石垣島に残る巨石の謎を追った郷土史家の著書「明和大津波」が天皇陛下の目に留まった訳は
47NEWS / 2024年6月22日 10時0分
天皇陛下は一人の郷土史家に光を当てられたことがある。
江戸時代に沖縄・先島諸島を襲った「明和の大津波」を、丹念なフィールドワークで調べ上げた沖縄県石垣市の故牧野清さん(1910~2000年)だ。
過去に学び、未来に生かす。牧野さんの姿勢は、防災に対する陛下の思いと一致する。足跡をたどると、皇室とのつながりが見つかった。(共同通信=田中真司)
▽1冊の本
「『津波石』の存在は、石垣市の職員であった牧野清氏が職務の傍ら現場に赴き、石垣島に残る津波石と推定された岩塊の分布を克明に調べ、1冊の本にまとめたことによって、広く知られることとなりました。災害を歴史から学ぶ先駆となった事例といえましょう」
2021年6月、陛下はオンラインで参加した「国連水と災害に関する特別会合」で基調講演をし、牧野さんの事績と著書「八重山の明和大津波」を紹介した。
地震による津波は1771(明和8)年に起きた。犠牲者は約1万2千人。このうち石垣島では約8400人が亡くなり、当時の人口に対する死亡率は約48パーセントに上った。
そして今も各地には、津波によって海から陸に運ばれた巨石「津波石」が残っている。津波石は元々、海にあったサンゴやその化石などの岩石で、大きいものは重さ200トンを超え、「明和の大津波」より昔の津波で運ばれたものもある。石垣島の東側海岸に点在する五つは「津波石群」として国の天然記念物にもなっている。
明和の大津波によって運ばれたとされる「津波石」=2023年6月、沖縄県石垣市
この大災害の痕跡を追い続けたのが、牧野さんだった。
専門知識はなかったが、石垣市助役の傍ら、休日に島中の津波石を調べ、地図に落とし込んだ。被害を記録した古文書を読み解き、島に残る多くの口承を聞き取った。
地道なフィールドワークは、1968年に自費出版した約450ページの本に結実した。
被害の詳細、津波の高さや浸入経路の復元にとどまらず、長く人口が回復しなかった石垣島の様子や防災にまで言及。島では衛生環境が悪化したことに加え、被害を受けた田畑の土地が衰え、飢饉が起きたり疫病がまん延したりしたと指摘した。
「将来に生かすべきである」。牧野さんは本の中で、こう思いをつづっている。
「明和の大津波」を語る上で不可欠の文献となり、今でも専門家の研究を支える。陛下は講演で「歴史の記録と、物的証拠などをつないで過去の自然災害の実態を明らかにしようとした試み」と高く評価した。
▽皇室へ届ける
著書を出版した牧野さんは、もう一つの行動を起こす。「役に立てば幸い」として、国内の沿岸部の自治体に自腹で本を送り続けた。
長男光博さん(84)は作業を手伝い、何度も郵便局に向かった当時を覚えている。
故牧野清さんの写真を手にする長男の光博さん=2023年6月、沖縄県石垣市 (1)
犠牲者の鎮魂のために「慰霊之塔」の建設にも奔走した。現在は毎年、慰霊祭が開かれ、後世に語り継ぐ場になっている。
牧野さんには、光博さんも知らなかった皇室との関わりがあった。
石垣市立図書館に、皇太子時代の上皇さまの側近トップ鈴木菊男東宮大夫が、牧野さんに宛てた1通の手紙が保管されている。
「皇太子殿下へ献上の下記の品はお手許へ差し上げましたので御通知いたします。 記 『八重山の明和大津波』 1冊」
鈴木菊男東宮大夫から故牧野清さんに宛てた手紙(石垣市立図書館所蔵)=2023年6月
手紙の日付は、本の出版年と同じ1968年の10月30日となっている。
牧野さんがなぜ皇室に献本したのか、光博さんに思い当たる節はなく、首をかしげるばかりだ。本がその後、皇室でどのように利用されたかも分からない。
だが、陛下は講演で牧野さんの業績に触れ、その存在を知っていた。光博さんは「防災に活用したいという父の願いが、どこかで陛下に伝わったのだろう」とほほ笑んだ。
陛下は2023年6月、即位後初めて東日本大震災の被災地に入り、感想を公表した。「事実と教訓、体験や復興への思いを後世に伝えていくことの大切さを感じました」。防災にかけた牧野さんの思いとつながった。
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