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クルド人、なぜ解体の仕事に就いている?肉体労働を支える「クルド飯」を食べながら聞いてみた。始まりは30年前の川口に

47NEWS / 2024年6月7日 10時0分

解体業の外国人向けに早朝から営業している店舗

 中東に広く居住するクルド人は、「国を持たない最大の民族」と呼ばれる。その地域はイラン、イラク、シリア、トルコと広い。トルコでは、長年クルド人に対する同化政策が続く。弾圧を逃れようと、日本に逃れる人々が増え始めたのは約30年前だ。


クルド人の主な居住地域

 日本ではそのころから埼玉県川口市周辺に住み着く人が多い。日本で難民認定を申請するが、認められるケースはほとんどない。在留資格のない仮放免となった場合、本来就労は禁じられているが、生きていくためには働かざるを得ない。
 彼らの大半がなりわいにしているのが建物の解体業だ。クルド人はどのように日本社会で暮らし、地域に根付いてきたのか。解体業で働く人々を食で支え、日本社会との交流窓口にもなっている料理店を通じ、在日クルド人の歴史や思いを探った。(共同通信=赤坂知美)

▽パイオニアのクルド人に「そもそも」を聞く

 埼玉県越谷市の住宅や田んぼが広がる中に、クルド料理店の「SKY CAFE & RESTAURANT」がある。30年以上日本に住むというマムトさん(49)=仮名=と待ち合わせた。マムトさんが故郷のトルコから来日したのは、日本への渡航者が増え始めた時期。当時を知る数少ない人物といえる。
 仕事は解体業。ほぼ毎日、仕事終わりにはこの店で夕食を食べて帰宅する。店主はマムトさんと同じ村の出身という。
 店のオススメはひき肉やソーセージの手作りピザ。トルコのピザは丸でなく、目のような細長い形が特徴。食べると、焼けたチーズの香ばしさと肉汁が口にあふれる。


マムトさんが通う「SKY CAFE & RESTAURANT」のピザ

 マムトさんはまず、トルコでクルド人が置かれている状況を口にした。「トルコでは、私たちはクルド人になれない。クルドの誇りを捨てないと生きていけなかった」。重い口調で、自身の来日前のことを語った。
 マムトさんの出身はトルコ南東部のクルド人の多い地域。学校ではクルド語を話しただけで先生に叱られ、同級生からは白い目で見られた。恥ずかしさから、クルド語しかわからない母に対してもトルコ語を使うようになった。
 暴力も受けた。15歳のころ、クルド人が新年を祝う祭り「ネウロズ」に参加した。突然、警察に腕をつかまれワゴン車に連れ込まれた。車の中で何度も殴られた。「どうして殴るんだ」。理由を尋ねると警察は答えた。「ネウロズを祝ったから、おまえはクルド人でテロリストだ」

▽30年前、日本にいたクルド人は数人だった

 17歳の頃、徴兵が決まった。クルド人の居住地域に派遣され治安維持などの名目で同胞に銃を向けることを避けるため、国を出ることにした。
 当初希望したヨーロッパでは入国が許されず、日本を選ばざるを得なかった。当時日本にいたクルド人は4、5人。日本にいる親戚から、到着したら川口市に近いJR蕨駅に向かうよう勧められた。理由の一つは東京よりも物価が安いこと。もう一つは、言語の似たイラン人が多く住んでいたから。生活に関する情報を得やすかった。
 持参した生活費は半年で尽きた。洋服のアイロンがけや本棚の部品製造など仕事を転々とした。当時は解体業もその一つに過ぎなかった。
 マムトさんの後からも、弾圧の激化でクルド人が続々と来日した。彼らに解体業を紹介するうち、徐々に仕事として広まっていったようだ。現在、日本で暮らすクルド人のほとんどが建物の解体業で生計を立てる。
 マムトさん自身は、6回目の難民申請中で、在留資格がない仮放免状態。生活の基盤は完全に日本にある。一番ほしいのは日本に定住できるビザだといい、「平和な国で暮らしたい。ただそれだけ」と訴える。


インタビューに答えるマムトさん

▽「日本人が嫌がる仕事だから」

 解体業で働く人々が多い理由を他のクルド人にも聞いてみた。埼玉県川口市で、解体会社経営の傍ら、レストラン「アゼル」を営むハサンさん(38)=仮名=。店に足を運んだ。
 ハサンさんは約20年前に来日した。きっかけは日本の映画やアニメ。先に日本に来ていた兄も誘ってくれた。解体業で働きながら、10年前に独立。1年半前からはレストランの経営も始めた。
 店の一押しはケバブの盛り合わせ。本場の味を提供するため、ラム肉はトルコから輸入している。スパイスの香りが食欲をそそり、ボリューム満点だ。


「アゼル」名物のケバブ盛り合わせ

 解体業を担うクルド人が多い理由を聞くと、こう語った。「日本人がやりたがらないことを俺たちがやっている」
 解体業は、月~土曜日の週6日、8~17時ごろまでの肉体労働だ。現場が遠いと移動に時間がかかる。ハサンさんは、こうした過酷な環境での労働を日本の若者たちが避け、慢性的に人手不足になっていると指摘する。「首都近郊の建物解体のうち、7割は外国人労働者が担っているんじゃないか」

▽急増するヘイト。「初めてトルコに帰りたくなった」

 長く日本に住むハサンさんだが「最近、初めてトルコに帰りたいと思うことがあった」という。きっかけは、昨年以降、クルド人を取り巻く環境が一変したことだ。
 昨夏にクルド人男性による殺人未遂事件が発生。男女トラブルが原因で7人のクルド人が逮捕された。搬送先の病院に親族とみられる約100人が集まる騒ぎもあった。SNS上にはクルド人を標的に攻撃する投稿が急増した。
 ハサンさんのレストランにも影響があった。突然「ユーチューバー」が店に押しかけてきた。店の前の路上駐車を指摘し、「日本から出ていけ」などと怒鳴られた。対応した従業員と口論になる動画が拡散された。
 ハサンさんは「確かにこちらにも悪いところがあった」と明かす。仕事帰りに訪れる客が増え、路上駐車があったのも事実だ。今は駐車場に車を止めるように促し、周辺住民との摩擦を減らそうと努力しているという。
 ただ、罵声を浴びせられた事へのショックは大きい。「ガイジンならば何をしてもいいのか。俺たちにも心がある」。そう訴えた。


「アゼル」にはユーチューバーも押しかけた

▽国籍、見た目にとらわれず交流を


ケバブを切るタシさん

 ヘイトの高まりに悩みながら、地域との関係構築を模索しているクルド人も多い。JR蕨駅や西川口駅前など複数の系列店がある「ハッピーケバブ」を経営するタシ・テイフィキさん(33)もその一人だ。
 川口市郊外の、資材置き場が集まる地区の支店は午前5時から営業している。解体業の現場に向かう仲間に故郷の味を振る舞うためだ。店には、クルド人や地域の日本人以外にも多様な国籍の人が訪れ、本格的なトルコ南東部の料理に舌鼓を打つ。
 タシさんはトルコ政府の弾圧を逃れて日本に渡った父親を頼り、13歳で来日。20代前半でイベントに出した店が人気となり、「ハッピーケバブ」を開いた。
 タシさんの店もヘイトの標的にされた。「中東に帰れ」「ゴミくず」。数カ月前から、店には100件以上誹謗中傷する電話があった。一時予約を受付できなくなった。2月には、店の前をクルド人排斥を訴えるデモが通った。


資材置き場の集まる地域にある「ハッピーケバブ」

 それでも店を続ける。地域の人々にクルド人を知ってもらい、交流できる場所が必要と考えるからだ。「私たちは同じ人間。怖がることなく、クルド人の食べ物、文化、歴史、なんでも聞いてほしい」

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