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収集家に朗報、スイス初の本格ポケモントレカ自販機設置 セキュリティー面は不安なし、なぜなら…

47NEWS / 2024年4月25日 10時0分

トレーディングカードの自動販売機で商品を選ぶ男性=2月24日、スイス・チューリヒ(共同)

 スイスの最大都市チューリヒのショッピングモールの一角に2月、人気ゲーム「ポケットモンスター」や人気漫画「ONE PIECE(ワンピース)」などのトレーディングカードをそろえた自動販売機「コレクトマット」が設置された。
 日本では、カードや飲み物、キャラクターグッズといったあらゆる種類の自販機を駅や路上、ゲームセンターなど至る所で見かける。インバウンド(訪日客)が感動する日本の光景の一つとして有名だ。種類の多さもさることながら「破壊されていない」「売り上げが盗まれていない」とセキュリティー面でも驚かれる。一方で、スイスの事情はどうなのか?トレカ自販機の取材を通じて見えてきたものとは―。(年齢は取材当時、共同通信ジュネーブ支局長 畠山卓也)

 ▽日本から着想

 チューリヒはスイスの中で最も物価が高い街だ。富裕層も多く、中央駅から湖畔や旧市街に向けて少し散歩するだけで、フェラーリやポルシェ、BMWといった高級車と何台もすれ違う。
 中央駅から車で走ること約15分。高速道路のインターチェンジ付近にある巨大なショッピングモールに到着した。ここはスイスで最大の売上高を誇るという。その3階に、コレクトマットがある。


スイス・チューリヒの中心街=2月24日(共同)

 設置したニコ・パリスさん(31)は手作りの抽選ルーレットや、当選賞品、オマケを並べてささやかなオープニングセレモニーの準備をしていた。「もちろん私も学生時代にトレカを収集していた。また集め始めたのは4年ぐらい前かな。日本の自販機に着想を得て、コレクトマットを思いついたんだ」


トレーディングカードの自動販売機を稼働させたニコ・パリスさん=2月24日、スイス・チューリヒ(共同)

 ▽覆いの中から現れたものは

 午前9時を回ったところで、パリスさんはコレクトマットの覆いを取り払った。オレンジ色で目立ちやすく、サイズは縦約195センチ、横約132センチ、奥行き約87センチ。側面や背面に愛らしいイラストが描かれている。
 タッチパネルで購入ボタンを押すと、リフトが上下して商品を下部の取り出し口まで運んでくれる。商品が勢いよく落下して中身が傷つくのを防ぐシステムだ。
 商品は1スイスフラン(約170円)から用意され、キャッシュレス決済も可能だ。「トレカ類は一番高くて49・9スイスフラン。1袋5枚入りで、100スイスフラン以上の価値があるレアカードが入っていることもある。宝くじみたいで興奮するんだ」とパリスさん。


自動販売機の覆いをめくるパリスさん=2月24日、スイス・チューリヒ(共同)

 ▽次々と駆け付けるファン

 週末の朝にもかかわらず、SNSなどでニュースを聞きつけたファンらが続々と集まってくる。キャラクターの帽子をかぶったり、キーホルダーをかばんに付けていたり、一目でファンと分かる人が多い。
 フアン・ロブレスさん(35)は「この日を楽しみにしていた。いろんな種類のカードがあってうれしい」。目を輝かせながら、もっとコレクションを増やしたいと語った。
 「子どものときに欲しいと思っていたトレカが(自販機で)簡単に買える」と別の男性(36)。友人の分まで複数の袋を買っていくカップルもいた。
 パリスさんは「限定品もたくさん用意した。店で買うより安いし、すぐに売り切れるかもしれない」と興奮した様子で話した。


トレーディングカードの自動販売機に集まるファンら=2月24日、スイス・チューリヒ(共同)

 ▽自販機設置に保守的?

 飲み物やスナックの自販機は駅や空港などに設置されている。ただカード類は一般的にゲームや玩具の販売店で取り扱われており、パリスさんによると、本格的なトレカ自販機の設置はスイスで初めてだという。公式の記録はないが、珍しいのは間違いない。
 2024年になって「ようやく初めて」というのは、日本人としては驚きだ。「おそらくスイス人はこの手の方法に保守的なんだろう。店員と対面で話し、現金でやりとりすることを好むから」とパリスさんは考え込みながら答えた。確かにスーパーでもセルフレジは空いているのに、店員がいるレジに行列ができている光景をよく見かける。
 チューリヒに設置したコレクトマットの売れ行き次第では、国内の他の都市やドイツにも展開したいという。治安の良さで知られるスイスだが「駅や公園に置く気はないよ。屋外は天候の心配もある。ここは大きなモールの中だし、人目も多い。監視カメラだってあるからね」(パリスさん)。


トレーディングカードの自動販売機「コレクトマット」の看板=2月24日、スイス・チューリヒ(共同)

 ▽実は「専門家」

 キャッシュレス決済が普及してきたため、以前に比べて、壊されて内部の売上金が盗まれる懸念が低くなっているとの背景もあるだろう。ただ、やはり1枚のレアカード単品や非常に高価な5枚入り袋は取り扱わないようにしているという。
 近くでインタビューを聞いていたパリスさんの友人が「ニコ(※パリスさん)はセキュリティーの『専門家』だから大丈夫だよ」と言った。意味をつかみかねていると、パリスさんは「私は警察官なんだ。仕事でこのモールを見回ることもあるよ」と笑いながら答えた。


自動販売機の使い方を教えるパリスさん(奥)=2月24日、スイス・チューリヒ(共同)

 ▽商売上手

 日本では公務員は法律で営利目的の副業が禁止されている。スイスでは、確定申告で適切に納税すれば問題視されないようだ。「本業がおろそかになるのでは」と問うと、「非番の時間をどう過ごすかは個人の自由だ」ときっぱり。
 「クラウドシステムで在庫を管理しているから、何袋残っているか正確に分かるんだ」。ただ台数が増えれば、補充や保守点検のため人を雇うことも検討しているという。


スイス・チューリヒの湖畔の眺め=2月24日(共同)

 感心していると、パリスさんは履いていた派手な靴下を見せながら「実は靴下のインターネット通販もやっているんだよ」と打ち明けた。
 靴下の販売を手がける現役の警察官が、もともとファンで収集していたポケモンのトレカを取り扱う自販機を設置した―。今回の取材はスイスで初というだけでなく、さまざまな観点で極めてレアなケースだったようだ。

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