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韓国総選挙、注目選挙区を歩いて見えてきたこと 「二大政党」若者のニーズに応えず、男女に共通「希望がない」

47NEWS / 2024年5月2日 10時0分

投開票日前日の4月9日、ソウル中心部で支持者を前に気勢を上げる保守系与党「国民の力」の代表を務めていた韓東勲(ハン・ドンフン)氏。与党惨敗の結果を受けて、代表を辞任した

 4月10日に実施された韓国総選挙は、最大野党「共に民主党」が議席の半数以上を獲得する圧倒的勝利を収め、尹錫悦政権の保守系与党「国民の力」は惨敗した。若者を中心に、有権者はどういった視点で投票したのか。群馬県出身で韓国在住のジャーナリスト、徐台教さんと注目選挙区を歩き、今回の選挙結果を分析した。(共同通信=佐藤大介)
 ソウル近郊の京畿道華城市東部に位置する、人口約30万人の東灘第2新都市。サムスン電子の半導体工場をはじめとするハイテク工業地域に隣接し、新築高層マンションが立ち並ぶ。ホワイトカラー層を中心とした市民の平均年齢は34・7歳と、全国平均の44・9歳を大きく下回る「全国で最も若い地域」(韓国メディア)だ。


 同市の選挙区では、国民の力元代表で、尹錫悦大統領と対立した末に離党し「改革新党」を立ち上げた李俊錫氏が立候補し、注目を集めた。39歳の李氏は、女性政治家を増やすクオータ制(人数割当制)を批判する反フェミニズム的な主張と能力主義を打ち出し、若年層の男性を中心に支持を集める。


在韓ジャーナリストの徐台教(ソ・テギョ)さん=本人提供

 この選挙区からは、過去に議席を得てきた共に民主党から有力候補者が出ており、国民の力からも若手候補が出た。李氏は二大政党に挟まれる形で、事前の世論調査では劣勢が伝えられていた。
 だが、結果は李氏が逆転し、共に民主党の候補者に約3000票の差をつけて当選を果たした。李氏は投票日前日になって交流サイト(SNS)に「逆転した」と書き込んでおり、何らかの手応えを感じていたとみられる。
 36歳の男性は「李氏は仕事ができるという印象があるので、彼に一票を投じた。周囲でも、李氏の人気は確実にある」と言い切る。やはり李氏に投票したという33歳の男性は、その理由を「公約に共感できる点が多かった」と述べ、理氏の立候補によって「選挙に活気が出た」と評価する。
 この選挙区の投票率は72・1%で、全国平均の67・0%を上回る。徐さんは「終盤戦で李氏が追い上げていることを知った男性有権者が投票したことも、高い投票率の背景にあるのではないか」と見る。
 だが、李氏を支持したのは男性ばかりではない。34際の女性は「能力の高さから李氏に票を入れた。(反フェミニズムの主張は)あまり気にしていない」と話す。徐さんは「李氏は30代以下の男性に人気が高いが、それに加え『これまでと異なる政治家を選びたい』という意識が若者有権者に存在したようだ。それが当選につながったのだろう」と分析する。
 出口調査の結果からは、若い世代ほど投票する政党が分散している傾向が浮かび上がった。李氏の新党を支持したのは、20代以下の男性が16・7%と最も高く、左派系野党「緑の正義党」でも20代以下の女性からの支持が5・1%と、ほかの世代を上回っていた。


出口調査の結果で優勢が伝えられ、喜びの表情を見せる最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表(前列左から3人目)ら=4月10日、ソウルの韓国国会

 「男性は保守、女性は革新と分かれたものの、二大政党のくびきから逃れようと、若者世代がもがいている印象を受ける。選挙戦で互いの中傷合戦に終始した二大政党は、若者のニーズに応えられていない」。徐さんは、そう指摘した。
 ソウル中心部の麻浦区でも、若い有権者から現状の政治に対する不満が聞かれた。韓国メディアによると、同区は人口に占める女性の割合が54・3%と、全国で最も高い水準にある。
 投票所の前で、34歳の女性会社員、曺周英さんは「政治だけではなく、社会のあらゆる分野で女性の声には限界がある。若者の政治離れは進んでいくのではないか」と話した。
 また、カフェを経営する35歳の男性、李昌根さんは「自分が満足して任せられる政治家がいない。白票を投じた人も少なくないだろう」と言い、将来には「希望がない」と嘆いた。


ソウル市内では、総選挙に出馬する候補の名前と顔写真などを入れたソウル市内では、総選挙に出馬する候補の名前と顔写真などを入れた横断幕が、あちこちで目についた=4月10日

 徐さんは、国会議員秘書の経験もある政治学者の言葉を引用し、現状をこう語った。「60代は地域主義、40~50代は理念主義で投票する傾向があるが、30代以下はどれにも当てはまらない。出生率の低下と高齢化といった現実を前に、若者層にどういった政策を訴えていくかが、今後の大きな課題だ」

【韓国総選挙】

 韓国国会は一院制で任期4年、解散はない。定数300のうち、小選挙区は254議席、比例代表が46議席。18歳以上の有権者が小選挙区と比例代表に1票ずつ投じる。ほぼ全ての小選挙区で、保守系与党「国民の力」と革新系最大野党「共に民主党」の二大政党による、事実上の一騎打ちとなった。3月に結党し、躍進した革新系野党「祖国革新党」は比例代表にだけ候補を出した。中央選挙管理委員会によると、今回の投票率は67・0%で、1996年の総選挙以降で最も高かった。

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