーランドに退避しました。

 「2022年10月にキーウで業務を再開しました。戻らなかったらウクライナの状況が分かりませんし、ウクライナ政府との間でも、膝詰めでいろいろな情報交換、意見交換ができませんでした。2023年に先進7カ国(G7)議長国となった日本としては、ぎりぎりのタイミングで戻れて本当に良かったと思います。戻らないままだったらウクライナ政府からも、同僚の外交団からも相手にされませんでした」


松田邦紀駐ウクライナ大使

 ―ウクライナ政府高官からの日本に対する期待や要望の声は。

 「遠く離れた日本が、早い段階から支援に立ち上がったことに驚きと感謝の言葉を受けます。あるウクライナの閣僚からは、もし日本がこの戦争に関して、ロシアを厳しく非難するとともにウクライナを支援してくれなかったら、ひょっとしたらこの戦争は、欧州の一地方の単なる領土紛争という位置付けで終わっていたかもしれないと言われました。欧州の安全保障はインド太平洋ともつながっています。ロシアの侵略行為が不問に付されるのであれば、同じようなことが別の地域でも起きて、世界の法と秩序は破壊され、日本にも大きな問題となります。ウクライナが防衛戦争に勝つことは、ウクライナだけでなく日本にとっても利益になります」
 「日本が第2次大戦や度重なる自然災害から復興を遂げてきたことがウクライナでも知られるようになりました。日本の経験やノウハウを共有してほしいという期待があり、必要なものは一緒にウクライナ国内でつくってほしいという声も出てきました」

 ―日・ウクライナ経済復興推進会議が2月に東京で開かれました。

 「この会議は、まさに日本への期待が高まる中で開かれました。双方の民間同士でしっかり協力していこうという機運が具体的に生まれたことが最大の成果でした。民だけに任せるのではなく、戦時下でもビジネスを安心して推進できるような環境整備を両政府で進めていきます」
 「世界銀行によると、ウクライナの今後10年間の復興には4860億ドル(70兆円超)が必要だとされます。日本だけでなく他の国にも復興に参加してもらうため、国際会議の場でも議論していきたいと思います」


松田邦紀駐ウクライナ大使

 ―今のウクライナを戦況で有利に立たせるためにできる支援は。

 「ウクライナ側は、殺傷能力がある兵器を輸出できないという日本の法制度上の制限を理解し尊重しています。日本はこれまでにヘルメットや防弾チョッキなど、非殺傷性の防衛装備品を輸出してきました。負傷兵の受け入れや遺体のDNA型鑑定の技術的な支援なども行ってきました」
 「戦争に勝つために必要とされる事柄の裾野は広いです。一つ一つは専門的で、一見小さく見えるかもしれませんが、ウクライナが勝つための能力整備に広い意味でつながればと思います」

 ―和平についてどのように考えますか。

 「今後どのように戦争を行い、どのように和平を構築するかは、一方的に侵略されている側のウクライナが決めることです。ウクライナ側の決定を尊重し、支援すべきだというのが日本の基本的な考え方です」
 「ウクライナの指導者たちは、いたずらに戦争を長引かせたいとは思っていないはずです。クリミア半島の一方的な併合が行われ、東部ドンバス地域で戦闘が始まった2014年以来の経験を踏まえると、ウクライナにロシアに対する不信感があるのは当然です。まず戦闘行為をやめ、軍隊を国境の外に出すのが先決だと主張しているのも当然だと思います」
 「ウクライナとしては、侵略を始めたロシア側が戦闘をやめる用意があるのか、軍隊を引く用意があるのかどうかを見極めない限り、現時点で具体的に停戦の話ができないのだろうと理解しています」


日本からウクライナ警察に反射材を使ったベストなどを引き渡す式典。左は松田邦紀・駐ウクライナ大使=2023年4月、キーウ(在ウクライナ日本大使館提供・共同)

 ―ロシアのプーチン大統領は、ウクライナとの停戦交渉の意思をたびたび示唆しています。

 「侵略した側には、停戦したいのであれば侵略を止める義務があります。ロシアは東部・南部4州やクリミアを占領し続けています。それを棚上げして停戦する用意があると言われても、真剣な姿勢とウクライナ側が受け入れないのは当たり前だと思います」

 ―これまで専門としてきたロシアに対し、今思うことは。

 「ロシアはソ連時代から日本の安全保障にとって重要な隣国の一つだったので、ソ連について学ぶことに大いに意義を感じました。ソ連崩壊後の新生ロシアが、欧州の平和と安定に貢献するような国になることを切に願ったのを覚えています。あれから約30年、そのロシアがこのような非道で暴虐としか言いようがない侵略戦争を始めたことに対しては、何とも言えない悲しみと怒りを感じます。ロシアには違う道を進むチャンスがあったと思います」


在ウクライナ日本大使館施設で日本国旗を掲揚する松田邦紀大使(左)=2022年10月、キーウ(共同)

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 まつだ・くにのり 1959年、福井市生まれ。東大卒。82年外務省入省。欧州局ロシア課長、駐パキスタン大使などを経て2021年10月から現職。

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