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JR東海支援のテキサス新幹線、親日アムトラック副社長が明かした「名称案」 車両は「日本メーカーが製造」、単独インタビューで明言 連載『鉄道なにコレ!?』(第65回)

47NEWS / 2024年7月18日 10時0分

インタビューに応じる全米鉄道旅客公社(アムトラック)のアンディ・バイフォード上席副社長=2024年5月13日、アメリカ首都ワシントン(共同)

 JR東海や全米鉄道旅客公社(アムトラック)などが支援するアメリカ南部テキサス州の新幹線計画を巡り、担当するアムトラックのアンディ・バイフォード上席副社長が単独インタビューで「2030年代前半に開業する可能性はある」との見通しを示した。総事業費は300億ドル(1ドル=160円で4兆8千億円)を超えると試算しており、資金調達が依然大きなハードルだと認めながらも「実現できると確信している」と強調。「日本が大好きだ」と公言する親日のバイフォード氏は東海道・山陽新幹線と西九州新幹線で運行しているN700Sをベースにした車両を導入して「日本メーカーが製造する」と明言した。検討している路線の名称案も明らかにした。(共同通信=大塚圭一郎)

※筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴き下さい。

  【アンディ・バイフォード(ANDY BYFORD)氏】1965年生まれ。イギリス・プリマス出身。公共交通機関の運営を立て直し、鉄道好きでもあることから鉄道ファンらから「TRAIN DADDY(鉄道のパパ)」の愛称で親しまれている。 カナダの最大都市トロントの都市圏で地下鉄や路面電車、路線バスなどを運行するトロント交通局(TTC)の最高経営責任者(CEO)を務めていた2012~17年には「トロントが誇りを持つ交通システム」の実現を標榜。車両更新や、ICカード乗車券「PRESTO(プレスト)」の普及などを進め、17年にTTCの利用者満足度が77%と12年の73%から向上した。TTCは17年にアメリカ公共交通協会(APTA)の最高賞「APTAトランジットシステム・オブ・ザ・イヤー」を受けた。

 アメリカ最大都市ニューヨークの地下鉄や路線バスを運行するニューヨーク市交通局の総裁在任中の2018~20年には地下鉄の定時到着率を58%から80%超へ改善させた。ロンドン鉄道交通庁総裁を経て、2023年4月から現職。


テキサス・セントラル・パートナーズ(TCP)が手がけるテキサス新幹線の路線イメージ(茶色の線、TCPのホームページ、共同)

 ▽最高時速330キロで片道1時間弱

 テキサス新幹線計画は、地元民間企業のテキサス・セントラル・パートナーズ(TCP)が手がけている。予定では、テキサス州の主要都市ダラス-ヒューストン間(約385キロ)に専用軌道を敷設。N700Sをベースにした車両を運転し、最高時速330キロで走らせて片道1時間半弱で結ぶ。

 往来が多い大都市間の大量輸送が可能となり、地球温暖化につながる二酸化炭素(CO2)排出量を旅客機やマイカーに比べて低減できるのが利点だ。中間駅を一つ設け、近くにあるテキサスA&M大学の学生や教職員らが使うことを想定している。


テキサス新幹線のダラス駅プラットホームの完成イメージ(TCPのホームページ、共同)

 ▽「日本連合」を組成

 この計画は東海道新幹線(東京―新大阪間)を運行するJR東海が2010年に発表した高速鉄道の海外事業展開の一環で、新幹線技術の輸出に向けて「日本連合」が組成された。日本国有鉄道(国鉄)の分割民営化で中心的な役割を果たした「改革3人組」の1人で、当時JR東海会長だった葛西敬之氏(22年5月死去、本連載第31回参照)の「肝いりのプロジェクト」(JR東海関係者)と位置付けられ、日本メーカーの日立製作所と三菱重工業、NEC、東芝も支援を表明した。

 日本の官民ファンドの海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)も2015年11月、TCPへの約49億円の出資と最大3億2750万ドル(1ドル=160円で約524億円)相当の社債引き受けを決めた。 私が2015年12月に電話インタビューをしたTCP最高経営責任者(CEO、当時)のティム・キース氏は「2021年に営業運転を始めたい」と意欲を示していた。


東海道新幹線を走るN700S=2024年5月27日、東京都大田区

 ▽アムトラック支援で前進

 しかし、実現には数々の難題が立ちはだかり、スケジュールは遅れを繰り返した。直近の開業目標は2026年に設定されたものの、実現は絶望的になっていた。

 先行きの不透明感が増して一時は運輸業界関係者から「暗礁に乗り上げた」との観測も出ていた中で、前進を印象づけたのが2023年8月のアムトラックの支援表明だった。全米で都市間鉄道を運行するアメリカの代表的な鉄道会社だけに、JR東海は共同通信への声明で「アムトラックには米国での鉄道プロジェクト整備で豊富な経験・実績があり、参画は計画推進に大きなメリットが期待できる」と歓迎した。

 公共交通機関の立て直しで手腕を発揮し、2023年4月にアムトラック上席副社長に就いたバイフォード氏が担当することも機運を盛り上げた。バイフォード氏が今年5月13日、アメリカの首都ワシントンのアムトラック本社でインタビューに応じてくれた。


テキサス新幹線のダラス駅コンコースの完成イメージ(TCPのホームページ、共同)

 ▽「早ければ30年代前半」に軌道修正

 バイフォード氏はTCPが掲げていたテキサス新幹線の2026年の開業目標は実現不可能なのを認めた上で、早ければ「2030年代前半ならば依然可能性がある」と軌道修正した。早ければ30年代前半に営業運転を始める可能性を言及したのは初めてで、バイフォード氏は「実現に向けたチャンスを最大化させるために戦略を構築していく」と説明した。

 バイフォード氏は指揮を執ってきた公共交通機関で運営を立て直すためにタイムラインを策定し、まるでジグソーパズルの欠けたピースをはめるように課題点をクリアしてきた。 テキサス新幹線計画でも課題を地道に解決していく方針で、最大のハードルとなっている資金調達では「連邦政府と民間企業、外国からの投資なくして前進するとは思えない」と官民双方が幅広く出資を受けることを目指すと表明した。

 地元のテキサス州は公共交通機関の整備に消極的な共和党が優勢だが、バイフォード氏はダラス、ヒューストン両市からも「非常に強い政治的支援を受けている」と言及。「時間とともにいくらかの財政支援に発展する可能性もある」と期待を示した。


アムトラックのワシントン―ボストン間を結ぶ高速列車「アセラ」=2024年5月4日、メリーランド州(共同)

 ▽新幹線導入で「日本と同等の信頼性と安全性」

 また、バイフォード氏は実現性を高めるためには「きちんと機能する商品を買うことが重要だ」とし、その方法として「日本の(新幹線)技術を採用する」と明言した。日本の新幹線は「輝かしい信頼性と安全運行の実績を持っている」と評価し、テキサス新幹線にも導入することで「日本と同等の信頼性と安全性を確実にする」と訴えた。

 使うN700Sをベースとした車両は「当初は日本で造られると思うが、その後は雇用を創出するためにアメリカでの生産に移行することを望んでいる」と説明。テキサス新幹線計画への支援企業には新幹線車両を造ってきた日立製作所も名を連ねているが、発注するメーカーは「現時点ではコメントできない」と話すにとどめた。


アムトラックの路線図。赤色の線が鉄道で運行している路線(アムトラックのホームページ、共同)

 ▽明かした名称案は

 テキサス新幹線計画は、テキサス州とJR東海(英語名はセントラル・ジャパン・レールウェイ)を組み合わせた「テキサス・セントラル」の事業名で呼ばれている。「アムトラックは非常に力強いブランドだ」と主張するバイフォード氏は、支援するアムトラックのブランドを冠してテキサス新幹線を運行することを検討していると明らかにした。

 アムトラックはニューヨーク経由でワシントン―ボストン間を結ぶ高速列車の「アセラ」をはじめとする主要列車に名前を付けている。 テキサス新幹線の呼称は「未定だ」と前置きしつつ、「『アムトラック・テキサス・セントラル』とすることも可能だ」との認識を示した。この方法ならば地元テキサス州と支援するアムトラック、JR東海のいずれの名前も盛り込まれ、利害関係者の顔が立つ。

 バイフォード氏は「利用者からはとても有名で、アメリカの象徴的な存在であるアムトラックの路線網の一部として運行すべきだ」と提言。「列車の側面に『アムトラック』の名前が記されるようになることを期待している」と語った。


アメリカ東部メリーランド州を走るアムトラックの列車=2024年5月4日(共同)

 ▽切符はアムトラックのアプリで

 テキサス新幹線の発券・予約システムには「アムトラックのシステムを使う」と明言。アムトラックのスマートフォン向けアプリで切符を買えるようになるとの見通しを示し、「シンプルで、うまく機能するサービスを使うべきだ」と強調した。

 アムトラックは途中でテキサス州内の大都市のダラス、フォートワース、州都オースティンにも停車する中西部イリノイ州シカゴ―テキサス州サンアントニオ間の夜行列車「テキサスイーグル」を走らせている。

 バイフォード氏は「オースティンやサンアントニオなどと結ぶ列車も増やしたい」と述べ、テキサス新幹線と乗り継いで移動するのも可能になるとの見通しを示した。


アメリカのドナルド・トランプ前大統領(ホワイトハウス提供、共同)

 

 ▽「もしトラ」のリスクも

 アメリカ当局は今年4月、運輸省と日本の国土交通省が「新幹線技術を活用したテキサス・セントラル計画をアムトラックが主導することを歓迎した」と公表した。アムトラックの担当幹部のバイフォード氏がテキサス新幹線計画を推進するキーパーソンとなり、実現に向けた動きが加速するとの見方が出ている。

 それでも、肝となる資金調達などの課題を乗り越えられるかどうかは依然不透明だ。バイデン氏は36年間の連邦上院議員時代に往復約3時間かけてアムトラックで通勤し、車掌や他の利用者らと親交を深めて「アムトラック・ジョー」の愛称を持つ理解者だ(本連載第15回参照)。

 バイデン氏は高速鉄道の整備で「中国に後れを取っている」と問題視しており、推進に向けて連邦政府資金を順次割り当てている。アムトラックが主導して進められるテキサス新幹線計画も、本格的な支援を受けられる可能性を秘める。

 しかし、11月の大統領選で民主党候補のバイデン氏と争う共和党候補のドナルド・トランプ前大統領が当選する「もしトラ」がリスクとなり得る。トランプ氏は「地球温暖化は中国のでっち上げだ」と温暖化に懐疑的な立場を取っており、温暖化対策のために公共交通機関の整備を促進するとのマインドは望み薄だ。

 バイフォード氏は「力強い事業を構築し、アメリカで雇用を創出して経済成長をもたらすことができれば、どんな党派の政治家にも受け入れられる」と期待する。だが、型破りなトランプ氏のも通用するかどうかは見通せず、アムトラックのバイデン政権との距離の近さがマイナスに働く可能性も否定できない。

 民間からの資金調達に関しても、アメリカの金融関係者は「投資家は米国の旅客鉄道は利益が出ないと受け止めており、恒常的な赤字で補助金頼みのアムトラックが協力しても説得力がないため資金調達は依然困難だろう」と否定的だ。実際、アムトラックは2023年9月期決算(23年9月末までの1年間)の本業のもうけを示す営業損益が18億4千万ドル(1ドル=160円で2940億円)の赤字となり、赤字額は新型コロナウイルス禍の影響が続いていた前期(18億3100万ドル)からさらに膨らんだ。

 日本が誇る新幹線を世界最大の経済大国のアメリカで走らせる壮大な計画の実現には難題は多く、高速列車のようなスピード感で進まないことは確かなようだ。


アムトラックのアンディ・バイフォード上席副社長=2024年5月13日、ワシントン(共同)

 ※『鉄道なにコレ!?』とは:鉄道に乗ることや旅行が好きで「鉄旅オブザイヤー」の審査員も務める筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。鉄道以外の乗り物の話題を取り上げた「番外編」も。ぜひご愛読ください!

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