小林製薬「紅麹」結局何が問題なの?公表までに2カ月、謎のプベルル酸、サプリ市場に影… 「医薬品と同等の管理が必要なケースもある」と専門家
47NEWS / 2024年4月25日 11時0分
小林製薬が自社製の「紅麹」サプリメントを摂取した人の健康被害を3月22日に公表してから1カ月たった。小林製薬は当初、サプリとの関連が疑われる死者はゼロ、6人が入院したと説明していたが、電話窓口を設けると事態は一変。摂取したとみられる高齢者を中心に5人が死亡、200人以上の入院が判明し、4月18日時点で延べ約8万8千人から相談が押し寄せた。
1月に症状の発生を把握しながら、公表まで2カ月超を要した小林製薬の対応のまずさが次々と露見した。原因物質として可能性が浮上した青カビ由来の「プベルル酸」には謎が多く、製造過程でどのようにして混入したのか経緯も不明だ。食品の安全性に対する不安が広がり、右肩上がりのサプリ市場にも影を落とす。社会問題に発展した今、何が問題となり、何が分かっていないのか。この1カ月の主な動きをまとめた。(共同通信=小嶋捷平、石井祐、浜田珠実)
紅麹コレステヘルプ
▽なぜ2カ月も遅れたの?
小林製薬は3月22日、小林章浩社長らが大阪市で緊急記者会見し、「紅麹コレステヘルプ」など3商品の自主回収を公表した。この時点で明らかになったのは、①サプリを摂取した人から腎疾患の報告が相次いでいること、②想定しない「未知の成分」が健康被害をもたらした可能性が高いこと、などだ。小林製薬は過去にサプリを摂取したり、体調に異変を感じたりする人は、速やかに摂取を中止して相談するよう呼びかけた。
記者会見で謝罪する小林製薬の小林章浩社長(左)ら=3月22日、大阪市
ただ、小林製薬が実際に症状の発生を把握したのは、2カ月以上前の1月15日だった。その後も複数の医師から断続的に連絡があり、2月1日時点では計5人の症状が報告された。小林社長も2月6日に把握したが、アレルギーなどを念頭に置いて原因究明にこだわり、肝心の社外公表を先送りした。独立した立場から経営をチェックする社外取締役には、公表2日前の3月20日になってようやく事態が知らされたという。
亡くなった5人のうち1人は2月に死亡したことが分かっている。もし最初に症状を把握した時点ですぐ使用中止を呼びかければ、助かった命があったのではないか。
小林製薬は自主回収の判断時期について「自社のガイドラインや弁護士の意見を踏まえて判断しており問題ない」との見解を崩していない。だが小林社長は会見で「判断が遅いと言われれば、その通りだ」とも述べている。
小林製薬が本社を置く大阪市の横山英幸市長は記者会見で「できるだけ早く製品回収や健康被害を把握するスキームをつくりたい」と話した。健康被害の拡大を最小限に食い止める新たな仕組みづくりに向け、国を巻き込んだ抜本的な議論に火が付く可能性もある。
▽プベルル酸って?
小林製薬が2度目の記者会見を開いた3月29日は、自主回収の公表後に原因物質の可能性が浮上した「プベルル酸」に質問が集中した。最初の会見で小林製薬が示唆した「未知の成分」で、具体的な候補名が示されたのはこのプベルル酸だけだ。
記者会見する小林製薬の小林章浩社長(中央)=3月29日、大阪市
プベルル酸は抗生物質の働きがあるとされる。北里大の研究チームは蚊が媒介する感染症マラリアの治療薬を探す中、候補物質の一つとして論文で報告していた。一方でマウスに投与すると死んだとの記載があり、人の細胞に対しても毒性があるとされる。
ただ、北里大のチームは「安全性に関する知見は持ち合わせていない」とも説明している。今回サプリによる被害の訴えが集中している腎臓に与える影響は現時点で全く分かっていない。
プベルル酸は専門家の間でもほぼ知られていなかった。原因物質と特定するには慎重な検証が不可欠で、1~3年かかるとの予想もある。結果的にプベルル酸以外の物質が「未知の成分」と判明する可能性も拭えず、原因の特定という最大の謎の解明は長期化が避けられない。
▽どこで混入したの?
2度目の社長会見翌日の3月30日、厚生労働省と大阪市は、サプリに使う紅麹原料を生産していた小林製薬の大阪工場(大阪市淀川区)を立ち入り検査した。食品衛生法に基づき、原料の製造過程や衛生管理の体制を確認するためだ。
小林製薬は2016年に下着大手のグンゼから紅麹関連事業を譲り受けた。1940年に操業を始めた大阪工場に製造設備を移したが、清涼食品「ブレスケア」や消臭剤「無香空間」といった日用品も生産している。あるサプリメーカーの担当者は「高度な衛生管理が必要な菌類を扱う製造拠点として問題はなかったのか」と疑問を呈する。
小林製薬の大阪工場=3月、大阪市
紅麹は、みそやしょうゆに使われる「黄麹」などよりも長時間発酵させる必要がある。小林製薬は、コレステロール値を下げる効果があるとされる成分の濃度を高めるため、サプリ向けは最長56日間も発酵させていた。ある麹メーカー経営者は「発酵が長期化すると、青カビなど異物の混入や発生のリスクは大きくなる」と話す。
ただ、大阪工場は2023年12月末に老朽化を理由に閉鎖された。紅麹原料の製造設備は和歌山県の工場に移ったため、原因究明のヒントとなる実際の生産現場は残っていない。製造機械や建屋の殺菌、カビの胞子が含まれる空気の洗浄、紅麹の素となるコメへの青カビ付着の有無などが検証のポイントになるが、作業は難航しそうだ。
立ち入り検査のため、小林製薬の子会社工場に向かう厚労省の担当者ら=3月、和歌山県紀の川市
▽安全なサプリ、どうやって作る?
市場調査会社のインテージ(東京)は4月16日、紅麹問題の判明後「機能性表示食品」のサプリ市場が7・7%縮小したと発表した。サプリそのものに関心が高まり、消費者に動揺が広がった結果とみられる。
サプリは健康維持のため、ビタミンやミネラルなどの栄養成分を錠剤やカプセルに成形した「食品」に分類される。薬と同じように毎日摂取するのが一般的だ。今回のように1袋15~30日分で販売された場合、同じ時期に製造されたサプリを長期間飲み続けることになる。味わうことなく水で流し込むケースが多いため、もし健康被害を引き起こす成分や異物が含まれていても、食品のように味や食感から異変を感じにくい。製造過程で生成された有毒成分が濃縮する恐れがあり、米国ではサプリ製造工場に「GMP(適正製造規範)」の取得が義務づけられている。
GMPとは、原料調達や施設管理の指針を定めた認証のこと。製造の全ての過程で、安全で高品質な製品を作るために決められた規則だ。日本では、医薬品の工場は法律に基づいて国が認可する仕組みだが、錠剤型のサプリを製造する場合は消費者庁が作成したGMPガイドラインに基づき、第三者機関が認証する。ただGMPの取得は、あくまでも「推奨」に過ぎない。リスクのあるサプリを、法律上は食品と同じ衛生基準で製造できることに疑問を投げかける専門家もいる。小林製薬の大阪工場もGMPを取得していなかった。
医薬品の品質管理に詳しい熊本保健科学大の蛭田修特命教授は、「GMPでも注射薬など完全に無菌状態を求めるものや、市販薬など少し基準の緩いものなど、複数のグレードがある。発酵が必要な紅麹のように、管理の難しいものを扱う場合は、医薬品と同等の管理が必要なケースもある」と指摘している。サプリと関連する健康被害の再発防止に向け、製造基準の厳格化を含めた制度の見直しが求められそうだ。
小林製薬の通販サイトに掲載された「紅麹コレステヘルプ」に関連する画像
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