「世界一過酷な400メートル」ジャンプ台逆走レースに、100キロマラソン経験者が挑んでみた 〝四つんばい〟で感じた絶望と、連覇達成者が語る魅力
47NEWS / 2024年6月17日 10時0分
札幌市中央区の大倉山ジャンプ競技場で5月、ラージヒルジャンプ台を逆走する「Red Bull 400(レッドブルフォーハンドレッド)」が開催された。最大斜度は37度で「世界一過酷な400メートル」をうたい、今回で7回目となった大会には男女合わせて過去最多となる1644人が参加した。記者(42歳男性)もその一人で、断崖絶壁をよじ登るも同然で想像を絶する苦しさだった。
女子と男子の優勝者はそれぞれ、2連覇と4連覇を達成。これだけつらいレースに毎年挑みたくなるのはなぜなのか、魅力を語ってもらった。(共同通信=松本はな、佐々木一範)
▽標高差130メートル、制限時間は15分
レースに挑む参加者
コースは400メートルのうち、最初の100メートルほどは緩やかな下り坂。実質的に300メートルで、標高差130メートルを登ることになる。札幌市の観光名所の一つ、さっぽろテレビ塔は全長が約147メートル、展望台の高さは約90メートルだ。
レース案内(レッドブル・ジャパン提供)
個人戦のシングルと4人1組のリレー種目があり、シングルでは1組60人ほどによる予選の後、男女それぞれ上位30人が決勝に進出する。
斜度が37度となるのはスタートから200メートル付近。主催者によると富士山の山頂部の傾斜は32~35度だという。この急勾配を、制限時間の15分間以内に駆け上がらなければならない。
▽胸に付けたカメラに写っていたのは、地面、地面、地面
レースに挑む参加者
記者(佐々木)はランニングが趣味で、100キロの「ウルトラマラソン」も2回完走した経験がある。「過酷とは言っても、400メートル。何とかなるだろう」。そんな甘い考えは、すぐに打ち砕かれることになる。
最初の下りで助走を付けるが、上りに入ると一気にスピードダウンした。前半、足元は芝で滑りやすく、その上に格子状に敷かれた縄に足をかける必要があった。
しかし何よりの問題は急角度だ。数十メートル進むと、たまらず四つんばいの姿勢になった。「えっ、もうこんなにきついのか」。序盤からこんな調子では最後まで辿り着けないのではないかと、絶望にも似た気分になった。胸に小型カメラを付けていたが、この辺りから収められていたのは地面と、自分の荒い呼吸音だけだった。
四つんばいで急坂を上る参加者
スキージャンプ競技で選手が踏み切る「飛び出し」の手前で勾配はやや緩やかになり、手を離して歩くことができた。呼吸を整えたいが制限時間が気になり、気力を振り絞って足を動かした。滑走エリアでは、足元には木製の足場が約20センチ置きに敷き詰められ、階段のようになっている。
四つんばいで急勾配に挑む記者
レースを踏破して喜ぶ記者
残りおよそ100メートル。しかし頂上が遠い。心が折れそうだったので上はあまり見ないようにした。中盤で勾配が再び急になり、木枠に足だけではなく手もかけて登った。「お疲れさまです。あと少しです、頑張りましょう」。他の挑戦者が声をかけてくれるが、返事をする余裕がなかった。
ようやく踏破してクッションに倒れ込むと、両足全体が熱を持っているのが感じられた。急激に心肺に負荷がかかったせいか、しばらくせきが止まらなかった。他の参加者も同様だ。医務室では点滴を受けている人もいた。タイムは7分13秒で、同じ組で出走した57人のちょうど真ん中だった。
▽レース前に襲われる後悔。それでも「出し切った」と言える日にしたくて
女子シングルで優勝した沢田愛里さん
124人が出場した女子シングルは、札幌市の会社員沢田愛里さん(44)が5分5秒で2度目の頂点に立った。「1回目の時は無欲で優勝してしまった。今回はつかみにいったので、すごくうれしい」
沢田さんによると、趣味の山登りとは違い、ゴール地点がはっきり見えることがこのレースの魅力だという。短時間でも段階があり「前半、中盤、後半で走路の感覚が全く違うので、全て攻略するのが面白い」と強調した。
708人が参加した男子シングルを3分35秒で制した札幌市のクロスカントリースキーヤーで陸上自衛官の田中聖土さん(29)も「めまぐるしく変わる斜度に合わせた走法で対応する必要がある」と口をそろえる。
男子シングルで優勝した田中聖土さん
最も急な100~200メートルで体力を使い切るため、次の100メートルは傾斜が少し緩やかになっても体は追い込まれる。「周囲も疲れている中、ここで頑張れるかどうかがタイムに出る」と話す。最後の100メートルは動かなくなった足で階段を上らなければならない。過去4回出場した経験から、それぞれの区間で体力をどこまで温存するか、ぎりぎりのラインでテンポや歩幅をコントロールしているという。
田中さんは出場前、今回を最後に引退も考えていたという。あまりのつらさから、毎年2週間前になると「なぜエントリーしてしまったのか」という後悔に襲われるそうだ。それでもなお引かれるのは「短時間で自分の限界の先に行けるのが魅力。『出し切った』と言える日にしたいから」だといい、4連覇を果たした気分を問われると「最高です」とさわやかな笑顔を見せた。
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