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台湾有事に備え、態勢強化を進める日米。重視するのは「沖縄・先島諸島」 訓練強化、地元住民に募る不安

47NEWS / 2024年4月24日 10時0分

陸上自衛隊石垣駐屯地に展開した、米軍の対空レーダーを見つめる陸自隊員ら=2023年10月、沖縄県・石垣島

 日米両政府が、中国による台湾への軍事侵攻が発生する事態を念頭に、南西諸島で態勢強化を進めている。台湾有事が起きれば「戦闘に巻き込まれる」(防衛省幹部)との懸念があるためだ。有事に対処するための日米共同計画は機密性が高く、全容は明らかでない。複数の関係筋の話から、地理的に近い沖縄県・先島諸島を戦略的に重視する計画の一端が浮かんだ。(共同通信=西山晃平)

 ▽抑止力と住民配慮のバランス

 台湾の東約110キロに位置する先島諸島の西端、与那国島。馬が道路を歩くのどかな風景が特徴的だ。2022年11月、陸上自衛隊与那国駐屯地に日米共同演習「キーン・ソード」の一環として、ひっそりと日米の調整所が設けられた。米軍が先島諸島に入って実施した初の共同演習。地元住民に不安を与えないよう「米兵の外出は禁止」(日本政府関係者)だった。

 約1年後の23年10月に実施された陸自と米海兵隊の実働訓練「レゾリュート・ドラゴン」では、与那国島に加え石垣島にも日米調整所を設置。航空自衛隊は那覇基地からC2輸送機で新石垣空港に米軍の対空レーダーを空輸し、陸自の輸送機オスプレイも石垣島に飛来した。


記者会見する、陸上自衛隊の山根寿一(やまね・としかず)西部方面総監(右)と米海兵隊のジェームズ・ビアマン中将=2023年10月24日、沖縄県・石垣島の陸自石垣駐屯地

 これらに先立つ22年6月、在沖縄米軍トップのビアマン沖縄地域調整官(当時)は、共同通信のインタビューにこう強調していた。「信頼できる軍事力を訓練などで示し、敵の行動を抑止しなければならない。(県民の)敏感な感情は認識している。連携を密にしている自衛隊が地元自治体との連絡窓口になる。われわれは即応性とのバランスを取らなければならない」

 ▽米空母の接近を拒否する中国の軍事力

 なぜ、米軍は先島諸島に関心を示すのか。背景には、中国の急速な軍事力の進歩がある。
 2001年の米中枢同時テロを受け、米軍はイラクやアフガニスタンで戦闘に従事した。本土が大規模に攻撃されたショックは大きく「テロとの戦い」が最優先とされた。


 こうした米軍の中東などへのシフトをよそに、中国は着々と軍拡を進めた。1996年に台湾近海でミサイル演習をして軍事的圧力を強めた際は、米軍に空母を派遣されると引き下がるしかなかった。しかし、対艦ミサイルなどの「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」能力を強化し、現在は中国近海で米空母の航行は困難になったとされる。
 戦略環境の変化を踏まえ、米海兵隊は小規模部隊を島々に分散させる「遠征前方基地作戦(EABO)」を考案した。日本の南西諸島から台湾、フィリピンに至る「第1列島線」に部隊がとどまり、中国軍に隠れて前方で偵察する他、対艦ミサイルによる攻撃や移動を繰り返す戦法だ。


沖縄本島北部の北部訓練場で「遠征前方基地作戦」の訓練をする米海兵隊員=2022年2月

 海兵隊は20年3月、戦車を30年までに廃止して対艦ミサイルなどに投資する方針や、EABOに特化した「海兵沿岸連隊(MLR)」の創設を掲げた文書「戦力デザイン2030」を公表。23年11月には沖縄県内の部隊を改編し、ハワイに次ぐ2番目のMLRを発足させた。米領グアムにも設置する方向だ。


 ▽米海兵隊トップが有事計画に言及

 周辺国との協力も加速させる。23年1月、日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)では、南西諸島の施設の共同使用や、自衛隊と米軍の共同訓練の拡充で一致。24年4月10日、岸田文雄首相の国賓待遇訪米に伴いホワイトハウスで行われたバイデン大統領との首脳会談では、南西諸島を含む地域で「同盟の戦力態勢の最適化」が進展していると評価し、共同声明で「この取り組みをさらに推進する」と確認した。
 23年2月には、米軍がフィリピン国内で使用できる基地の数を増やすことで米比両政府が合意。米軍にとって「台湾への玄関口」(米外交筋)とされる南シナ海から台湾に接近するための拠点を増やす狙いがある。
 米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は23年3月、海兵隊のバーガー司令官(当時)の話として、米インド太平洋軍が島しょ部の戦略的な地点を特定し、複数ある有事計画に書き込んだと報じた。
 自衛隊幹部は「米軍がアクセスできる拠点を増やすのは、中国が台湾侵攻を考えた場合、米軍からの反攻が想定される地点を複雑にし、侵攻を諦めさせるためだ」と解説した。


 ただ、中国軍が容易に攻撃可能な島々に部隊を展開し、物資や弾薬を補給し続けるのは簡単ではない。米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は23年1月、台湾侵攻を想定した机上演習の結果を公表し、MLRについて「戦闘での貢献は限定的とみられ、多くのシナリオで大きな働きをしなかった」と記した。
 複数の日米関係筋は補給の課題を認めた上で、危機が起こる前の段階で臨時の補給拠点を設ける「事前集積」という戦術構想を明かした。先島諸島の陸自駐屯地などの活用も念頭に置いている模様だ。「施設の共同使用は不断に検討している」(自衛隊幹部)。「米軍と自衛隊は先島諸島の重要性を理解している」(米軍幹部)。双方は、日米の緊密連携を何度もアピールした。

 ▽侵攻の可能性と巻き込まれへの懸念

 今年1月の台湾総統選で、中国が「独立派」と見なす民主進歩党の頼清徳副総統が勝利した。中国は台湾問題を「核心的利益の核心」として、独立の動きや「外部勢力による干渉」を警戒。緊張の高まりが懸念される。
 習近平指導部が台湾統一のため武力行使を排除しない方針を示す一方、防衛当局者の間では、中国軍は台湾に上陸する能力などが不足しており、有事は「差し迫っていない」(西側軍事筋)との分析がある。
 それでも不測の事態を招く可能性は否定できない。22年8月、ペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問に反発し、中国軍が台湾を囲んで大規模な軍事演習を実施した。日本の排他的経済水域(EEZ)にも弾道ミサイルを撃ち込み、与那国島などでは漁業者が操業自粛に追い込まれた。


沖縄県与那国町の漁港=2022年8月5日

 米軍は、先島諸島の陸自駐屯地を積極的に活用したいと日本側に働きかけている。ただ、防衛省幹部は慎重だ。「中国を抑止する態勢の整備は必要だが、住民感情にも配慮しなければならない。自衛隊の安定的な駐留が最優先だ」
 仮に台湾有事が起き、米軍がEABOに基づく作戦を発動して先島諸島に展開すれば、中国軍の攻撃対象となり、住民が巻き込まれる恐れもある。与那国島の飲食店経営者は、自衛隊と米軍の共同訓練の強化にこう漏らした。「台湾海峡の情勢が不安定化する中で、米兵が日常的に島にいることになれば不安だ」


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