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知的障害があっても芸能人になれる? 「挑戦できる場つくりたい」専門事務所が相次ぎ登場

47NEWS / 2024年5月24日 10時0分

出演した映画の上映会で舞台あいさつする町田萌香さん=2月、東京都中野区

 「知的障害者が芸能人になるなんて無理」。そんな社会の常識や固定観念を変えようと、知的障害がある人向けの芸能事務所が近年、相次いで登場している。身体障害者の場合は見た目で分かりやすく、メッセージ性も持たせやすいが、知的障害者は外見では分からない人も多い。せりふを覚えたりコミュニケーションを取ったりする上で配慮も必要になるため、身体障害とは違った難しさがある。それでも挑戦しようという当事者と芸能事務所が出てきているのはなぜなのか。道は開けるだろうか。(共同通信=市川亨)

 ▽「世界で勝負できるモデルを育てたい」

 「すてきな共演者の方々と一緒にこの作品に出ることができ、とてもうれしかったです」
 今年2月、東京都内のホールで開かれた映画「わたしのかあさん―天使の詩―」の上映会。町田萌香さん(36)は主演の寺島しのぶさんらと舞台に立ち、そうあいさつした。


 この映画は、知的障害がある両親の下に生まれた子どもの視点で親子の愛情を描いた作品。エキストラなどで知的障害のある当事者約30人が出演した。
 町田さんもその1人。軽い知的障害があるが、181センチの長身を生かし、普段の仕事の傍らモデルや俳優として活動している。これまでに東京パラリンピックの開会式や舞台などに出演。「私を通して、分かりにくい障害のことを知ってもらえたら」と話す。


「グローバル・モデル・ソサイエティー」の高木真理子社長(左から2人目)と、町田萌香さん(左端)ら所属モデル=4月、東京都中央区

 町田さんが所属するのが障害者向けの事務所「グローバル・モデル・ソサイエティー」(東京)。元モデルの高木真理子さん(62)が「障害があっても、世界で勝負できるモデルを育てたい」と2022年に設立した。
 知的や身体に障害がある約20人が所属。月に1回開くオーディションには毎回10人前後の応募があり、希望者は多いという。


「グローバル・モデル・ソサイエティー」の所属モデル岩下絢音さん(左)と酒井萌さんを紹介する宣伝素材

 ウオーキングのレッスンなどを通じて知的障害者と10年以上付き合ってきた高木さん。障害児の親や世の中にこう言いたい。
 「彼女たちだって、教えればいろいろなことができるようになる。何をするにしても、最初から『できない』と可能性を狭めないでほしい。やる気や使命感を持つと、人は変わる」

 ▽障害を売りにするのは悪いこと?

 「彼らは『どう見られるか』を意識せずに演技ができる。初めて見たとき、心を揺さぶられた」


「知的障害がある人に演技指導できる人材や、必要な配慮をまとめた資料が必要だ」と話す「アヴニール」の田中康路社長=2月、東京都中野区

 そう話すのは障害者専門の芸能事務所「アヴニール」(東京)の社長、田中康路(やすゆき)さん(50)だ。
 田中さんは障害者のドラマ出演などに関わってきた経験を生かし、2017年に同社を設立。現在は知的障害を中心に約50人が所属しており、舞台の自主公演や芸能スクールの運営などに取り組む。
 「彼らの世界観を理解し、必要な点を配慮すれば、『これこそがエンターテインメントだ』というすごい演技ができる」と田中さん。「芸能界はその人の魅力を売り物にする世界。障害という特性を生かすのが悪いこととは思わない」と話す。
 所属タレントの1人、小籔伸也さん(29)は中学生のとき、学校に行くのがつらくなり、「毎日の出来事をドラマだと思うようにしていたら、気持ちが楽になった」。それが芝居に興味を持ったきっかけだ。


「アヴニール」の田中康路社長(右)と演技について話す小籔伸也さん=4月、東京都新宿区

 その後、軽度の知的障害と発達障害があることが判明。今はアルバイトをしながら、アヴニールで演技のレッスンやボイストレーニングなどに励む。学園ドラマに出演するのが目標で、「『諦めの悪い俳優』になりたい」と話す。

 ▽共演の役者たちに相乗効果

 一般の芸能事務所が手がける例もある。俳優の小西真奈美さんらが所属する「エレメンツ」(東京)は、社内のプロジェクトとして、ダウン症がある人の舞台出演やダンス活動を支援している。


「エレメンツ」に所属し、演劇への出演に向け稽古するダウン症のある丹下開登さん(左)=2023年10月(引地信彦氏撮影、パルコ提供)

 事業を始めたのは10年ほど前。「ダウン症の人たちが挑戦できる場があまりにも少ない。可能性を広げられる挑戦の場を作ろう」との思いからだった。
 2021年の東京パラリンピックやダイバーシティー(多様性)を重んじる社会の流れが追い風となり、テレビへの出演機会などはここ数年増えてきているという。
 取締役の馬場巧さん(48)はこう話す。「彼らは共演陣やスタッフに分け隔てなくハグしたりするので、現場全体で自然とコミュニケーションが生まれる。彼らの真剣な姿勢や成長する様子を見て、共演する役者たちが刺激を受ける相乗効果もある」


ダウン症のある所属タレントが出演した演劇「チョコレートドーナツ」のパンフレットを前に話す「エレメンツ」取締役の馬場巧さん=4月、東京都渋谷区

 ▽福祉や慈善活動ではない

 どの事務所も共通して話すのは「福祉や慈善でやっているわけではない」ということだ。所属タレントの起用には出演料を求める。ただ、事業の採算という点ではいずれも苦労しており、芸能活動だけで生計を立てている人はいない。
 制作サイドには「どう接すればいいのか分からない」という戸惑いがあり、視聴者の中には障害者を「かわいそう」と見る人もいる。企業は「『障害者をお金もうけに使っている』と批判されそう」と“炎上”リスクを恐れて、起用に二の足を踏むケースが多いという。
 各事務所はファッションショーの開催や、所属タレントのCM出演などを模索しているが、活躍の場が広がるかどうかは社会のさらなる意識変化にかかっているといえそうだ。

 ▽取材後記

 私自身、知的障害のある子どもがいて、メディアに身を置く人間として、知的障害者を起用する難しさはよく分かる。
 伝えたいメッセージを限られた時間やスペースでいかに伝えるか。障害者が登場することに意味を持たせたいなら、車いすの人など身体障害者の方が分かりやすい。映像メディアなら、なおさらだ。
 それでも「知的障害があっても、いろいろな可能性があるということを伝えたい」という各事務所の話には共感し、励まされた。もちろん、健常者だって「芸能人になりたい」と思ったからといって、芸能人になれるわけではない。ただ、少なくとも挑戦できる機会は障害の有無に関係なく与えられてほしい。

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