日本卓球のエース張本智和が語った五輪への闘志。東京で経験した不安、パリでは「いつもの自分を見せたい」 妹美和の出場は「ポジティブでしかない」
47NEWS / 2024年5月8日 10時0分
卓球男子の張本智和(所属・智和企画)は7月26日に開幕するパリ五輪へ静かに闘志を燃やしている。18歳で初出場した2021年の東京五輪では団体銅メダル獲得に貢献した一方、シングルスは4回戦で敗退する悔しさを味わった。東京大会で身をもって経験した五輪の緊張感や、出場3種目でメダルを狙うパリ大会に臨む心構えをインタビューで語った。(共同通信=大島優迪)
▽夜中のサーブ練習
東京五輪を控えた2021年3月。ドーハで開催された世界ツアー、スターコンテンダー・ドーハで優勝した直後から異変を感じた。「ラケットを握る感触がおかしくなってしまった」と言う。
「4月くらいから不安や緊張からなのか、夜中に卓球場に行ってサーブ練習する感じだった。練習量を増やすというより、行き過ぎた努力というか、不安だから、やらないとじっとしていられないという緊張感があった。東京で行われるオリンピックは最初で最後だと思うので、やっぱり失敗できないっていう気持ちが強かった」
東京五輪のシングルスは第3シードで臨み、2試合目だった4回戦でダルコ・ヨルギッチ(スロベニア)に屈した。ただ、雪辱を期した団体では無敗の活躍でエースの役目を果たし、日本男子の2大会連続メダルに貢献した。大会後には、初参加した五輪の影響力を実感することになった。
東京五輪の男子シングルス4回戦で、スロベニア選手(左)と対戦する張本智和=2021年7月、東京体育館
「団体で銅メダルを取って、その後にテレビ局さんに回らせてもらったり、有名な人に会えたり。五輪のたった1、2週間の方が今までの4、5年間よりも見てもらえるんだなと思った」
「プラスでもあるし、マイナスでもあるというか。結果を出せた人にとってはいいけど、もし出せなかったら、それまでの4年の方が頑張ったのになと思って。それだけチャンスもあるし、ピンチでもある。(普段の大会と)対戦相手は変わらないけど、反響はレベルが違うんだなと感じた」
大会直後、拠点とする味の素ナショナルトレーニングセンターに戻った。父の宇さんに銅メダルを見せると、パリ五輪への率直な思いがこみ上げた。
「もちろん(父は)喜んでくれたけど、金メダルだったら、もっと喜んでもらえたかなという気持ちが最初に出てきた。自分も銅メダルを取れてうれしいけど、銀や金の方がうれしかったと確かに思った。今は手元にある銅でしか喜べないけど、3年後はもっと喜ばせたい、1ミリの迷いもない笑顔にさせてあげたいと思った」
東京五輪の男子団体で獲得した銅メダルを手にし、記念撮影する(左から)張本智和、水谷隼、丹羽孝希=2021年8月、東京体育館
▽環境変化で成長
東京五輪後には環境が変わった。所属していた木下グループと2022年3月末で契約を満了した。中国出身の董崎岷コーチと新たにタッグを組み、パリ五輪に向けて再スタートを切った。高校も卒業し、1人暮らしを始めた。
「五輪が終わった後、やっぱり金メダルを取るには、このままではいけないと思った。五輪が終わって練習に気持ちが入らない日々がちょっと続いていた」
「木下グループはすごくいい環境で衣食住、何も不自由がなかったことが、逆にあの時の僕には良くなかったかなと。僕は『やれ』と言われたらやりたくなくて、『やるな』と言われたらやりたいと思うタイプ。1人で暮らしたり、何もそろっていない状況の中で自ら動かなければというか、自立しないといけないかな、とうすうす思っていた」
練習場所や練習相手を自分で確保しなければいけない日々。「積み重ねていく中で、この1、2年ですごく成長できた」との実感がある。
卓球全日本選手権の男子シングルスの優勝杯を掲げる張本智和=1月、東京体育館
▽兄妹でメダル
2022年3月に始まり、約2年間続いたパリ五輪シングルス代表の国内選考レースでは首位を独走し、代表の座をつかんだ。
22年秋に中国・成都で開かれた世界選手権団体戦では銅メダルを獲得した。準決勝の中国戦でチームは敗れたものの、世界王者の樊振東と2024年4月16日付の世界ランキング1位の王楚欽を倒して2戦2勝する活躍だった。
世界卓球団体戦で中国の王楚欽と対戦する張本智和=2月、釜山(共同)
国内外の大会でエースの貫禄を示してきた選考レースの期間で、5歳下の妹美和も急成長した。美和は日本卓球協会の強化本部の選考により、女子団体代表入りを果たした。きょうだいでの五輪出場は、日本卓球界で初の快挙となる。
「正直、僕の中では(2028年の)ロサンゼルス五輪で一緒に出られたらいいかなと思っていた。パリで(一緒に)出ようというのは多分、僕も妹も両親もギリギリまで、あまり期待していなかった。(選考レース終盤から)少しずつ『もしかしたら、もしかしたら』という気持ちで、いつの間にか(選考対象最終の全日本選手権が開催された)1月を迎えて(2月5日の代表候補)発表を迎えていた」
「(美和との出場には)ポジティブな心境しかない。自分も一緒に頑張りたいし、女子団体は高い確率でメダルを取れる。自分も取って、きょうだいでメダルを取ることを果たしたい」
▽「いつも通り」
パリ五輪のシングルスでは中国勢のほか、地元フランスのフェリックス・ルブラン、林昀儒(台湾)らがメダル争いのライバルとなる。団体ではともに初出場の戸上隼輔(井村屋グループ)と篠塚大登(愛知工大)を引っ張る。早田ひな(日本生命)と組む混合ダブルスでは水谷隼、伊藤美誠組に続く日本勢の2大会連続金メダルが期待される。
卓球世界選手権の混合ダブルスでプレーする張本智和(手前)、早田ひな組=2023年5月、ダーバン(共同)
五輪開幕の熱気が少しずつ高まる中、冷静に本番に臨むつもりだ。
「前回(の東京五輪前)は、すごくワクワクしていたけど、成功も失敗もして、そんなに甘い場所ではないと他の人よりも分かっている。いつも通り、例えばWTT(世界ツアー)の延長線に五輪があるという気持ちで迎えようと思う」
「東京五輪のシングルスで負けたことも含め、今まで全日本選手権や世界卓球で悔しい負けをしてきた。もちろん(五輪で)メダルを取りたいけど『負けても死ぬわけじゃない』『そんなに自分を追い詰めてもいいことはない』と思っている」
「(パリ五輪では)いつも通りの自分をお見せしたい。出来過ぎなくてもいいし、東京五輪みたいに緊張し過ぎなくてもいい。80~90点の自分を常に出し続ける。今はその80~90点のレベルを上げる期間。大会本番は多少の誤差があっても、できることは限られる。自分ができる最高のプレーができれば、どんな結果になったとしても、それが自分にとっての100点だと思う」
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