金沢発最終のサンダーバードに乗ったら…粋な車内アナウンスに涙腺がゆるんだ 北陸新幹線延伸開業に伴い、金沢―敦賀間から姿を消した在来線特急
47NEWS / 2024年4月8日 10時0分
「この場を借りて、『さようならではなくありがとう北陸線、ありがとうサンダーバード。これからもよろしくお願いします』と伝えさせていただきます…」翌日に北陸新幹線の金沢(石川県金沢市)―敦賀(福井県敦賀市)間の延伸開業を控えた、2024年3月15日夜。金沢発では最終となる在来線特急「サンダーバード」の、静かながらどことなく高揚感のある車内に車掌のアナウンスが響き渡った。
これまで、金沢から大阪まではサンダーバードが直通していたが、延伸開業後は途中の敦賀までを北陸新幹線が担うことになった。金沢から敦賀までのJR北陸本線は、3月16日に第三セクターに移管。これに伴い、この線区を走っていた「サンダーバード」「しらさぎ」などの在来線特急は、前日の15日を最後に、姿を消すことになった。学生時代からよく利用した筆者は、〝10時打ち〟で手に入れた切符で金沢発のラストランに乗車。加賀百万石の城下町・金沢から水の都・大阪までを駆け抜けたサンダーバードの最後の夜を粋な車内アナウンスとともに振り返る。(共同通信=木村遼太郎)
※記者が実際のアナウンス音声と共に、ポッドキャストでも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。
北陸本線を走る特急サンダーバード=2024年3月15日、福井県あわら市
▽「最終列車には是が非でも乗りたい」
北陸新幹線は2015年に長野から金沢まで開通した。従来は東京から金沢に向かう場合、上越新幹線の越後湯沢で乗り換え、金沢まで在来線特急「はくたか」を利用しなければならなかったが、新幹線の直通により金沢への所要時間は大幅に短縮した。
そして9年後の2024年3月16日。北陸新幹線が敦賀まで延伸開業し、平行する金沢―敦賀間の在来線は、第三セクターの「IRいしかわ鉄道」(石川県内)、「ハピラインふくい」(福井県内)に移管した。同時に金沢―大阪間を直通運転する在来線特急は、その前日までで役目を終えることになった。
2015年に石川県の大学に進学した筆者は、地元が関西ということもあり、サンダーバードにはとても世話になった。琵琶湖の案内放送にときめきながら金沢に向かった入試前日にはじまり、帰省や旅行、就職活動など、大学時代は常にサンダーバードと共にあったと言える。
通信社の記者として入社後も、同窓会や旅行で利用した。遠くに白山を望む車窓は、北陸新幹線の高架橋建設が進み、刻一刻と変化していった。「最終列車には是が非でも乗りたい」。そう心に刻みながら、まずは2月15日を迎えた。
北陸本線を走る特急サンダーバード=2024年3月15日、石川県白山市
▽運命の日の1カ月前、窓口に並び〝10時打ち〟
2月15日午前9時45分ごろ、大阪市内の駅窓口に到着した。既に男性客が1人、そわそわと待っていた。
プッ プッ プッ ポーン。「午前、10時を、お知らせします…」。ッターン…カタカタ…。駅係員が顔をあげ、にやり。
「お客さん。座席取れましたよ」
JRではちょうど1か月前の午前10時に指定席切符の発売が開始される。だから、ラストランや臨時列車など人気の列車については、多くの鉄道ファンらが切符を求め、その時間に駅の窓口に集結する。時報とともに全国の駅係員が機械を操作し、少ない指定席券を争うのだ。これが俗に言う〝10時打ち〟だ。
駅係員の言葉は、筆者とその前にいた男性客が、最終サンダーバードの切符を手に入れた瞬間を意味していた。
金沢駅に飾られたありがとう北陸本線のメッセージ=2024年3月15日、金沢市
▽「最速の在来線特急が北陸路から消えてしまうのは名残惜しい」
そしていよいよ迎えた、3月15日の午後8時過ぎ。金沢駅はサンダーバードやしらさぎへの乗車や、ラストランを一目見ようと集まった鉄道ファン、新幹線の切符を買い求める乗客らで大混雑していた。
新幹線改札口の前には「新幹線開業まであと1日」と、誇らしげに電光掲示が輝いている。改札口やみどりの窓口の前には「ありがとう北陸本線」、利用者のメッセージもたくさん掲示してあった。行き先表示板に流れる「特急」の文字、北陸線の案内板、全てが明日、変わる。そう思うと、寂しさがこみあげてきた。
とにかく、乗車するためホームへと上がる。入場規制はかかっていたが、セレモニーの開催される先頭車両付近は近づけないほど恐ろしい人混みだった。そこでホームで列車を待つ客と話をしてみることにした。
大阪行きサンダーバードの最終列車を見送るためホームに集結した鉄道ファンら=2024年3月15日、金沢駅
最初に話を聞いたのは、〝大回り〟乗車が好きだという「乗り鉄」の男子大学生だ。大回りとは、例えば、敦賀から米原まで、通常の北陸本線ルートではなく金沢、東京、名古屋を経由するように、一筆書きできるルートで遠回りに乗車することを指す。彼は「よく北陸本線には乗り、お世話になりました。時速130kmと最速の在来線特急が北陸路から消えてしまうのは名残惜しい」と話した。
母親と見送りで来て、手作りの旗を振っていた園児は「サンダーバードが大好き。さみしい」。一方「仕事でやむなくこの列車に乗るが、まったく切符がとれなくてね」と苦笑いする男性もいた。
サンダーバード50号と記念写真に収まる園児ら=2024年3月15日、金沢駅
▽特急街道、2府3県にまたがる直通運転は終了
そうこうしているうちに、いよいよ、金沢発大阪行きのサンダーバード50号が金沢駅に入線してきた。後方の指定席車両に乗り込む。
午後8時47分、セレモニーの出発の合図と共に、列車はゴトリと動き出した。大勢のファンらに「ありがとうー!」と見送られながら出発した列車は、数分間何の車内放送もなく静かなままだった。「どうしたのかな」と思っていると待望の放送が入った。
「皆様、大変お待たせをいたしました。今日もJR西日本をご利用くださいましてありがとうございます。金沢、大阪を直通する最後の特急列車です。本日を持ちまして石川県から大阪府、2府3県にまたがる直通運転は終了し、明日3月16日から敦賀、大阪間を運行する全席指定席のサンダーバード号となります。
特急街道と呼ばれ親しまれたこの北陸線を走行するサンダーバード号の長らくのご愛顧、改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。また本日、サンダーバード50号ご乗車のお客様限定で記念切符をお配りさせていただきます…」
直通する最後の特急列車、という言葉をかみしめると同時に、この車掌さんも最後の北陸本線の乗務にどう臨んでいるのだろうと思いながら耳を傾けた。アナウンスは続く。
「サンダーバード号が主に停車した北陸線の駅をご紹介させていただきます。先ほど、加賀百万石の城下町・金沢を定刻通りに発車いたしました。
次は、歌舞伎の定番〈勧進帳〉の舞台、歌舞伎の町・小松には21時3分。その後、関西の奥座敷と呼ばれる加賀温泉、芦原温泉を通過し、日本で1番恐竜の化石が発掘されている恐竜王国・福井は21時31分。眼鏡の街である鯖江、越前和紙、越前打刃物など数々の伝統工芸品がある武生を通過し、在来線では最長のトンネル〈北陸トンネル〉を抜けると、日本三大鳥居の気比神宮、三大松原があり、北陸新幹線の始発駅になる敦賀には22時2分の到着です。琵琶湖の西側を走行する湖西線を走り、京の都・京都には22時59分。高槻には23時13分、新大阪には23時23分。水の都・大阪には23時28分の到着です」
大学時代、いろいろな場所に遊びに行ったことを思い出す。隣の席には壮年の男性が座っていた。この男性も乗り鉄で、関東から訪れたそうだ。敦賀まで乗車し、明日の新幹線にも乗ると言う。男性は、ビールを飲みながら放送を肴に「うんうん」とうなずいていた。そうそう、夜のサンダーバードはビールをカシュッと開ける音がよく聞こえていたものだ。
金沢駅のホームに停車した特急サンダーバード50号=2024年3月15日
▽「サンダーバードと共に乗務員として育った」
やがて列車は小松駅に到着。駅には携帯電話やカメラ、タオルを構えた人々がいた。出発後も車内放送が続く。
「私たち北陸エリアを乗務する車掌は、このサンダーバードと共に乗務員として育ってまいりました。敦賀から大阪間で運行するのでさようならはまだ言えませんが、運行区間が短くなることは少々寂しい思いもございます。この場を借りて、『さようなら、ではなくありがとう北陸線、ありがとうサンダーバード。これからもよろしくお願いします』と伝えさせていただきます。今後とも、敦賀から大阪間のサンダーバード、そして敦賀からの北陸新幹線をどうぞよろしくお願いいたします」
今までありがとう。寂しいけれど、これからは北陸新幹線が関西、関東、そして北陸三県の懸け橋となる。うるうるする目頭を押さえていると、男性客が「ビールをおごる」と申し出てくれた。頬が緩み、お言葉に甘えた。
「北陸本線と、北陸新幹線に乾杯!」
しばらくすると、車掌が検札と記念切符の配布にやってきていた。「もう手に力が入らないです」と笑う車掌に切符を示し、パチンと印を押して貰う。配られた記念切符は、サンダーバードのマークが入ったおしゃれなデザインだ。
車内で配られた記念切符=2024年3月15日
▽大阪駅で回送を見送ると、どこからともなく拍手が
福井、敦賀と列車は西進する。どの駅も、見送りのファンがちらほら。駅名表示板も既にハピラインふくいのものに切り替えており、その上からJRのもののステッカーが張っているようだ。そして敦賀では、明日の開業の準備だろう、こうこうと明かりのともった新幹線駅舎が見える。明日からは大阪や名古屋から来る特急列車は、あの駅舎の1階に入線するのだ。
湖西線を抜け、京都、高槻、新大阪と続く。先行列車の遅れなどでやや遅延しているが、最後の車内放送が入る。
「本日は、加賀百万石の城下町・金沢から水の都・大阪まで北陸線を走行いたします、最後のサンダーバード号をご利用くださいましてありがとうございました。引き続き、サンダーバード号のご利用をお待ちするとともに、北陸新幹線のご利用につきましても心よりお待ちしています」
大阪駅に降り立ち、乗車したサンダーバード号の回送を見送った。ここでも鉄道ファンが撮影しており、見送りの後はどこからともなく拍手が湧いた。
金沢駅の窓口前に掲示されたメッセージ=2024年3月14日、金沢市
▽取材後記
最終サンダーバードに乗ってみて、思い残しはおおよそなくなった。実は、筆者が乗った50号より、大阪発金沢行き最終の49号のほうが人気だったという。それは「金沢」という行き先がなくなるからだろうが、個人的にはお世話になった列車と北陸本線に別れを告げる意味で、金沢発の特急に乗れてよかったと感じる。
この先、金沢に向かおうとすると敦賀乗り換えは必須だ。標準乗り換え時間は8分。1階ホームから3階ホームまで移動する「不便さ」も指摘される。解消には北陸新幹線が大阪まで全線開業するしかないわけだが、京都府内を「大深度地下」で通り抜ける計画に反対する声は根強く、延伸には暗雲が立ちこめる。ラストランでビールをくれた乗客が「俺が生きているうちに、全線開通はしないだろうな」と、ぼそり呟いていたことも印象深い。
古くから鯖街道などで知られるように、福井と関西は結びつきが強かった。両地域のさらなる交流活性化のため、一刻も早く全線開業してほしいと願う。
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