対ウクライナ過去最大支援でもなおロシア軍予算に届かず 米議会、迷走の末承認の緊急予算、長期的支援模索の動きも
47NEWS / 2024年6月5日 10時0分
米議会が半年間の迷走の末、ロシアの侵攻を受けるウクライナを支援する約608億ドル(約9兆5千億円)の緊急予算案を可決、バイデン大統領が4月24日に署名して成立した。ウクライナが苦戦する東部戦線での局面打開が期待される一方、長期的にはさらなる支援が不可避との指摘が早くも上がっている。(共同通信=太田清)
▽渇望
昨年10月にホワイトハウスが緊急予算を議会に求めたが、トランプ前大統領に近い共和党保守強硬派の一部議員が、不法移民対策でメキシコとの国境警備の強化を優先させるべきだと主張。議会審議は迷走し、昨年末に予算はほぼ底をついていた。ウクライナ軍は弾薬が枯渇し、兵員・弾薬数で勝るロシアに対し劣勢に立っていた。
予算案成立を受け、米国防総省は4月24日、第1弾として10億ドルの追加軍事支援を発表した。
4月24日、ウクライナ支援緊急予算案成立後に記者会見する米国のバイデン大統領(ゲッティ=共同)
法案成立により、米国はウクライナの防空強化に向け、地対空ミサイルシステム「パトリオット」用のミサイルや高性能地対空ミサイルシステム「NASAMS」用弾薬のほか、携帯型の対戦車ミサイル「ジャベリン」、地対空ミサイル「スティンガー」、155ミリ砲弾などを供与する。いずれも前線のウクライナ軍や、ロシアのミサイルなどの攻撃を受けるウクライナの住民らが到着を渇望していた兵器類だ。
▽巨額支援
外交問題を扱う米国の超党派シンクタンク「外交問題評議会」によると、ロシアのウクライナ侵攻以来、米議会が可決したウクライナ支援関連予算法案は計5法案、金額では計約1750億ドル(約27兆3千億円)に上り、支援金額の国別では米国がトップ、2位はドイツ、3位は英国。今回の608億ドルが、米国の過去の支援のうち最大だ。
1750億ドルすべてが直接ウクライナ政府に支払われたわけではなく、同政府への支出は1007億ドル。残りは供与兵器を製造した米国企業や関連組織などに支払われた。
▽軍事支援は半分
ロシアの無人機攻撃を受けた工場の消火作業。1月30日に画像が公開された=ウクライナ・キーウ州(ウクライナ国家警察提供・ロイター=共同)
ラトビアを拠点とする独立系ニュースサイト「ザ・インサイダー」によると、今回成立した608億ドル支援のうち、直接の軍事支援は対外有償軍事援助など約271億ドル、ウクライナへの信用供与を含めても351億ドルと、全体の半分程度だ。既に供与済みの兵器類に対する補塡などに充てられる134億ドルはここに含んでいない。残りは、巨額の財政赤字により危機的な状況にあるウクライナ国家財政への支援や避難民支援に充てられる。
さらに、軍事支援のうち、戦場での現在の戦いに資する中短期的支出は緊急時の大統領在庫引き出し権に基づく117億ドルに過ぎない。
ザ・インサイダーは2024年のウクライナの国防支出について、すべて同年中に執行されるものではないものの米国からの今回の支援に加え、ウクライナ自身の国防予算約1兆2000億フリブナ(約4兆7千億円)、欧州などそのほかの支援すべてを合わせて計約1000億ドル(約15兆6千億円)になると概算した。
一方、ロシア議会が可決した24年予算案によると、同年の国防予算は10兆8000億ルーブル(約18兆6千億円)。前年比で7割近く増え予算支出全体の3割近くを占める「有事予算」だ。米国の巨額支援を受けたウクライナの国防支出をなお上回っている。なおロシアの国防予算には、使途が不透明な「国家安全保障と法執行」にかかる予算は含まれていない。
世界の紛争・兵力・軍備管理などについて分析研究しているスウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、23年時点のウクライナの軍事支出はロシアの59%だったが、欧米からの軍事支援を含めると、総計で91%にまで迫っていた。
国防費についてはもちろん、金額だけではなく、その使途や調達する兵器の性能なども鍵を握ることはもちろんだが、ザ・インサイダーはロシア国内の安価な人件費、資材、燃料などを利用できる同国軍は、欧米から兵器・資材を調達せざるを得ないウクライナよりもコスト面で有利に立っていると指摘した。
4月29日、キーウ(キエフ)での共同記者会見後に握手する北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長(左)とウクライナのゼレンスキー大統領(ゲッティ=共同)
長期的にウクライナを軍事面で支えようとの動きもある。
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は4月29日、キーウ(キエフ)でのウクライナのゼレンスキー大統領との会談で、同国への長期的支援のために5年間で1000憶ユーロ(約17兆円)の基金を設立する構想について協議した。
7月のNATO首脳会議での合意を目指しているともされるが、加盟国間で負担割合などを巡って議論が難航する可能性もある。また米大統領選挙が11月に迫る中、最大の支援国である米国の政治情勢が不透明さを増していることも、合意形成に向けての不安材料だ。
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