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「音楽を助けてください。次世代が危ない」亀田誠治さんの懸念と挑戦 文化を創る「新しい循環」目指す日比谷音楽祭

47NEWS / 2024年6月8日 10時0分

緑の多い東京都心の日比谷公園で開かれる日比谷音楽祭=2023年6月、東京都千代田区

 

「音楽を助けてください。特に若いミュージシャン、次世代が危ない」―。「いきものがかり」やGLAY、椎名林檎さん、平井堅さん、JUJUさんらのヒット曲を多数手がける音楽プロデューサー、亀田誠治さんが日本の音楽を巡る現状に懸念を強めている。


6月8、9の両日、東京都心の日比谷公園を拠点に開かれる「日比谷音楽祭」で、実行委員長を務める亀田誠治さん

 特定の人気アーティストや大きな利益が見込める作品にお金が注がれ、そうでないミュージシャンらは楽曲の制作費が削られるケースが音楽業界で目立つと言う。「生演奏の達人たちが実際に共演して、おもしろい音楽表現を生み出すチャンスを失ってきている」と指摘する。
 「音楽文化の危機」をなんとかしようと6月8、9の両日、東京都心の日比谷公園を拠点に開かれる〝無料フェス〟「日比谷音楽祭」で、実行委員長を務める亀田さん。「みんなで社会を支え、楽しみ、生きがいや幸福を感じたいという人々の思いを実現する場」を目指すと語る。(共同通信=小池真一)

 ▽紅白・アリーナクラスが結集


アーティストと観客の距離が近いライブ公演も開かれる日比谷音楽祭=2023年6月、東京都千代田区

 【初夏恒例の日比谷音楽祭は今年、シンガー・ソングライターの小田和正さん、バンド「スピッツ」、ピアニストのハラミちゃんら50組以上が出演する】


小田和正さん

 ―ライブ会場は入場無料、オンライン視聴も無料です。それなのにこれだけの人気アーティストが出演します。
 亀田誠治さん 日比谷音楽祭の大きな特徴として、誰もが認めるようなトップミュージシャンが出演します。ヒット曲を世に送り出し、さまざまな人生を幸福に彩ってきた楽曲をずっと歌い続けておられます。(NHK紅白歌合戦に出演し、規模の大きなアリーナの会場に観客を動員するような)「紅白・アリーナクラス」の皆さんが、日比谷音楽祭の意義に賛同し、出演を快諾してくださいました。

 ▽「やめた方がいい」と忠告されて

 【佐野元春さんらポップスの大御所やジャズクラリネット奏者の北村英治さん、ミュージカル俳優の石丸幹二さん、東京スカパラダイスオーケストラなどが出演予定だ】


佐野元春さん

 ―ジャンルも世代も多彩な顔ぶれです。
 亀田さん 出演者の人選をどれだけ幅広くできるか、がとても大切です。有名アーティストがもたらす安心感、夢、「時代」を動かす力は絶大です。そうした音楽が、会場で、あるいはオンラインで、無料で届けられる。2019年の第1回以来、5年かけて毎回、丁寧に日比谷音楽祭の方針を説き、何をやろうとしているのか、そのメッセージを発信してきました。人々の心に浸透し、広がってきたと実感しています。
 ―無料の方針はぶれませんね。
 亀田さん 2019年にスタートする際、「協賛と寄付だけで無料開催するなんて、絶対に無理。やめた方がいい」と多くの関係者から助言されました。でも、お金の新しい循環の仕組みを、日本の音楽業界に文化として定着させることが重要です。無料を実現させるため国や東京都の助成、企業協賛、そして個人の寄付のお願いに奔走してきました。


東京スカパラダイスオーケストラ

 ▽なぜトップミュージシャンが?


スピッツ

 ―コンサートの入場料を含め、あらゆるモノの値段が高くなっている時代に、あえて無料にしなければいけない理由は何ですか?
 亀田さん 日比谷公園大音楽堂(野音)の一つのステージに、紅白・アリーナクラスのトップミュージシャンたちがいっしょに上がるのはとても貴重な機会です。それは、無料開催で社会と音楽文化に貢献しようという日比谷音楽祭の私利私欲のなさ、「清廉(せいれん)性」が受け入れられたから、というのも大きいと思います。「無料でがんばっているのだから力を貸そう」と集まり、すばらしい音楽を創造してくださいます。
 【2019年には演歌の石川さゆりさんとギタリストの布袋寅泰さんが名曲「天城越え」を歌い、演奏した。2023年には、バンド「Mr.Children」のボーカル桜井和寿さんが自作した曲「雨が止んだら」を、ミュージカル俳優の井上芳雄さんらと合唱した】
 ―ジャンルの壁を取り払った共演が話題となりました。日比谷音楽祭ならではですね。
 亀田さん 回を重ね、音楽祭として定着するなかで、「そろそろチケットを売って、お金もうけをしたらどうか」と関係者に言われることもあります。でも、当初から目的はお金もうけではない。多くの人々の気持ちを頼りにこれまでになかった音楽文化を創造しようというのが、日比谷音楽祭のエンジンであり理念です。これは全く変わりません。

 ▽社会や文化を豊かにする循環


ハラミちゃん

 ―音楽の実験の場でもあるのですか?
 亀田さん 日本の音楽業界で今、楽曲の制作費が削られる傾向にあります。特定の人気アーティストや大きな利益が見込める作品にお金が注がれがちです。さらに近年は、ミュージシャンがわざわざ合奏しなくても、コンピューターで簡単に安価にそれなりの音楽を作れるとされ、生演奏の達人たちが実際に共演しておもしろい音楽表現を生み出すチャンスを失ってきている。特に若いミュージシャン、次世代が危ない。「音楽を助けてください」との思いで日比谷音楽祭は開催しています。
 ―どうすれば助けられますか。
 亀田さん アメリカのニューヨークで毎年夏に開かれる入場無料の音楽フェスティバル「サマーステージ」は、寄付金と協賛金で必要な費用が賄われています。こうした社会や文化を豊かにするためにみんながお金を投じて循環させていく助け合い、「互酬」の仕組みを、日本の音楽の中で率先して取り入れていけるのではないかと始めたのが、日比谷音楽祭です。


北村英治さん

 ―そうした〝音楽による実験〟に集う入場者とオンライン視聴者は昨年、全国で延べ26万人を超えました。
 亀田さん ミュージシャンを応援し、心を豊かにする音楽を創造し、そうした文化をたくさんの人に届けるのが日比谷音楽祭の目標です。音楽の関係人口を1人でも増やしたい。1人の力は限られていても、実に多くの人が参加し、連帯してくださる。これほど多くの人生の中に届く音楽フェスティバルは、日本で他に類例がないくらいに大きく育っています。

 ▽1人でも多く、音楽で心を潤して

 ―ライブ映像をオンラインで無料視聴した人たちの寄付が増えているようです。
 亀田さん 映像のオンライン配信は手間もお金も相当要ります。「音楽は演奏会場で楽しむのが本当。コロナ禍も落ち着きを見せているし、オンライン配信はやめたらどうか」という声もたくさん寄せられました。
 でも、全国の視聴者や寄付者も年々増えています。日比谷音楽祭は東京だけでなく、全国津々浦々に多彩な音楽を鳴り響かせたい。日比谷音楽祭でしかあり得ない音楽の感動体験を、ぼくらはしっかり届けていきます。1人でも多くの人に音楽の感動体験を味わってもらって、心が潤ってほしいんです。


日本の野外コンサートの歴史をつくり、2023年に開設100周年を迎えた日比谷公園大音楽堂(野音)などで開かれる日比谷音楽祭=2023年6月、東京都千代田区

 ―日比谷音楽祭は社会にどんな影響を与えていますか?
 亀田さん 社会は今、音楽文化の危機だけでなくさまざまな課題を抱えています。多様性の実現、地球温暖化も解決を急がなければならない問題です。それこそみんなが連帯し、みんなで力を注がなければ全てが台無しになりかねない。
 人々の社会貢献に対する意識、寄付についての考え方が大きく変わってきている気がします。クラウドファンディングのような仕組みが深く根付きつつあります。みんなで社会を支え、楽しみ、生きがいや幸福を感じたいという人々の思いを実現する場として、日比谷音楽祭はこれからも成長を続けたいと思っています。

   ×   ×
 日比谷音楽祭はクラウドファンディングで寄付を受け付けている。ライブ映像をオンラインで無料視聴する方法など、詳細は音楽祭のホームページで。

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