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「壊すものを造って、批判を浴びとる。万博は、もっと夢があるもんやと思ってた」工事業者が語った「士気の上がらない現場」 リングやパビリオン建設の下請け経営者や作業員の本音

47NEWS / 2024年5月29日 11時0分

木造巨大屋根「リング」などの整備が進む大阪・関西万博会場予定地で、行き来するダンプカーなどの大型車両=2024年4月12日、大阪市

 「完成後も、みんなに使われる橋や建物と違って、壊すものを造っとる。しかもそれが批判を浴びとる。やる気は上がらへんよね。税金の無駄遣いと思いながら、それで飯を食っていて、複雑な心境ですわ」
 来年4月13日の開幕まで1年を切った2025年大阪・関西万博。象徴とされる木造の巨大環状屋根「リング」を建設する下請け企業の男性経営者が、取材に語った。
 「張りぼてのまま開幕するんやろか」。大型トラックが次々と行き来し、重機が音を立てる夢洲(ゆめしま)の万博会場建設地や事務所で、建設会社の担当者や作業員らに話を聞いて回った。国策の現場で明らかになったのは、工事関係者でさえ魅力を感じていない現実だった。(共同通信=小島鷹之、武田惇志、岡田学時)

 ▽つぶすもん


開幕1年前となった2025年大阪・関西万博会場。象徴となる木造巨大屋根「リング」はほぼ輪の形になったが、海外パビリオンの予定地の多くでは、むき出しの地面が目立つ=2024年4月13日、大阪市の夢洲(共同通信社ヘリから)

 関西地方にあるリング工事の下請け会社を経営する40代男性の今宮さん(仮名)は開口一番、ため息交じりに語った。
 「結局、つぶすもんやないですか」
 取引のある大手企業からの依頼で、下請けとして工事に参加している。


取材に応じる今宮さん(仮名)=3月6日午後、大阪府内

 日本国際博覧会協会(万博協会)は、約350億円を投じてリングを建設するが、閉幕後に現地から撤去する可能性がある。「世界一高い日傘」と揶揄(やゆ)する声や、無駄遣いとの批判が上がっている。

 ▽日当1万円→1万8千円

 新型コロナウイルスの流行・収束と、ウクライナ戦争を機に、資材価格は上昇。国内の働き手不足から、賃金も高騰している。
万博の会場整備費は当初試算の1250億円から2倍近くに膨れあがる可能性もある。
 今宮さんが人集めの実情を明かす。
 「日雇い労働者が集う大阪・西成で、万博工事以外で作業員を集めようとすれば、数年前までは日当1万円やった。今は1万8千円。こんな状況やから、わざわざ予算の限られた万博に職人さんが来うへんし、そもそも職人さん自体が減って、おらん状況や」

 ▽プレハブ

 今宮さんによると、リングは当初、昨年4月に着工予定だった。だが、元請けの大手ゼネコンが改めて建設費用を見積もると、建設資材と人件費の高騰で、想定予算を大幅に超えることが判明。着工は結局、昨年6月にずれ込んだという。


報道陣に公開された大阪・関西万博の木造巨大屋根「リング」=2024年4月8日、大阪市の夢洲

 リングの工事は順調に進んでおり、夏には完成しそうだ。それに伴い、新たな懸念が生まれている。リングの内側に建設するパビリオンの工事の進み具合が低調で、リングが先に完成してしまうと、中に建設用の重機や資材を入れられない事態に陥る可能性がある。
 今宮さんは、複数の工事関係者に「どないすんですか」と尋ねた。「なんとかする」「分からない」との答えだったという。
 「パビリオン建設のために重機を入れられへんと、工法はプレハブみたいな簡素なものに限られるはずやろ。誰が入場料数千円も払ってプレハブのパビリオンを見に来るんやろか」


日本ガス協会が万博に出展する「ガスパビリオン おばけワンダーランド」の建設現場=2024年4月16日、大阪市の夢洲

 ▽海外パビリオン

 パビリオン建設も、リング同様に士気は低調だ。ある海外パビリオンの建設を設計事務所から請け負った中部地方の建設会社は、関西での仕事も国家規模の仕事も、これまで経験がない。「良いものを造って名をはせたい」と、大阪に拠点を設け、工事を進めている。
 会社の担当者は、万博工事を機に全国展開したいと野望を語るが「人員を割いて大阪に来ており、万博の工事が終わったら、地元のお客さんが離れているかもしれない」と不安も口にする。
 リングは既に円になっていて、パビリオン工事は苦戦している。


木造巨大屋根「リング」などの整備が進む大阪・関西万博の会場周辺を行き来するダンプカー=2024年4月13日、大阪市

 「ゼネコンさんには、リングの組み立てをもう少し計画的にやってほしかった。こっちが遅れていて、リングが計画通りなのかもしれませんが。中のものを造っている人の気持ちも考えてほしい」

 ▽作業員の声


建設中の大阪メトロ夢洲駅

 会場近くまで延伸し、新設されるのが大阪メトロ夢洲駅だ。駅の建設に携わる40代男性作業員は「急いでる感じがしない。開幕直前に突貫工事になると思う」と不安顔。


夢洲駅ターミナルのイメージ(大阪メトロ提供)

 夢洲で道路や橋を造る50代男性は「今は土日は休めているが、このペースで今後休みが取れるのか」と遅れを心配した。

 ▽「万博よりも、熊本と種子島やね」

 再び今宮さんに話を戻す。今宮さんは、活気に欠ける万博工事とは対照的に、建設ラッシュに沸く地域が他にあると指摘する。
 鹿児島県西之表市の馬毛島で建設が進む自衛隊基地計画に伴い、住宅需要が急増する種子島や、半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が工場建設を進める熊本などがそうだ。
 会社の利益を考えれば、そちらに人員を割いた方が良いと指摘する。予算が頭打ちの万博は、他の大規模案件と比較しても、建設業者にとって利益が薄く「うまみがない」という。
 労働者は全国で奪い合いになっているが、万博に引き寄せられる企業は少ないのが現実だ。
 「造った物が後世にも残るなら、宣伝にもなるやろ。せやったら赤字覚悟で引き受ける企業もあってもおかしくないんやけど、地元からはそういう声は聞こえへんね」


パビリオンの起工式に参加したイアン・マッケイ駐日カナダ大使(左から2人目)ら=2024年3月21日、大阪市の夢洲

 
 ▽もうちょっと夢があるもんやと


2025年大阪・関西万博の会場となる大阪市の夢洲(上から22年2月、23年7月、24年4月13日)。開幕まであと1年。更地から整備が進み、会場を囲む木造巨大屋根「リング」は8割方組み上がりほぼ輪の形になった(共同通信社ヘリから)

 そんな今宮さんだが、1970年の大阪万博には、憧れを隠さない。事務所には当時のシンボル「太陽の塔」の模型を飾っているほどだ。本音では、仕事で万博に関わることに喜びを感じている。
 取材班は最後に尋ねた。来年の開幕日までに、建設工事は間に合うのか。
 「中止はないんちゃいますか。工事が間に合わなくても、張りぼてのまま開幕させるんやないか」。そして、ちょっと考えてから口を開いた。
 「万博は、もうちょっと夢があるもんやと思ってた。でも、『子どもを連れて行きたい』って人が、工事の関係者内には現状、誰もおらんのがこの万博の現実を示しとるような気がするんですよ」

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