自家製爆弾vs竹やり。牧師が率いる「手作りの内戦」に同行した 国際社会の支援はゼロ。「打倒軍政」を支えるのは市民の熱意【ミャンマー報告】2回続きの(1)
47NEWS / 2024年4月28日 11時0分
ミャンマーで事実上の内戦が本格化している。2021年2月のクーデターでアウンサンスーチー氏の民主政府を倒した軍事政権に対し、国内各地の少数民族が昨年から一斉に攻勢を強め、支配地域を次々に拡大。軍政の統治は大きく揺らいだ。共同通信記者は3月、戦闘が続く北西部チン州で民主派の少数民族武装組織に同行し、軍事作戦と自治の現場を取材した。戦場では手製爆弾を使ったドローン空爆や、竹やりを備えた防御用落とし穴など装備の貧弱さに驚いた。国際社会に無視されて支援を得られず、市民の熱意を頼りに続く内戦の実態を2回に分けて報告する。(共同通信ミャンマー取材班)
▽装備で劣る民主派はドローン空爆で勝機をつかんだ
3月10日、チン州タインゲン。急峻な丘を歩いて登ると、荒れ果てた国軍陣地があった。縦横に掘られた塹壕には軍服や砲弾の破片が散らばり、かすかに死臭が漂う。1月12~16日、ここで少数民族部隊が国軍に総攻撃を仕掛け、約40人を殺害し部隊を全滅させた。2023年夏以降、計6回目の戦闘だった。
「敵は重機関銃とロケット砲で武装して陣地に立てこもり、近郊の基地から迫撃砲で援護を受けていた。こちらは自動小銃しか持たぬ兵士らが、じっと包囲した。気温は氷点下なのに防寒着もない。兵士らは凍えた体を少しでも温めようと銃を連射したがる。弾には限りがあるので『敵の姿を見るまでは撃つな』と命令した」
ミャンマー北西部テイザーン近郊で、国軍拠点を空爆するためドローンを離陸させる兵士ら=3月12日撮影(共同)
作戦を指揮したリアンカンマン司令官(35)は装備に劣る少数民族側が勝てた決め手は小型ドローン攻撃だと振り返る。「早朝から夕暮れまで6機を交代で飛ばし、5日間の戦闘中に計900発の手製爆弾を正確に敵陣に投下し続けた。敵はほぼ全員がドローン空爆で死亡した」
国軍との戦闘でドローンは主力兵器だ。司令官は「中国DJI社製を所有している」と明かした。部隊のドローン発進基地からは、全長2メートルに満たないプロペラ機が手製爆弾をつるして離陸していく。若い兵士がリモコンを操作し、精密な映像を見ながら爆弾投下のボタンを押す。数秒後に着弾して「ドーン」という爆発音が響く。ゲームのような感覚だ。
ミャンマー北西部チン州テイザーン近郊で、手製爆弾をつるして離陸したドローン=3月12日撮影(共同)
▽「家族に危害が及ぶ」と言い、国軍兵士は投降を拒否した
国軍陣地には竹矢来(たけやらい)のような粗末な囲いが巡らされ、底に竹やりを備えた落とし穴が掘られていた。日本の戦国時代を思わせるような原始的な防御。塹壕には酒瓶やインスタントラーメンの袋が散らばり、たき火の跡があった。まともな食料もなく酒をあおりながら、ドローンの間断ない空爆を浴びて死んでいった国軍兵らの姿が目に浮かんだ。
ミャンマー北西部チン州タインゲンの国軍陣地にあった落とし穴。竹やりが備えてある=3月10日撮影(共同)
リアンカンマン司令官は作戦開始前日、国軍の現地指揮官に携帯電話で連絡し投降を勧めた。だが相手は「私たちの家族は国軍基地で暮らしており軍政に監視されている。『死ぬまで戦え』という命令に背いて投降すれば家族に危害が及ぶ」と断り、戦闘に突入した。
「国軍兵士も軍政と内戦の犠牲者だ」と司令官。少数民族側は計12人が死亡、70人が負傷した。最前線で戦ったタウンブー大尉(27)に死んだ部下への思いを尋ねると、長い沈黙の後に「悲しく寂しいが、誇らしい。私は軍政を倒すまで戦う」と語った。チン州では国軍の主要拠点が駆逐されつつある。同様の戦闘が全土で続く。
ミャンマー北西部チン州タインゲンの国軍陣地跡で、死亡した国軍兵が残した軍服を示すリアンカンマン司令官=3月10日撮影(共同)
▽牧師率いる「草の根部隊」は常に予算不足
取材班が同行したのは少数民族武装組織「チン防衛隊(CDF)」の一部隊。ザカイ司令官(34)は約120人の兵士を率い、人口約6千人のチン州北部シイン地域で戦闘と自治を担っている。本業はキリスト教の牧師。食事の前には祈りを欠かさない。兵士らは「司令官」ではなく、敬意を込めて「牧師」と呼ぶ。大半が10代後半から20代前半の兵士らは農民や運転手、学生など経歴が多様で、2021年2月のクーデター後に初めて銃を握った者がほとんどだ。
村の教会で働いていたザカイ司令官は、クーデターから約2カ月後の2021年3月末、軍政のデモ弾圧と市民殺りくを食い止めるために仲間11人で部隊を立ち上げた。「軍政を追い出し、自分たちの土地と国を取り戻す」ことが戦う目的だ。州内では同時期に、軍政に反発する市民が多数の組織を設立。今では計18のCDF部隊に整備された。チン州には数十年の歴史を持つ「チン民族戦線(CNF)」と配下の武装組織「チン民族軍(CNA)」というプロ集団が存在し指導的役割を果たしてきた。素人集団CDFはこれを補完し、戦闘と自治の両方で重要な役割を担っている。
ミャンマー北西部チン州テイザーン近郊で、兵士らを指揮するザカイ牧師(左端)=3月12日撮影(共同)
活動資金は、地元から国外に避難した市民らの寄付が頼りだ。寄付は日本からも届くという。ザカイ司令官が2023年に受け取った寄付金総額は約2500万円相当。これで学校と病院を運営し、国軍との戦闘も続ける。タインゲンでの国軍陣地攻撃作戦だけで戦費が約1700万円かかった。
「資金は常に不足している。今もコメ代、燃料代、医薬品代など約130万円の借金が返せない」とザカイ司令官。配下の兵士ら120人には「この3年間一度も給料を払えていない」。食事と軍服や靴、自動小銃を与えるのが精いっぱいだ。
▽軍政支配は国土の中央部のみ。少数民族が強い周縁部で戦闘が続く
ここでミャンマーの現状を整理しよう。「中国とインドが出会う場所」と称されるミャンマーは、中国とタイ、インドなどに囲まれた多民族国家。最大民族ビルマ人を筆頭にシャン人、カレン人、ラカイン人など135民族が存在する。チン州だけでも多様な民族と言語がある。
1948年の独立以降、ビルマ人主体の中央政府(長い間軍事政権が続いた)と、自治権を求める各地の少数民族との戦闘が繰り返された。2015年以降にスーチー氏が率いた民主政権下では落ち着いたが、2021年のクーデター後しばらくして少数民族が武装闘争を再開した。
少数民族の拠点は国土の周縁。だから国軍との戦闘現場も、チン州のほか北東部シャン州、北部カチン州、西部ラカイン州、東部カヤ州、同カイン(旧称カレン)州など国境に近い地域が中心だ。軍政は最大都市ヤンゴンや第2の都市マンダレー、首都ネピドーなど、ビルマ人が多数を占める中央部の支配をかろうじて維持している。
軍政を率いるミンアウンフライン総司令官は2023年2月、軍政が治安を掌握しているのは国内330行政区のうち約6割の198だけだと述べた。少数民族の支配地域は拡大し、軍政の支配は弱まり続けている。(続く)
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