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ガザで起きている「生存を懸けた戦い」、展望は、課題は イスラエル、パレスチナ、エジプトの識者3人に聞いた

47NEWS / 2024年5月14日 10時0分

イスラエル軍の空爆で破壊された建物のがれき近くに座る少年=4月22日、ガザ地区北部(ロイター=共同)

 イスラエル軍とイスラム組織ハマスがパレスチナ自治区ガザで戦闘を開始してから半年が経過した。イスラエルがハマスを滅ぼして和平実現に進むのか、パレスチナ占領を終わらせるのが先か。米国はどの程度関与するのか。戦闘終結が見えない中、イスラエル、パレスチナ、エジプトの識者3人が現状を分析した。(聞き手は共同通信エルサレム支局長 平野雄吾)


【ヤイル・ヒルシュフェルド氏(イスラエルの政治評論家)】
「ハマス壊滅後に共存可能」
 イスラエル軍とハマスがパレスチナ自治区ガザで続ける戦闘は、ハマスが拘束下の人質全員を解放するまで終わらせることはできない。戦闘開始後、イスラエル人とパレスチナ人が憎み合い、ひどい状況が続いている。国際社会は資金源を断つなどハマスに圧力をかけてほしい。ハマス壊滅後、イスラエルとパレスチナは「2国家共存」に向け歩み出せる。それ以外に解決策はない。


 国際社会は時間がたつにつれ、ハマス拘束下の人質の安否に関心を寄せなくなった。ガザに多くの惨状をもたらしたのはイスラエルの大きな過ちだが、イスラエル人が国際社会で反ユダヤ主義を感じるのも事実だ。
 ハマスは犯罪組織であり、カタールやトルコはハマスを拒否すべきだし、資金源を断つべきだ。大量殺人の罪で、幹部を法の裁きにかけることも考える必要がある。
 パレスチナ解放機構(PLO)はイスラエルとの共存を受け入れ、独立国家樹立を目指していたが、ハマスにその意思はなく、共存はできない。
 イスラエル人は安全保障上の不安を感じている。パレスチナ国家樹立に反対するイスラエル人が多いのは、それが「テロ」抑止につながる保証がないという不安からだ。


ヤイル・ヒルシュフェルド氏=3月31日、イスラエル北部ラマトイシャイ(共同)

 だが、イスラエル人も考えを変える必要がある。英語に「一致団結しなければ、われわれは個々に絞首刑に処される」との格言があるが、まさにそれだ。イスラエル人とパレスチナ人は友人になる必要はないが、共に協力して「2国家共存」を実現しなければ、互いに代償を支払う。
 ガザは地中海とインド洋をつなぐ要衝にあり、港を整備すれば大いに発展し、パレスチナだけでなく中東全体に利益をもたらす。アラブ諸国を巻き込む地域的枠組みが必要だ。安全のない場所に投資する者はおらず、ハマス壊滅後に域外からの投資も可能になる。(2024年3月31日取材)
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 1944年、現在のニュージーランド・ウェリントン生まれ。1967年にイスラエル移住。1993年のパレスチナ暫定自治宣言(オスロ合意)に至る秘密交渉の枠組みをイスラエル側代表として築いた。ハイファ大名誉教授。

【ガッサン・ハティーブ氏(パレスチナの政治評論家)】
「占領終結、唯一の解決策」
 イスラエルとハマスの戦闘は、安全保障は軍事力で得られると考えるイスラエルの戦略的誤りを露呈した。イスラエルはこの戦闘をハマスによる昨年10月7日の奇襲への反撃だとするが、ハマスは奇襲をイスラエルによるパレスチナ占領の結果だと捉えている。パレスチナ占領終結なしにハマスの抵抗は終わらず、衝突は続く。イスラエルは占領終結という政治的解決が唯一の道だと認識する必要がある。
 イスラエルは今、ジレンマに陥っている。この戦闘で軍事的解決に固執すれば、戦闘後もパレスチナ自治区ガザを再占領しなければならない。イスラエルは2005年に軍事的、政治的、倫理的負担に耐えかねてガザから撤退した。ガザ再占領となれば、再び重荷を背負うことになる。
 イスラエルとハマスとの間で一時的な戦闘休止は可能だろうが、戦闘の終結は見えない。双方が「生存を懸けた戦い」と捉えているためだ。


ガッサン・ハティーブ氏=3月28日、ヨルダン川西岸ラマラ(共同)(

 中東は現在、イスラエルとイランの「戦略的バランス」で成り立っている。イスラエルがイランの代理勢力に過ぎないハマスに軍事的に勝てないとなると、バランスは崩れ、イランが中東を支配することになる。イスラエルにとっては「終わりの始まり」だ。またイスラエル軍がガザから撤収すれば、ハマスが政治的にも軍事的にも再建されるのは時間の問題だ。
 一方、イスラエルが軍事的に勝利しガザを再占領すれば、ハマスはそのまま壊滅する。ハマスにとって唯一のカードは人質で、戦闘終結につながらない一時的な戦闘休止のために全人質を解放することはできない。
 ハマスの目標はガザの統治者として残るとともに、パレスチナ自治政府に代わり、パレスチナ代表として国際社会で認知されることだ。だが、イスラエル国内を見れば、パレスチナ国家樹立に反対する右派や極右が多数派で、パレスチナの占領継続を求めている。このままでは「2国家共存」は困難だ。(2024年3月28日取材)
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 1954年、ヨルダン川西岸北部ナブルス生まれ。マドリード中東和平会議(1991年)のパレスチナ代表団メンバー。現在は西岸のビルゼイト大講師。

【サミール・ファラグ氏(エジプトの軍事政治評論家)】
「イスラエルは目標未達成」
 イスラエルとハマスのパレスチナ自治区ガザでの戦闘は半年が経過したが、ハマスが断固抵抗しており、イスラエルは「人質解放」「ハマス壊滅」「ガザからの脅威の除去」という目標をいずれも達成していない。戦闘休止や人質解放を巡る間接交渉では、イスラエルもハマスも強硬姿勢を崩さず合意は難しい状況だ。イスラエルは米国の軍事支援に頼っており、米国が軍事支援を中止すれば、戦闘終結に至るだろう。
 ハマスは抵抗を続けるが、ロケット弾もほとんど発射しておらず、もう武器が残っていないのが現実だ。ハマス戦闘員はガザでの市街戦、特に接近戦という戦術を採らざるを得ない。この戦術ではハマスの方が有利で、イスラエル軍もその点を承知し、対抗するためには全てを破壊しなければならないと考えている。
 3月に地区最大の医療機関、北部ガザ市のシファ病院を再襲撃し破壊したが、イスラエル軍はガザの損害など気に掛けておらず、「ハマス壊滅」という目標だけを意識していることが浮き彫りになった。「焦土作戦」を展開しているとも言え、最も危険な形の戦闘になっている。
 避難民ら約120万人が密集するガザ最南部ラファへの地上侵攻に注目が集まるが、イスラエルでネタニヤフ政権が続く限り、侵攻は実施されるだろう。ラファに地上侵攻しないとなれば、それは戦闘終結を意味するためだ。一方、戦闘終結はイスラエル国内で辞任要求の高まるネタニヤフ首相が退陣せざるを得なくなる状況を作り出す。汚職裁判を抱え、退陣すれば、収監される可能性さえあるネタニヤフ氏にとっては避けたいはずだ。


サミール・ファラグ氏(共同)

 戦闘継続がネタニヤフ氏の個人的利益とつながっている。11月の米大統領選でトランプ前大統領が返り咲けば、かつて蜜月関係を築いただけに、風向きが変わると考えているのだろう。
 国際社会でのイスラエル批判は高まるが、ネタニヤフ氏は気にしておらず、唯一考慮に入れているのが米国の動向だ。(2024年4月4日取材)
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 1945年、エジプト北部ポートサイド生まれ。エジプト陸軍学校卒業後、軍将校や南部ルクソール県知事などを務めた。現在、アラブ首長国連邦(UAE)拠点の「グローバルセキュリティー防衛研究所」所属。

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