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情報爆発の時代、図書館はどこへ…シンガポール、デジタル化とAIで革新 たった1分で物語を生成したり、3Dプリンターを使えたり

47NEWS / 2024年6月29日 10時0分

巨大パネルに映された、生成AIが作成した物語や画像=2024年3月、シンガポールの中央図書館(共同)

 情報が爆発的に増える時代、図書館はどうなるのだろうか。シンガポールがデジタル化と生成人工知能(AI)を通じ、図書館の革新に取り組んでいる。


シンガポール

 人口が少なく、資源に乏しいシンガポールは人材育成を重視し、経済成長につなげてきた。図書館を身近にして読書体験を後押しし、デジタル時代に応じた国民の能力や可能性の底上げを狙う。(共同通信シンガポール支局=角田隆一)

 ▽物語創造

 「すごい」。暗がりの中、物語AI体験室で子どもたちの興奮した声が聞こえる。音楽とともに、壁一面の巨大パネルにタイトル、物語の「起承転結」をそれぞれ示した計5枚の絵本風の静止画像が浮かび上がる。画面の下には英語で物語の筋が書かれている。物語も画像も生成AIが作り出した。宇宙船にいる犬が主役のようだ。


 2024年3月中旬、英語塾講師のアニタさん(40)は子ども2人とシンガポール中心部の中央図書館を初めて訪れた。「英語の語彙が子ども用によく選ばれている。(発行される)QRコードで家でも見ることができるのがいい」。この日、2人の子どもは6回以上物語を生成した。
 国立図書館局は1月、シンガポール中心部の地域図書館に物語生成AIの体験室を公開した。まず専用タッチパネルで、赤ずきん、地元の民話など六つの物語から大まかな話の型を選ぶ。さらにアクションやファンタジー、コメディーなどジャンルを選択し、宇宙や都市といった舞台に加え、性別や世代、動物など主役の特徴のほか、大団円か悲劇的かなど結末のパターンを選ぶ。これを基に生成AIが新たな物語を編集。1分ほどすると、物語が画面に映し出される。


生成AIで物語を作る際に主役の特徴や舞台設定などを選ぶタッチパネル画面=2024年3月、シンガポールの中央図書館(共同)


巨大パネルに映された、生成AIが作成した物語や画像を見る女性=2024年3月、シンガポールの中央図書館

 開発を支援した米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のエルシー・タン氏は「読書と創造する楽しさを知ってもらう」きっかけになってほしいと語る。図書館局では、通話アプリWhatsApp(ワッツアップ)などを通じて対話型AIと本の内容をやりとりできるといった複数のAI関連サービスを開発中だ。

 ▽図書館の新たな道


シンガポール中心部の中央図書館で、公開された物語AI体験室を視察するテオ情報通信相(左、役職名は当時)=2024年1月

 シンガポールはデジタル時代に図書館の在り方を刷新する5カ年計画「LAB25」を2021年に公表した。背景について、今年1月のイベントでテオ情報通信相は「巨大IT企業が世界を制し、コンテンツが増え続ける中、図書館は学び、つながる新たな道を見つける必要がある」と説明した。
 デジタル化は読者の利便性向上と効率運営に欠かせない。図書館局傘下の28の地域図書館では会員登録も貸し出しも、スマートフォン用の図書館アプリで完結する。アプリで地元紙の閲覧や学習室の席の予約も可能。イベントの告知、貸し出し履歴によるおすすめの本も示してくれる。
 世界最大級の米図書館アプリ「リビー」とも連携。リビーではオーディオブックを含め計約170万冊の電子書籍や、世界各国の2千以上の雑誌電子版を、バックナンバーを含め借りられる。国民であれば、海外からも利用でき「在外留学生にも好評だ」(関係者)。


シンガポール中心部の国立図書館=2024年3月

 日本の電子出版制作・流通協議会(東京)によると、日本の自治体の公共図書館の電子書籍サービス導入率は29・9%(今年1月時点)。人口と国土が小さいシンガポールはもちろん、電子書籍サービスを9割導入済みの米国の公共図書館より、大きく後れを取っている。
 日本の場合、国立の事実上の中央図書館として機能している国立国会図書館は国会の所管だ。一方で公共図書館は文部科学省の所管となる。国会図書館も公共図書館を支援するが、直接的な指示系統はなく制度的な限界がある。
 協議会の長谷川智信氏は「多くの人が紙媒体ではなくインターネットで情報に触れる。ただネット上には信頼できる情報が少ない。図書館の電子書籍サービスの導入で、ネットで信頼性の高い情報へのアクセスが向上し、デジタル時代にふさわしいリテラシーを身につけることができる」と図書館デジタル化の利点を指摘する。

 ▽学ぶ場として進化


シンガポールの中央図書館。各地域図書館には独自に企画や地域の歴史を学ぶコーナーがある=2024年3月

 デジタル化が進めば、「場」として図書館の意味合いも変わる。日本を含め、世界各国では図書館の利用者数が減少傾向だが、シンガポールでは図書館への訪問者数増加に向け布石を打つ。
 昨年開館したシンガポール北東部プンゴルの地域図書館には3Dプリンターなど最新の工作機械を利用できる施設がある。起業家や個人事業主を支援するため専門家への相談が無料で、経営講座も開催。個人契約では高価な内外の約70の市場調査会社のデータを使える。
 図書館局のジェネ・タン首席司書兼最高革新責任者は起業家に限らず「コンテンツ選びや体験講座、相談サービスを通じて、利用者の学びを支援したい。誰もが学習できる、親しみやすい空間を提供する」と強調する。


シンガポールの都市鉄道の駅のホームに掲げている電子書籍のポスター。国立図書館のアプリでQRコードを読み込むとレンタルできる=2024年3月

 図書館へ呼び込む仕掛けも島内に張り巡らす。シンガポール各地のショッピングモールや駅などに「ノード」と呼ばれる小さなスペースの臨時の無人図書館や、QRコードで電子書籍を借りられるポスターを期間限定で設置し、図書館との接点を増やしている。タン氏は「デジタル化は読書や学習の在り方を変える。体験をより豊かにするために、図書館も変化しなければならない」と指摘した。
 日本でも地域によっては図書館を地域活性化の核として据える自治体が増えている。駿河台大の青野正太助教(図書館情報学)は、情報があふれる時代に確度が高い情報に触れられる図書館の役割は重要性を増すとした上で「新たな取り組みについて、公共図書館同士の情報共有が重要になる。地域の実情や住民のニーズに沿った情報発信や図書館の在り方を模索しなければならない」と話した。

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