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ウクライナが核攻撃されれば米国はどう報復するか 通常兵器で直接攻撃も、ロシアの演習で高まる緊張

47NEWS / 2024年7月8日 10時30分

戦術核兵器の使用を想定した演習のため、整備されるTu22M3戦略爆撃機。ロシア国防省が5月21日、画像を提供した(AP=共同)

ウクライナへの侵攻を続けるロシアの核兵器使用への懸念が再び、高まっている。5月には戦術核使用を想定した演習を実施、ウクライナを支援する欧米へのけん制を強めたが、米国はロシアの核使用に対し、どのような報復策を想定しているのだろうか。検証した。(共同通信=太田清)

 ▽反発

 ロシア国防省は5月21日、侵攻の拠点となっている南部軍管区で演習の第1段階を開始したと発表した。
 演習では核弾頭搭載可能な弾道ミサイル「イスカンデル」を運用する部隊が「特殊弾薬」を装備して移動する訓練や、空軍部隊が極超音速ミサイル「キンジャル」に「特殊弾頭」を装備して出撃する訓練を実施。軍が発表した「特殊弾薬」「特殊弾頭」は、戦術核を意味する可能性がある。


戦術核兵器使用を想定した演習で、弾道ミサイル「イスカンデル」を積み込む兵士。ロシア国防省が5月21日、画像を提供した(AP=共同)

 6月10日にはロシアの同盟国であるベラルーシも、演習の第2弾に参加したと発表。同国には昨年、ロシアの戦術核兵器が配備された。ソ連崩壊後にロシアが他国に核を配備する初のケースとなった。
 ロシアは、同国領内へのウクライナの反撃を容認する西側の動きや、ウクライナへの地上部隊派遣を示唆する発言を繰り返すフランスのマクロン大統領に強く反発。演習はこうした西側の対応へのけん制とみられる。

 ▽「一掃する」

 こうした中、北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるポーランドのシコルスキ外相は、5月25日掲載された英紙ガーディアン(電子版)とのインタビューで、核兵器によるロシアの威嚇行為について触れ、ロシアが実際に核兵器を使用した場合、米国は既にその対抗策をロシア側に伝えていることを明らかにした。


ポーランドのシコルスキ外相。6月11日撮影(ゲッティ=共同)

 それによると、NATOは「ウクライナ領内に展開するロシア軍部隊すべてを、通常兵器を使って攻撃し、一掃する」方針で、「ロシアの核攻撃で誰ひとり死ななかった場合」でも、攻撃を実行する構えだと強調した。
 同外相はさらに「(侵攻に中立的立場を取る)中国、インドも核使用に対する警告をロシアに伝えた」とした上で、特に中国について「核使用のタブーが破られれば、日本と韓国が核武装に向かうだろうことを知っており、中国はそれを望んでいない」と述べ、中国が東アジアでの核軍拡への懸念からロシアの核使用に強く反対するだろうことを示唆した。
 これに対し、ロシア前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長は即座に反応。SNSで「ポーランドよりずっと慎重な米国はそんなこと(通常兵器での攻撃)は言っていない」とシコルスキ外相の発言を否定。
 その上で「米国によるロシア軍への攻撃は世界大戦の始まりを意味する」と強調。ポーランドのドゥダ大統領が今年4月、有事に米国の核兵器を共同運用する「核共有」を自国に受け入れる考えを表明したことにも触れ、「ワルシャワも放射性物質の死の灰に見舞われることになるだろう」と逆にポーランドを威嚇した。

 ▽対応

 シコルスキ外相の発言は、ロシアの核使用に対するNATOの対抗策に関して重要な意味合いを含んでいる。
 ロシアのウクライナでの核使用に対して、NATOの選択肢は①同様の手段、つまり核兵器で報復する②核兵器を使わないものの、ロシア軍を通常兵器で直接攻撃し、戦闘状態に入る③ロシアとの直接の戦闘を避け、ウクライナ軍への支援を強化する―などのシナリオが想定されていたが、同外相の発言が事実とすれば、米国がロシアへの通常兵器による攻撃方針に傾いていることを意味している。
 米CNNテレビなどによると、米政府は2022年後半、ウクライナ東部ハリコフや南部ヘルソンを奪還されるなど劣勢になったロシア軍が、ウクライナで低出力の戦術核兵器を使用することに警戒を強めていた。
 バイデン米大統領は同年9月、米CBSテレビの報道番組「60ミニッツ」に出演し、ロシアの核使用に対する対応を尋ねられ「ロシアはますます国際社会ののけ者になるだろう。彼らがどの程度のことをやるかに応じて、われわれの対応も決まってくる」と明言を避けた。


バイデン米大統領、6月18日撮影(ゲッティ=共同)

 一方、イラクやアフガニスタンでの多国籍軍司令官や米中央情報局(CIA)長官などを務めたデービッド・ペトレアス米退役陸軍大将は同年10月、米ABCテレビに対し「仮定の話だが、ウクライナやクリミア半島、黒海に展開するすべてのロシア軍部隊を排除するNATOの作戦を率いることになるだろう」と、ロシアとの通常兵器による戦闘の可能性を示唆した。
 同氏によると、ウクライナはNATO加盟国ではないため、北大西洋条約第5条に基づく集団的自衛権の対象とはならないものの、核爆発による放射性物質降下が加盟国への攻撃と解することも可能である上に、「(核攻撃が)あまりに恐ろしいことであるがために、米国が対応しないことはあり得ない」という。


ペトレアス元CIA長官。2016年11月撮影(ロイター=共同)

 ▽核で報復せず

 米政権内にはもともと、ロシアの核攻撃に対して即座に核で報復せず、通常兵器で対応すべきとの意見が根強かった。
 オバマ政権時の2016年、米国の国家安全保障に関する最高意思決定機関の一つで、大統領への諮問機関である国家安全保障会議(NSC)はロシアの核使用に対する机上演習を実施した。
 米国のオンライン誌スレートの記者フレッド・カプラン氏の著書「The Bomb(爆弾)」によると、演習の想定は以下のようなものだった。
 2014年のクリミア編入後、ウクライナ東部での戦闘への介入を続けるロシアが、隣接するバルト3国の一つに侵攻。対抗するNATO軍との戦闘で劣勢となったロシアが、敵に戦闘停止を強要するため、NATO軍、もしくはドイツの軍事基地に低出力の戦術核兵器を使用した―。
 最初に行われた国防総省を含む各省庁の次官級会合では、ロシアへの核報復は強力な制裁措置より効果に乏しく、核使用の閾値を下げるマイナス面がある一方、核による反撃を自制することで、ロシアを孤立させ政治・経済的打撃を与える絶好の機会となるとの主張が優勢となり、通常戦力により反撃すべきとの結論に落ち着いた。
 最終的に参加者のレベルを上げた閣僚級会合で、核報復しなければ米国の「核の傘」に対する同盟国の信頼が失われるとの主張が勝り、ロシアの同盟国ベラルーシに核攻撃するという結論に至った。
 しかし、NATO軍、もしくは加盟国であるドイツへの核攻撃の場合ですら、通常兵器のみで対応すべきとの主張が米政権内にあったことが明らかになった。

 ▽世論


ウクライナ東部ドネツク州バフムト近郊で、フランス製の迫撃砲を発射するウクライナ兵=5月22日(AP=共同)

 ロシアの核攻撃への対応について、一般市民はどう考えているのか。米国そのものではないものの、同盟国であり、軍事作戦で米国と歩調を合わせることが多い英国の世論調査結果が出ている。
 英国を拠点とする市場調査・データ分析専門会社「YouGov」は今年2月、ロシアの核攻撃についてオンラインでの調査結果を公表。
 ウクライナの軍事施設に対して、ロシアが低出力の核で攻撃した場合、どのように対応すべきかとの問いに対し、核で報復すべきとの回答は7%に過ぎず、宣戦布告して通常兵器で攻撃すべきとするのは21%、最多は「宣戦布告に至らない何らかの行動を取るべき」で36%だった。
 対象が英国の都市になると当然ながら、核報復すべきとの声は27%まで高まり、最多は宣戦布告の31%、「何らかの行動を取るべき」は17%だった。

 ×  ×  ×
 低出力の戦術核兵器 一般に戦術核兵器はTNT換算で数キロトンから数十キロトンと破壊力も比較的小さいほか射程も短く、地域レベルの戦場での使用を想定した核兵器を指す。低出力の核兵器はこれよりもさらに破壊力を抑えた兵器。独立系メディア「メドゥーザ」によると、ロシアが所有する戦術核は推定約800~1900発と幅があるが、運搬手段であるロケットの数を考慮すると、実際に使えるのは520~550発以下とされている。

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