「相談しにくかったこと話しやすく」疎外感を抱く当事者らメタバース空間で交流 希少がんの患者やLGBTQの若者に「居場所」、岡山大がプロジェクト
47NEWS / 2024年5月26日 11時0分
希少がんと闘う若者や子どもたちの孤独を防ごうと、インターネット上の仮想空間「メタバース」を利用した交流が広がっている。遠く離れた地域に住む患者同士でも、メタバース上の「部屋」に、自分の分身となる「アバター」として集い、ゲームを楽しんだり、好きなマンガの話をしたり。入院生活の癒やしの時間になっているようだ。岡山大の長谷井嬢准教授(整形外科)が2023年夏に始めたプロジェクトで、全国各地の10カ所以上の医療機関が連携して進めている。LGBTQ(性的少数者)の若者たちを対象とした新たな居場所作りも始まった。(共同通信=小川美沙)
メタバース空間の「海のいえ」=長谷井嬢准教授提供
▽長期入院中でも…メタバースの砂浜を駆け回っておしゃべり
青い空の下に広がる海。砂浜を駆け回った後は、「海のいえ」で手に入れたイカ焼きをほおばりながら、座り込んでおしゃべりを楽しむ―。
ある日のメタバース空間は、「夏」を感じさせる設定だった。長い入院を余儀なくされている患者に、少しでも「自然」に触れてほしいと工夫した。全国から参加した患者たちは、思い思いの髪形や服装をしたアバターで参加する。
骨にできる悪性骨腫瘍など「希少がん」は、子どもや思春期・若年成人(Adolescent and Young Adult=AYA)世代に多く発症する。患者数も、交流の場も少なく、お互いの悩みを話し合い、情報交換できる場はずっと必要とされてきた。長谷井准教授はなかなか病室の外に出られない患者が、アバターとして匿名で参加できることで、周囲には相談しにくかったことも話しやすくなるとみている。
取材に応じる吉田勇人さん(仮名)=2024年3月中旬、岡山大病院
▽「ガムをかむと楽に」同じ病気の子からアドバイス
利用した若者はどう感じているのだろうか。希少がんを患い、岡山大病院に入院している吉田勇人さん(19)=仮名=は3月上旬、「もっといろんな人とつながって話をしたい」と語る。
この日の取材の直前も、愛知県の病院に入院しているAYA世代の患者と、メタバースの「居場所」で40分ほど過ごしたばかり。相手のことは詳しくは知らないが、オセロをしたり、学校の修学旅行で行った場所のことや、一時退院したら何をしたいかなど、おしゃべりをしたりして楽しんだ。「僕は焼き肉を食べに行きたいと言ったけど、相手はまだ決めてない、って」
入院して数カ月、ふだんはあまり人と話すことはなく、漫画を読むなどして過ごしている。これまで4回、メタバースを経験。出会った当事者からは、病気と闘う上でのアドバイスをもらうこともあった。最初に出会った同じ病気の子からは、薬のにおいが鼻についた時は、ガムをかむと楽になると教わり、「参考にしてみようかなと思ってる」。
長谷井准教授は、通常の環境だと出会えない患者同士がメタバースで出会い、心を通わせることができれば、治療が終わった後も「生涯の友達になり得る」と期待する。メタバースで知り合った人に「(実際に)会うことを目標に頑張る」と話した患者もいたという。
各地の病院と連携した「居場所」は月数回開催しており、小学生~20代の入院中や通院中の患者のほか、医療従事者も参加している。
メタバース空間「バーチャルにじーず」の様子=にじーず提供
▽LGBTQの若者の孤立防止にも
2023年秋には、メタバースを使った新たな交流プロジェクトも始まった。長谷井准教授は、LGBTQ(性的少数者)の若者たちの孤立防止にも役立ててほしいと願い、当事者や、そうかもしれないと感じている子ども・若者のための居場所づくりを全国各地で行っている一般社団法人「にじーず」に活用を提案。にじーずのメタバースづくりに協力した。
LGBTQユースの抱える孤独や不安は深刻だ。認定NPO法人ReBitがインターネットで行った「LGBTQ子ども・若者調査2022」によると、10代のLGBTQの29・4%は「しばしば・常に」孤独感があると回答。過去1年に自殺を考えたと答えたのは48・1%に上っていた。
にじーず代表の遠藤まめたさんは「当事者、そうかもしれないと悩んでいる子たちが、自分のことを安心して話せる場は多くはない」と話す。
メタバース空間「バーチャルにじーず」の様子=にじーず提供
▽「人と会っているような温かみがあった」
にじーずは全国9都府県(宮城、埼玉、新潟、東京、長野、京都、大阪、兵庫、岡山)で居場所事業を進めている。居場所にリアル参加できた子どもたちからは「自分だけではないと感じた」などの声が寄せられていたが、来られない子もいることが課題だった。
2024年1月、メタバースを利用し、13~23歳を対象とした匿名交流会「バーチャルにじーず」を開始。第1回には5人ほどが「アバター」として参加。ソファのほか、ダーツなどゲームも用意された「部屋」で、約1時間半を過ごしたという。
本格始動前の試験運用の際には、参加者から「人と会っているような温かみがあって、楽しかった」という声のほか、トランスジェンダーの当事者から「ここなら女性の格好ができる」との感想が寄せられたという。
岡山大の長谷井嬢准教授=本人提供
▽疎外感を抱いていた当事者が「地域を越えてつながれる」
バーチャルにじーずは、月1回開催。遠藤さんは「スマホやパソコンを使って全国どこからでも参加でき、好きな格好で、自由に過ごせる」と話す。初参加の人にはスタッフが事前に年齢確認などを行う。にじーずホームページから申し込める。次回は6月19日午後8時から開催予定だ。
長谷井准教授は今後も、メタバースを使った患者同士の交流プロジェクトを続け、各地の医療機関に広げていきたいという。「疎外感を抱き、思いを共有できる人がいないと悩んでいた当事者が、地域を超えてつながれる」としている。
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